綾瀬はるか×高橋一生『天国と地獄』日高は単なる快楽殺人者ではないのか 明らかになる意外な一面
イラスト/おうか

※本文にはネタバレがあります

望月と日高の関係に変化『天国と地獄』4話

「自分で殺して自分で逮捕」

【前話レビュー】「入れ替わった」人たちによる、手袋の「すり替え」を巡る攻防

日曜劇場『天国と地獄〜サイコな2人〜』(TBS系 毎週日曜よる9時〜)の第4話は、事件の重要証拠である手袋のすり替え問題を引っぱりつつ、目の上のたんこぶ的存在だった河原(北村一輝)に新展開、さらに望月(綾瀬はるか)日高(高橋一生)の関係にも変化が……というじわじわと動く回。

回を追うごとに、望月(日高)は妖艶さが増し、日高(望月)は疲弊した顔になっていく。ドラマの後半では目の下にクマができて、それはもうつらそう。
入れ替わったことでどれだけ苦しんでいるかが伝わってくる。

綾瀬はるか×高橋一生『天国と地獄』日高は単なる快楽殺人者ではないのか 明らかになる意外な一面
(C)TBS

3話で起こった猟奇的な殺人事件に関する取り調べを日高が受ける。その帰りに日高と望月がしゃべっているところを河原が目撃、そこに単なる容疑者と刑事を超えた雰囲気を感じ、「あいつらなんかあるのか」と気にかける。

目下、もっとも事件の真相をよく知る人物・八巻(溝端淳平)は、「(日高に)僕のことバレてるんじゃないか」と今頃気づいて、この件から手を引きたいと望月から距離をとろうとする。うっかりしていると殺されるかもしれないことに、今頃気づいたのかー八巻――と思わせるのも八巻らしい。でも、その心配は、たまたま事件現場で、望月らしい人物を目撃した外国人労働者ミンに対する心配に繋がっていくという寸法だ。

河原の調査によって、事件当日、現場に望月が訪ねて来ていたらしいことがミンの証言でわかる。このままでは日高がミンを殺したりしないだろうかと心配になった八巻が望月に相談する。それは自分にもその心配があるからだろう。

綾瀬はるか×高橋一生『天国と地獄』日高は単なる快楽殺人者ではないのか 明らかになる意外な一面
(C)TBS

俄然、望月は持ち前の正義感を発揮し、ミンを守ろうと動き出す。入れ替わったばかりのころは自分が捕まることを恐れていた望月だったが、徐々に本来の資質がその恐怖を超えていく。日高が殺人を続けるくらいならそれを止めると当人を前にして力強く宣言。


「この際、ふたり仲良く地獄行きといきましょうよ。それがあるべき世の姿なんだから」

その勢いに日高は、「だからあなただったんですか」「そうか、だから私はあなたと入れ替わったんですよ」と意味深にひとりごちる。

日高もこの殺戮の連鎖を止めたいと思っているということだろうか。彼は単なる快楽殺人者ではないのだろうか。にわかにそんな疑惑が湧き上がってくる。

綾瀬はるか×高橋一生『天国と地獄』日高は単なる快楽殺人者ではないのか 明らかになる意外な一面
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日高は二重人格なのか

第4話で強調されたのは、日高・二重人格説だ。きっかけは、望月の同居人・陸(柄本佑)の先輩・湯浅(迫田孝也)で、望月の様子がおかしいと聞いて、先輩は望月が「二重人格」なのではないかと言いだす。たしかに、今までにない笑顔でエプロンをして台所に立つ望月は別人のようで、陸は不安になっていく。

でも、本人に「防護服に血がついていた」とか言ってしまうのは迂闊過ぎる。八巻も陸もなんかうっかり者すぎて、ドラマとしては都合がいいが、実際にいたら、余計なことを言って損するタイプであろう。繰り返すが、そんな彼らはドラマとしては都合がいい。

このドラマで、都合のいいキャラは河原、八巻、陸。彼らが交代交代で、事件に関する情報を得て、昆虫が花から花へと花粉を運ぶみたいな役割をしている。
そうしないと日高と望月だけでは閉塞して話が進まない。河原、八巻、陸は台本上の役割も計算され尽くしている印象だし、演技面でも申し分ない。

綾瀬はるか×高橋一生『天国と地獄』日高は単なる快楽殺人者ではないのか 明らかになる意外な一面
(C)TBS

綾瀬はるか×高橋一生『天国と地獄』日高は単なる快楽殺人者ではないのか 明らかになる意外な一面
(C)TBS

日高自身が二重人格ではないかという疑惑は、彼の会社の様子からも強くなっていく。いままでのような仕事ができなくなった日高(望月)が記憶障害のせいだと言うと、にわかに社員たちは優しくなる。それだけ日高が社員に慕われていることを知る望月。社会からはみだした者に手を差し伸べてきていたことを、秘書の五木(中村ゆり)から聞く。

また、妹・優菜(岸井ゆきの)からは、日高が高校時代、世間からつまはじきにされていた高齢者を助けていたが、あるとき、その人が階段から落ちて亡くなり、自分のせいではないかと気に病んでいたことも聞く。

綾瀬はるか×高橋一生『天国と地獄』日高は単なる快楽殺人者ではないのか 明らかになる意外な一面
(C)TBS


日高を気になっていく望月

望月は人の証言だけでなく、自らも日高の意外な面を知る。殺人現場で望月らしき人物を見かけた外国人労働者ミンの労働環境を心配し、結果的に就職先を世話したこと。それは、河原が、ミンが日本にいられる期間が迫っていることを利用して、証言を強要したことと真逆の行為である。

だが、そんな非道な河原のことすら、彼なりの刑事という仕事に対する矜持であることを受け止め、「かわいそう」と同情する日高。正義一直線の望月にはない、複雑な心情を抱えている日高のことが望月は気になっていく。本当は優しい日高が、なにかの瞬間に人を殺してしまうのはなぜか。
亡くなった老人の死も日高の仕業ではないのか。

綾瀬はるか×高橋一生『天国と地獄』日高は単なる快楽殺人者ではないのか 明らかになる意外な一面
(C)TBS

望月「ねえどうして人殺しなんてするの? 動機はなに? どうして田所さんや弥生さんだったの?」
日高「動機も理由もないですよ。ただ突然殺したくなるんです」
望月「それいつから? 子どものころから? 生まれつきなの?」
日高「そんなこと聞いてどうするんですか。知ったところで仲良く地獄行きですよ」
望月「知りたいから」
日高「……」

見下ろすと、陸橋の下に望月(日高)がいる。

綾瀬はるか×高橋一生『天国と地獄』日高は単なる快楽殺人者ではないのか 明らかになる意外な一面
(C)TBS

望月「日高陽斗という人間を知りたいからよ」
日高「ではまた」

ここで物哀しい主題歌がかかるので、日高にはそれはそれは哀しい動機があるのではないかという気がしてきてしまう。「誰かをかばっている?」というあくまで望月の推理のひとつが、あたかも真実のように思える力が主題歌にあるが、ミスリードを狙っているだけかもしれない。

綾瀬はるか×高橋一生『天国と地獄』日高は単なる快楽殺人者ではないのか 明らかになる意外な一面
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犯人が残すΦのマーク。ギリシャ文字では21番目。もしくは0(ゼロ)をこういうふうに書くこともある。数字に反応する日高にとってこのマークは何を意味するか。「自分で殺して自分で逮捕」することはゼロになるということでもあるが――。

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今まででいちばんお手柄だよ」


※第5話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします

番組情報

TBS系
『天国と地獄〜サイコな2人〜』
毎週日曜よる9時〜

出演:綾瀬はるか 高橋一生
柄本佑 溝端淳平 中村ゆり
迫田孝也 林 泰文 野間口徹 吉見一豊 馬場 徹 谷 恭輔
岸井ゆきの 木場勝己
北村一輝

脚本:森下佳子
編成・プロデュース:渡瀬暁彦
プロデュース:中島啓介
演出:平川雄一朗、青山貴洋、松木彩
音楽:高見優

製作著作:TBS
(C)TBS

番組サイト:https://www.tbs.co.jp/tengokutojigoku_tbs/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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