今夜金ロー『ヱヴァンゲリヲン:序』 シンジくんが聴いていたカセットテープの謎
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』。旧TV版のリメイクから始まって、徐々に物語がずれていくのが最大の見所。次週の『破』とあわせてみて、劇場で『Q』を見よう! ところでシンジ君がずっと聞いていたあのウォークマン、一体どんなものなの?

今夜の金ローは『ヱヴァンゲリヲン:序』

きょう夜9時からの『金曜ロードSHOW!』は、3週連続『エヴァンゲリオン』シリーズの第1弾『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 TV版』を放送。過去に『:序』について執筆した、ライターたまごまご氏のレビューを改めてお届けします(2012年11月9日掲載時のまま再掲)。

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心を閉ざしたシンジ君の象徴として描かれるのがカセットテープ

ねえねえ、エヴァだったら、レイ派? アスカ派? マリ派? ミサトさん派?
ぼくはねぇ、アスカ派!
17年越しの恋をしています。届きません。


『:序』『:破』『:Q』。タイトルは、雅楽や能や剣術などで使われる「序破急」からのもの。でもここで終わらず2013年に『?』が公開されるのがエヴァ流。謎かけてきますねえ。

今晩放送される『序』は、1995年放送のテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のヤシマ作戦までを、アレンジしながらリメイクした作品。最序盤こそテレビと似ていますが、どんどん話は変わっていき、クライマックスのラミエル戦では全く別のものになっています。
ラミエルはTV版では第5使徒。新劇場版では第6使徒です。アスカは出て来ません。

新劇場版のシンジ君の最大の特徴は、前向きで、困難に挑む少年になったこと。いやそりゃTV版の時から、ありえないような条件を提示されて死の危険と隣合わせで戦うとか、おっかねーんですよ。そりゃ逃げるよ。


けれども、劇場版ではさらに過酷に彼が向かい合っている状態をリアルに描写し、それでもなお顔をあげるようになったシンジが描かれます。特に『序』では、「逃げてイイ、はやく逃げて!」と思うくらいまで追い詰めてきます。旧TV版を見ていたファンからは「あれはシンジくんじゃなくて『シンジさん』だ」と、劇場公開時にネットで言われていたものです。

そんなシンジくんでも、『序』の最初ではまだ心を閉ざしたまま。その象徴として描かれるのが彼の聞いているカセットテープです。

で、今日の放送でぜひ見てほしいのですが、彼が何を聞いているかというと、S-DATなんですよ。
「Super Digital Audio Tape」。これ自体は架空のものなんですが、元になっているのはデジタルオーディオテープ、通称DATです。プレイヤーは、ソニーの「WMD-DT1」がモデルだと思われます。

まあ、ぶっちゃけ今は家庭用のDATは生産中止されていて、ほぼないです。当時でもDATを普段から聞いていた中学生、なんてほとんどいなかったはず。面白いのは、TV版では25・26トラック目を繰り返し何度もリピートし続けているということ。
これは『序』でも同じなんですが、『破』でマリと出会うことで、まさかの27トラック目へと解放。多くのファンを驚かせました。
 

シンジ君が持っているDATは“大嫌い”なゲンドウのもの?

ところで、デジタルテープ、DATってなんぞや。デジタルテープとは、高音質での録音と再生ができる、デジタル録音のため劣化がないテープとして1987年に規格化され、発売されたものです。ようするに、当時としては次世代を担うであろう音響機器になるはずでした。非常に高性能で、サンプリング周波数はCD以上。
録音も再生もできる機械となるとどえらい額になりました。

シンジが持っていた元のモデル「WMD-DT1」が実際に5万近くしたといえば、いかにあれが高級かわかると思います。カセットウォークマンの5倍近い値段です。今のiPodなどと比べても遥かに高い。しかもあれ、再生専用機で録音できないのだぜ。再生専用DATウォークマンは、この「WMD-DT1」一種類のみです。
もう完全に、家庭用としてはオーバースペックです。

通常DATはプロの現場で広く活用され、特に劣化のしづらさもあってマスターテープ用に利用されることが主流でした。家庭で使っていたのは、ごく一部の趣味層くらい。当時を経験した人でもDATを見たことがない人は多いはずです。

しかし、CDと同じ、あるいはそれ以上の音質のため、完全複製ができてしまう、という理由で著作権上の問題が発覚。けっきょくCD音質の録音はできないようになってしまい、ほとんど家庭用としては普及しませんでした。

しかしプロユーズとしてはどんどん普及していき、パイオニアからは96kHz(CDは44.1kHz)のハイサンプリング録音ができる機種も出ています。

1992年以降は、MDが安くて高品質、しかも劣化しないメディアとして爆発的に普及しました。加えてパソコンの普及により、CD録音も一般化。こうなってくるとDATを家庭用で使う意味がほとんどありません。2000年代にはMP3やWMAプレーヤーも安価で入手できるようになり、一般用のDAT再生機は2005年を最後に生産・販売終了します。デジタル録音の技術が進歩し現在はほとんどが生産終了。業務用に一部残っているかどうか。

ん? エヴァンゲリオンTV版が放映されたのが1995年。その時期にDATを持っているって、シンジ君少し妙ですね。セリフをよく聞いていただければわかりますが、このデジタルテーププレイヤー、シンジの父、ゲンドウが使っていたものです。あんなにもお父さん大嫌い発言をしていたシンジですが、ずっとそれを聴き続けている……それが外界との隔絶だとしても……というのはなんとも面白いところ。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版 完全補完文書』ではこれを「『期待された新世代』が『期待に応える間もなく』『旧世代』になったという隠喩、あるいはテープという『循環する物』からディスクという『循環から解き放たれた物』へ世代が移り代わるという隠喩」だと書いています。

もちろん推測の域の話なんですが、確かに21世紀の新劇場版でまで、持っているはずのないDATを持っているのには意味がありそうです。ましてや27トラック目に移っているのですし。

この本では、シンジのS-DATプレイヤーに入っている曲や、その他のBGMについても記述されています。

・「You are the only one」
・「蒼いレジェンド」
・「FALL in STAR」

この3曲は1992年キングレコード発売ファルコム制作のゲーム『Ys イース』のスピンアウトボーカルアルバム『Lilia〜from Ys〜』のもの。歌っているのはOVAのヒロインのリリア役の三石琴乃。エヴァンゲリオンでは葛城ミサト役です。

「You are the only one」はミサトとシンジが買い物に行った時にローソンでかかっている曲。「FALL in STAR」は有線放送で街に流れています。そして、シンジが聞いているのが「蒼いレジェンド」。放送時にちょっと注意して聞いてみてください。じっくり聞きたい方はヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 オリジナルサウンドトラックに収録されていますので、そちらでぜひ。(『Ys』版は現在は廃盤)

それにしても、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』も最初は2008年に発売された時はDVDが主流で、フィルムテレシネのDVD版のみの発売でした。HD-DVDとシェアを争っていて、BDが主体になりはじめた頃です。

その後2009年にデジタルリマスター版のBDが発売。今は映画はBDでの発売が当たり前の時代。メディアの移り変わりは、作品の時間の流れ以上に早いかもしれない。これ、『Q』と『?』の発売されるまでに、すんごいメディア出ちゃったりしちゃう? 「SS-DAT」とか。
(たまごまご)

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