『ボス恋』潤之介と中沢に告白され、編集長に礼も言われ、でも抱き合う理緒と潤之介も見ちゃって起伏激しい
イラスト/ゆいざえもん

※本文にはネタバレがあります

高く高く持ち上げてドーン! 『ボス恋』6話

ドラマあるあるとはいえ、主人公の奈未(上白石萌音)の仕事に対する姿勢があまりにもゆるく、恋愛にうつつを抜かし過ぎている印象がどうにも拭えない『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(以下ボス恋)(TBS系 毎週火曜よる10時〜)。これでは恋は別冊でなく本誌であろう。

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第6話では、潤之介(玉森裕太)の元カノで、かつ才能にあふれたバイオリニストの理緒(倉科カナ)が現れて、混戦模様に突入。


とあるパーティーに麗子(菜々緒)とやって来た奈未(だいぶおしゃれになってきた)は、潤之介のお父さん・宝来勝之介(宇梶剛士)に会って、勝手に舞い上がる。だが、潤之介からはまだ付き合おうと言われていないと悶々としていたら、潤之介が家に押しかけてきて、居座る。

こたつに入り、姿勢よくテレビを観ている潤之介はシュールであったが、何もしないでダラダラするのではなく、料理をしようとしてくれたりもする。

そんな潤之介が夜、黒ワンコの“黒ジュン”になって奈未に襲いかかるという妄想にひとときふける奈未。

いやもう、すごいドラマである。その昔、男性の好みの女性として、昼は淑女、夜は……みたいなことが言われていた。この時代にそんなことを発言したら、ジェンダー問題にひっかかると思うのだが、『ボス恋』はその逆を堂々とやっている。これはこれまで散々虐げられてきた女性の復讐と言っていいのだろうか。

その復讐に身を捧げる玉森裕太。なんて勇気があって、懐の広い人物なのだろうか。さながら食べ物がないなら僕を食べてくださいと炎の中に飛び込んだ兎のようだと、その物語を想像して泣きたくなった。

潤之介だけでなく、麗子の恋の相手・宇賀神(ユースケ・サンタマリア)まで、会社の進退のために、ライバル会社の編集長・高橋麻美(高橋メアリージュン)に迫られて困惑する場面が……。
それまで女性が仕事をチラつかされて男性に迫られて苦しんできたことを男性が体験するという逆セクハラにつぐ逆セクハラのオンパレード。

潤之介は、合コンで知り合った「MIYAVI」のベテラン編集者・和田和美(秋山ゆずき)に仕事にかこつけて接近されたりもしている。こういうのも女性と男性が逆だったらすごく気持ち悪い行為だ。じつのところ、女性だって男性に対して失礼なことをしているのだということを描いている点では評価したい。

「男ってね、デート前にいろんな雑学仕込んでおくんですよ」と麗子に言う宇賀神の献身にも泣けてくる。

中沢、動き出す

潤之介が勝手に荷物を送りつけてきていたとき、理緒がやって来た。編集部から聞いたって、いくら著名人とはいえ、自宅を教えるか――。すわ、修羅場と思って、潤之介の荷物を見られないように奮闘するドタバタは上白石萌音の身体能力が発揮されて面白く見ることはできたが……。

パンツは隠したが、歯ブラシを見られて、潤之介との関係を暴いた理緒に、ケーキを食べながら、二人の過去をけろっと話される奈未。この人にはかなわないなあと思っていたら、仕事場でみんなの前で「俺の彼女なんです」と潤之介に言われて、幸福感を覚えるのだった。

仕事場でいきなり、一緒に暮らしていることを匂わせるってどうなんだろうとも思うが、編集者の特権を利用して接近してくる和田を遠ざけるためと考えればありだろう。

みんなの前で「彼女」と言われるのは嬉しいし、部屋で居心地を追求しはじめるところも、恋のはじまりのワクワクで、仕事どころじゃないというか、仕事がんばるぞーという気分になるもの。ぎゅっと抱き合って、「これ以上荷物持ち込んだら捨てます」と言ってあたふたしていたら、隣から怒声が……みたいなところは、ほのぼのする。
こんなふうな幸せな恋の妄想をどれだけ描けるかというゲームと思えば、楽しく見ることもできるだろう。

奈未がうっきうきしている傍らで、麗子と潤之介は悩みを抱えていた。潤之介は写真の公募に落ちていて、麗子は鳴り物入りで創刊した「MIYAVI」だったが、第2号まで出して30万部の目標が達成できず、悩んでいた。ふたりとも父の力を借りたくないと思っているにもかかわらず、父が手を差し伸べてくる。

『ボス恋』潤之介と中沢に告白され、編集長に礼も言われ、でも抱き合う理緒と潤之介も見ちゃって起伏激しい
第7話は2月23日放送。画像は番組サイトより

潤之介は写真展のときに語られていたように、父の七光で仕事があるようなもの。麗子は、広告を出してくれそうな実業家・新谷(細田善彦)を紹介してもらう(宇梶と細田は『逃げ恥』父子)。いやだけれど、業績のよくない出版社の助けになることが、宇賀神の助けになると思うと仕方ない。

心労がたたって倒れてしまう麗子。こういうエピソードを見ると、奈未の、恋に浮かれているだけで人間的に浅いところが際立ってしまう。広告主との会食に、なんとなく参加してしまったうえに、その場で思ったことをペラペラしゃべる奈未に、「なにを守るべきか、あなたに教わるなんてね」と麗子が素直に奈未に感謝する流れも無理があり過ぎる。これこそ「わきまえない女」? もちろん、わきまえず、言いたいことを言っていいと思うけれど……。

いや、奈未をそんなふうに描くのは、仕事も恋も絶頂のときに、潤之介と理緒がふたりでいるところを目撃したときの衝撃を大きくするため。
高く高く持ち上げてドーンと突き落とす。そうそう、奈未もそろそろダメージを受けるべきだよねえと思ったら、今度は中沢(間宮祥太朗)が……。どこまで恵まれているんだ、奈未。

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●第7話あらすじ
MIYAVI廃刊の危機を迎え、麗子(菜々緒)は奈未(上白石萌音)と共にスポンサー探しに奔走するが難航していた。

そんな中、奈未の家族が上京し、アパートにやってくるが、そこに潤之介(玉森裕太)もやってきて鉢合わせに。理緒(倉科カナ)と抱き合っているのを見てしまった奈未は潤之介と話すことを拒否し、母の真未(宮崎美子)も娘をたぶらかそうとしている悪い男と勘違いし、追い返してしまう。

一方、中沢(間宮祥太朗)や遥(久保田紗友)ら編集部メンバーは長野のコテージへ取材に行くことに。偶然、奈未と麗子もある化粧品会社の磯辺社長(近藤芳正)を訪ねるため、同じ場所に行くことになり……。

再び潤之介は誤解を解こうと奈未のアパートを訪れると、困っている奈未の父・義郎(橋爪淳)と遭遇し……。

――番組サイトより


番組情報

TBS系
『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』
毎週火曜よる10時〜

出演:上白石萌音(→プロフィール) 菜々緒(→プロフィール) 玉森裕太(→プロフィール)
間宮祥太朗(→プロフィール) 久保田紗友(→プロフィール) 亜生(ミキ)(→プロフィール)秋山ゆずき(→プロフィール)
太田夢莉(→プロフィール) 高橋メアリージュン(→プロフィール) なだぎ武(→プロフィール) 犬飼貴丈(→プロフィール) 橋爪淳(→プロフィール)
山之内すず(→プロフィール)
宮崎美子(→プロフィール)
高橋ひとみ(→プロフィール)
宇梶剛士(→プロフィール)
倉科カナ(→プロフィール)
ユースケ・サンタマリア(→プロフィール)

番組サイト:https://www.tbs.co.jp/BOSSKOI_tbs/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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