『ボス恋』2話 瞳の演技が真に迫る花江夏樹、癒される存在感発揮の玉森裕太
イラスト/ゆいざえもん

※本文にはネタバレがあります

花江夏樹登場『ボス恋』2話

『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(以下ボス恋)(TBS系 毎週火曜よる10時〜)はファッション雑誌の編集部が舞台なのでファッショナブルだ。ただし主人公・奈未(上白石萌音)をのぞいて。

【前回レビュー】社会に出た奈未はやがて麗子のような「悪魔の微笑み」をたたえるキッツイ女になるのか

第2話で面白かったのは、人並みであればいいと思ってさほど向上心のない奈未が、意識の高そうな雑誌の編集部に、雑用係とはいえ採用された理由。
1話で出会ったカメラマンの潤之介(玉森裕太)に選んでもらった高価なセットアップが、副編集長の半田(なだぎ武)の目に止まったのかと思ったら、目に止まったといっても、ネガティブな視点であったことがわかる。高価な服のわりに靴がださく、ファッションに興味がない人物のほうが、へんな自意識がないだろうと半田が考えたのだった。

それを知った奈未はちょっとショックを受ける。ドラマにおいて、じつは……じつは……と、あとでわかるという手法はよくあるが、この狙いが私たち視聴者に最初から丸わかりだと歯ごたえがないし、そうかといって私たち視聴者をからかうような真相だとばかにされたような気分になるしで、その塩梅が難しいものだが、脚本家の田辺茂範は、さりげなく意外かつ、納得できて、かつ、ストーリーにも関わってくる内容にしていて、信じられる作家であることを感じさせた。

奈未が、2カ月後に創刊を控える「MIYAVI」に配属になったのも、突然、人気漫画家・荒染右京(『鬼滅の刃』の炭治郎の声を演じている花江夏樹)に原稿を依頼する担当に抜擢されたのも、潤之介の恋人のふりをしてほしいと頼まれたのも、すべて、ネガティブな理由からであったことが彼女を悩ませる。

人並みでいいと控えめに生きてきたけれど、それは裏を返せば、向上心がないということで、編集長であり、潤之介の姉である宝来麗子(菜々緒)に「努力することから逃げてるだけ」「まず人並みの責任をとったら?」と辛辣なことを突きつけられてしまう。

その結果、荒染右京の趣味であるけん玉の練習をして、右京の心を動かしイラストの描き下ろしをOKしてもらい、さらに、なかなかとれないカルティエの表4広告ゲットにまでつながって、奈未の大手柄に。奈未というよりは麗子の手腕。第1話は5000万円の利益のために土下座して、2話では6000万円のために、奈未をうまく使った。そんな凄腕クールビューティー麗子が副社長・宇賀神(ユースケ・サンタマリア)の前ではすこしキョドっているところが可愛い。

それにしても、創刊2カ月前に、売れっ子漫画家に描き下ろしイラストを描いてもらえるなんて、キリストが復活するような奇跡のようだが、スケジュールは意外と出てくるものだから粘るべし、ということは、TBSのカリスマプロデューサー八木康夫さんも言っている(参照:ヤフー・ニュース個人)。八木さんが言うのは俳優のスケジュールだが、きっと漫画家も同じだと思う。


『ボス恋』2話 瞳の演技が真に迫る花江夏樹、癒される存在感発揮の玉森裕太
第3話は1月26日放送。画像は番組サイトより

そして、この荒染右京という漫画家はとても優しい人なのだと思う。一回断った編集者をまた仕事場にあげて話を聞いてくれるのだから。その優しく、人の本質を見つめることのできる(半田の付け焼き刃を見抜いていた)作家の役を花江夏樹がみごとに演じていた。声優だけれど、瞳の演技が真に迫っていた。

ただ、心底、荒染漫画のファンらしい中沢(間宮祥太朗)は企画提案したにもかかわらず、奈未に担当を奪われてしまいお気の毒だった。こういう苦しみも仕事をするうえではあるものだけれど、中沢のフォローも今後のドラマで描いてほしい。

半田は付け焼き刃ではあったが、その調子の良さもなかなかなもので、これで世を渡ってきたのだなと思わせておもしろい。嫌いになれない感じに演じるなだぎ武の名演技。

ファッションに詳しく、ファッションとコラボしてしまう荒染右京は、荒木飛呂彦がモデルだろうかと思ったら、花江夏樹は荒木飛呂彦とは全然違うキャラであった。でも、なんだか魅力的なので、彼と奈未の恋愛展開があっても面白そう。売れっ子漫画家とイケメンカメラマンとで揺れる奈未というのはどうだろう。

でも、やっぱり潤之介は魅力的だ。
ぐいぐいと来る強さではなく、そばにいて癒やされる存在。奈未に「最後まで俺の願い。頑張ってくれると思ったから」「信じられると思ったから」と言うけれど、潤之介のほうが癒やしって感じがする。LINEの毛玉犬スタンプをさっそく手に入れた視聴者も多いようだ。

お金持ちだから、コートも何枚もお着替え。第1話のコートは、前と後ろで素材が違うトレンチ、紺のフード付き、ブルーのシングルのロングコート、グレーのフード付きコート。

2話ではカーキのシームレスダウンぽいもの、1話の紺のコート(たぶん)、茶色いムートンぽいフード付き、1話とたぶん同じブルー、キャメルのテーラードと、今後何枚コートが出てくるか、おしゃれな着こなしも含め、注目したいところ。

それはさておき、職場で揉まれて自立心が芽生えはじめた奈未が、恋人のふりをやめようと持ちかけお別れしたものの、潤之介がラストで再び現れて、「俺のこと好き?」と聞く。その前にかかっていた主題歌のサビがそこにもう一回かかって予告につながるという主題歌の繰り返しは新鮮。

ここぞという場面にガツンと主題歌やボーカル曲が入ってエモさを増すのがTBSの伝統だけど(『3年B組金八先生』の中島みゆきの曲がかかる回や『愛しているといってくれ』の巨匠・生野慈朗演出でおなじみ)、次世代演出家・田中健太がそれに一手加えてきた。もしかして『ボス恋』はTBSの伝統を継ぎつつのネクストになる可能性を秘めているかもしれない。そんな期待が膨らんでくる。


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●第3話あらすじ
付き合っているふりを解消したはずの潤之介 (玉森裕太) から、「俺のこと好き?」と突然質問され戸惑う奈未 (上白石萌音) 。さらに潤之介から自身の写真展の案内状を渡され、仕事中も潤之介のことが頭から離れなくなってしまう。

一方、『MIYAVI』編集部では創刊号の校了が1週間後に迫っていた。編集部員たちが校了に向けて慌ただしくしている中、編集長の麗子 (菜々緒) から、急遽モデルで柔道家の瀬尾光希のインタビュー特集を別の人物に差し替えるよう指示が出る。光希の特集を担当していた中沢 (間宮祥太朗) は、その指示に納得がいかず、「もう編集長にはついていけない」と言い出す。

さらに、他の編集部員からも麗子への不満が続々と噴出し、麗子が辞めるか編集部員が辞めるかの二択を迫られる事態に……。

――番組サイトより


番組情報

TBS系
『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』
毎週火曜よる10時〜

出演:上白石萌音 菜々緒 玉森裕太
間宮祥太朗 久保田紗友 亜生(ミキ) 秋山ゆずき 太田夢莉
高橋メアリージュン なだぎ武 犬飼貴丈 橋爪淳 山之内すず
宮崎美子
高橋ひとみ
倉科カナ
ユースケ・サンタマリア

番組サイト:https://www.tbs.co.jp/BOSSKOI_tbs/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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