綾瀬はるか×高橋一生『天国と地獄』入れ替わりのギミックをフックにしながら、人間の心の内に切り込む
イラスト/おうか

※本文にはネタバレがあります

陸も入れ替わりに気づき事件の真相に近づく『天国と地獄』5話

「日高には絶対になにかある」

【前話レビュー】日高は単なる快楽殺人者ではないのか 明らかになる意外な一面

誰かを守るため? 共犯がいる? 犯人ですらない? 日高(高橋一生)の秘密が気になる日曜劇場『天国と地獄〜サイコな2人〜』(TBS系 毎週日曜よる9時〜)の第5話。

ドラマは折返し地点に入り、八巻(溝端淳平)に続いて、陸(柄本佑)望月(綾瀬はるか)と日高の入れ替わりに気づいた。リフレインのような展開で、望月にとって都合のいい存在が増えていき、事件の真相に近づいていく。


綾瀬はるか×高橋一生『天国と地獄』入れ替わりのギミックをフックにしながら、人間の心の内に切り込む
(C)TBS

八巻がまたポンコツキャラに戻ってしまい、このまま用済みで、日高に殺されてしまったら……とまた心配になってきた。荒唐無稽な物語で、コミカルな部分も多いとはいえ、油断のならない緊張感をしっかり残しているところが構成の妙だと感じる。日高が、落ちていた薬を拾い「時間がないですね」とつぶやくことも思わせぶりだ。

あとは、なにかと面倒くさいセク原こと河原(北村一輝)が、昔の捜査資料のデータベース化の仕事にまわされて邪魔はしなくなったけれど、彼の捜査の執念はいつか望月にとって都合のいい存在になるだろう。着々と布石が打たれているなか――日高の会社では、ネットでネガティブキャンペーンが起こっていた。

社長の日高が殺人事件の容疑者であることでネットは大騒ぎ。
公開されていない情報まで流れていた。警察に情報を流している者がいるという流れはテレビ東京『アノニマス』のようでもある。

望月は俄然はりきって対策をとるように社員たちに指示。「テレビの刑事みたいですね」と社員を感心させる。記憶障害で会社の仕事は全然できないにもかかわらず、事件に関する対応は機敏。入れ替わったからだけれど、こういう流れはなんだか面白い。


綾瀬はるか×高橋一生『天国と地獄』入れ替わりのギミックをフックにしながら、人間の心の内に切り込む
(C)TBS


なぜか日高も刑事として成長していて、それに嫉妬する望月。入れ替わったふたりが協力しあって事件を解決していくというおもしろミステリーとしても楽しめる第5回は、やはり箸休め的な印象も受ける。劇伴もいつもと違うデジタルでポップなアレンジがされたものがかかっていた。

「ふたりぶんの人生を生きてる気がするんだよ」

日高の事件を利用して彼の会社の乗っ取りをはかる者は誰か。そこには第1話に出ていた九十九(中尾明慶)が関係していて、1話で八巻が彼に話を聞けたのも、九十九の仕掛けに乗っかって情報漏えいしてしまっていたことがわかる。あのときも珍しく冴えた仕事をしたと思ったが、そうではなかったのだ。残念。
これで八巻、ただのポンコツキャラに逆戻り。

綾瀬はるか×高橋一生『天国と地獄』入れ替わりのギミックをフックにしながら、人間の心の内に切り込む
(C)TBS

そんな八巻を望月は助けたい。そこは望月に変化が訪れているように感じる。日高が反社と付き合いがあることを暴くため、賭博現場に乗り込む。その際、望月(中身は日高)はばっちりメイクして、高価なドレスに着替えて、「どうせなら映画の女スパイのような格好したいじゃないですか」とカッコいい。望月(見た目は日高)は自分の姿ながらドキリとしてしまう。


綾瀬はるか×高橋一生『天国と地獄』入れ替わりのギミックをフックにしながら、人間の心の内に切り込む
(C)TBS

綾瀬はるか×高橋一生『天国と地獄』入れ替わりのギミックをフックにしながら、人間の心の内に切り込む
(C)TBS

メイクするのが好きだったり、第4話で、男性社員と会員制のスパに来ていたり、躊躇なく陸と肉体的接触を試みたり、なんとなく陸との関係を大切にしていたり、日高の好みが謎。「男は嫉妬とメンツの生き物ですよ。『半沢直樹』でさんざんやってたじゃないですか」と男をさらりと語る冷めた感じも気にかかる。

まだまだ明かされない謎多き日高も、望月のことを気にしはじめ、望月が刑事になったわけ――正義に対するこだわりの源泉を聞く。

綾瀬はるか×高橋一生『天国と地獄』入れ替わりのギミックをフックにしながら、人間の心の内に切り込む
(C)TBS

入れ替わりのギミックをフックにしながら、それによってなかなか掴みどころのない人間の心の内に切り込んでいく物語は面白い。「ふたりぶんの人生を生きてる気がするんだよ」という陸の言葉には、人が他者を受け入れたときにどうなるか、その可能性を探求する姿勢を感じる。


日高と陸がいつもの焼き鳥屋で飲んで語っているとき、店の大将が「ん?」という顔をして、言動がいつもの女性(望月)と似ていると思っているのかなと感じさせる描写などを子供だましのように思う大人の視聴者もいるかもしれないが、描きたいのはそこではないのは見ていればわかる。

綾瀬はるか×高橋一生『天国と地獄』入れ替わりのギミックをフックにしながら、人間の心の内に切り込む
(C)TBS

第5話で気になるのは、陸のバイトの師匠・湯浅(迫田孝也)。殺人犯の日高と暮らす危険を感じた陸はこの先輩に部屋に転がり込む。カーテンはふぞろいな布で代用、布団はダンボールというめちゃくちゃ貧しい生活をしている。父親のせいでこうなったらしいが、この人も事件の渦の中にじつは入っていそうな予感。それともミスリードか。


九十九を逮捕した姿をカメラで撮りながら「やっぱいいなあ刑事」とつぶやく望月。月は三日月。入れ替われるのは満月のときだけらしいが、新月にもなんかあったりしないのだろうか。

綾瀬はるか×高橋一生『天国と地獄』入れ替わりのギミックをフックにしながら、人間の心の内に切り込む
(C)TBS

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※第6話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします

番組情報

TBS系
『天国と地獄〜サイコな2人〜』
毎週日曜よる9時〜

出演:綾瀬はるか(→プロフィール) 高橋一生(→プロフィール)
柄本佑(→プロフィール) 溝端淳平(→プロフィール) 中村ゆり(→プロフィール)
迫田孝也(→プロフィール) 林 泰文(→プロフィール) 野間口徹(→プロフィール) 吉見一豊(→プロフィール) 馬場 徹(→プロフィール) 谷 恭輔(→プロフィール)
岸井ゆきの(→プロフィール) 木場勝己(→プロフィール)
北村一輝(→プロフィール)

脚本:森下佳子
編成・プロデュース:渡瀬暁彦
プロデュース:中島啓介
演出:平川雄一朗、青山貴洋、松木彩
音楽:高見優

製作著作:TBS
(C)TBS

番組サイト:https://www.tbs.co.jp/tengokutojigoku_tbs/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami