『おちょやん』第7週「好きになれてよかった」
第31回〈1月18日 (月) 放送 作:八津弘幸、演出:大嶋慧介〉

千代、失敗つづき
山村千鳥(若村麻由美)に紹介されて、鶴亀撮影所の大部屋女優になった千代(杉咲花)。いよいよ本格的に女優の道に――と思ったら、まだまだ道は険しかった。【前話レビュー】華丸命名「ムービングサースディ」あっという間に山村千鳥一座ターン終了
高城百合子(井川遥)の再登場や、映画監督のジョージ本田(川島潤哉)の妻・ミカ(ファーストサマーウイカ)、人気監督・村川茂(森準人)など新キャラがたくさん登場して物語はにぎやかに。
最初の仕事で千代は、単なるエキストラにもかかわらず、勝手に役を膨らませて悪目立ちしてしまい、ジョージ本田にすぐさま役を外されてしまった。
次の日、朝8時と言われて時間通りに来ると、大部屋女優の先輩たちに大目玉をくらう。下っ端は早く来て大部屋の掃除などをする決まりになっていた。
千代の人生双六、お茶子時代の初期に戻った感じである。ドラマなので千代がドジっ子で叱られる話にするのがちょうどいいのだろうけれど、子どもの頃から苦労して働いてきた人物だったら、こういう現場の上下関係はさんざん叩き込まれているはずで、こういう展開になるということは、よっぽど千代が岡安時代、気が利かないのに多めに見られていたことになる。
とはいえ、千代はそうでもなかったはず。いやむしろ働き者だったはず。そこのところが釈然としない視聴者もいるとは思うが、もう何年も朝ドラを観て記録していると、たいていの作品がそういう貫通行動をあまり重要視していないことがわかる。そこにこだわっていると、ジョージ本田みたいな合理性を求める人に怒られて外されてしまうのが世の常なのである。
高城百合子と千代の関係も然り――

千代、高城百合子に会う
千代の憧れの女優・高城百合子が新作『太陽の女・カルメン』の撮影を開始することになって撮影所にやって来た。一時は舞台の仕事がなくなって落ちぶれた感じもあったが、すっかり復活し、輝きを増している様子。でも、千代がそばに立っていても、百合子は気づかない。小暮が千代の話を持ち出すと、どこかで会ったことがあるような……と考えを巡らせた結果、ペットとして飼っていた九官鳥のレイチェルに似ていると言いだす。たしかに、千代の『人形の家』のマネは九官鳥のようではあった。そこだけ印象的に記憶しているのかもしれない。もともと百合子は浮世離れした天然キャラだったように思うが、そこまで薄情だったかしら。わざと忘れたふりをしているのかしら。謎を残す百合子。

千代、また間違える
「言えない、千代ちゃんにこの真実は……絶対に」と小暮は千代のことを思って(ここがこの回の笑いどころ。日本髪の旧九官鳥の絵が可愛い)、覚えていなかったとは言えない。千代は小暮の「いい芝居をして、自分の実力を認めさせるしかないんじゃないかな」という励ましに張り切る。小暮も言葉がいささか足りない。「彼女」と言わずに「千代ちゃん」と名前を伝えればよかったのに。これも視聴者をじりじりさせる脚本術であろうか。
長いこと朝ドラを観ていると、視聴者にツッコミどころを用意しようとしてあえて作る物語の綻びの塩梅は、高度な技術が必要であるということがよくわかる。
捕物のアクションは、実際の撮影所で、昔の時代劇の技を使っていて見応えがあった。芸の世界の奥深さをわかっていない千代がやがて“実”のある演技の世界の住人になっていく、いまはまだその過程なのだ。
映画撮影の画面は、昔のモノクロ映画の画面のサイズと風合いと、カタカタ……鳴るフィルムカメラの音が再現されていて楽しい。エキストラは「ワンサ」と言われている。ワンサは現場に遅れていっても問題ないと、大部屋俳優の先輩に言われたいけずを真に受けて、先輩たちに頼まれた仕事をしてから現場に遅れていくと、当然ながら撮影は始まっていて、叱られる。千代は映画の内容を理解しないまま、またしてもズレたことをしでかして、再撮させてしまうことに。
いまのような何度も消去して撮り直しできるビデオと違い、この時代は一回きりの高価なフィルムで撮っているので、一回一回の撮影が貴重。だからこそ本番に強い巧い俳優が育ったのである。
ワンサには台本も与えられず、撮影前に読み合わせして、自分たちが何をするか即座に理解し動く。理解力と敏捷性を研ぎ澄ませた俳優たちが生き残っていく。千代にはポテンシャルはあるはずだから、今後に期待。
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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村和彦(宮元潔役)プロフィール・出演作品・ニュース
■若葉竜也(木暮真治役)プロフィール・出演作品・ニュース
■川島潤哉(ジョージ本田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■ファーストサマーウイカ(ミカ本田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■佐藤太一郎(高瀬百々之助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■F.ジャパン(池内助監督役)プロフィール・出演作品・ニュース
■渋谷天外(守衛・守屋役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース
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番組情報
連続テレビ小説『おちょやん』<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
作:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami