『天国と地獄』日高は猟奇殺人犯じゃなかった 残った謎を考察
イラスト/おうか

※本文にはネタバレがあります

入れ替わりの謎残したまま『天国と地獄』8話

日曜劇場『天国と地獄〜サイコな2人〜』(TBS系 毎週日曜よる9時〜)の第8話は、ついに、満月の日、望月(綾瀬はるか)日高(高橋一生)の心と体が元に戻るときがやってくる。

【前話レビュー】湯浅が東朔也であることが(ほぼ)判明するも、ますます疑問噴出

あの運命の歩道橋で日高がインした望月が、望月がインした日高にジリジリとにじり寄っていく様子にはハラハラした。

『天国と地獄』日高は猟奇殺人犯じゃなかった 残った謎を考察
(C)TBS

来週、最終章ということは、まだ2回はある(五十嵐管理官役の野間口徹さんのTweetによると「あと3回」とある。
この回を入れてあと3回ということだろう)。だがすでに、日高が一連の猟奇殺人の犯人ではなく、彼の二卵性双生児の兄・東朔也が犯人で、朔也はやっぱり湯浅(迫田孝也)で、その彼がなぜ犯行に及んだかもだいたい明かされてしまった。こうなると、逆にいったいこの後どうなるのか気になって止まらない。

『天国と地獄』日高は猟奇殺人犯じゃなかった 残った謎を考察
(C)TBS

残った謎は――

□入れ替わり
□奄美大島
□数字のついた名前の被害者たちの関係性
□十和田(田口浩正)
□ミスターX

である。

朔也が殺した人たちは、たまたま、朔也をひどい目に遭わせた人たちなだけだろうか。それとも大きな事件と関連しているのか。

いちばんの謎は「入れ替わり」だ。どういう仕組みで入れ替わりが起きているのか謎過ぎる。犯人と刑事が入れ替わり、正義と悪が入れ替わったとき、罪をどう立証するのか。それをおもしろがる荒唐無稽なドタバタ話であれば構わない。ところが、殺人犯は別にいて、その動機が意外と根深いとなると、「入れ替わり」があることで、事件の根幹が絵空事になりかねない。この問題をどう解決するか、それが最大のミステリーに目下なっている。


『天国と地獄』日高は猟奇殺人犯じゃなかった 残った謎を考察
(C)TBS

ド正論をはく望月

久米の息子・幸彦が惨殺されていた。いままでの殺人現場とは違い、現場は掃除されていない。優秀な警察は残された犯人の痕跡を調べ、ぐいぐいと真相に近づき、容疑者は東朔也に絞られる。日高は兄・朔也をかばっていただけ。

だが、どんな理由があるにせよ、犯罪は犯罪と主張する望月に、日高は「いなくなっても悲しむ人がいない人なら殺してもいいと、あなたはいま、そうおっしゃっているんですか」と淡々と聞き返す。そのとき日高が心に浮かべるのは、クウシュウゴウの描いた漫画で……。

『天国と地獄』日高は猟奇殺人犯じゃなかった 残った謎を考察
(C)TBS


『天国と地獄』日高は猟奇殺人犯じゃなかった 残った謎を考察
(C)TBS

そのあとの日高と望月の会話が印象に残る。

望月「(前略)どんな人でも殺されていいわけないし、同時に殺すことも許されない。私はそういう当たり前のことを言ってるだけだけど」
日高「その当たり前が成り立っていない世の中だと感じているんで」
望月「(前略)死守すべきルールってもんが人間にはあると思わない?」
日高「自分の顔でド正論ぶつけられるってのも照れるもんですねえ」
望月「それはあなたにも良心ってもんがあるからじゃないの」

そう、望月はやたらと正論をいう。彼女の悪いクセは他人の体と生活環境に入れ替わっても直っていない。

『天国と地獄』日高は猟奇殺人犯じゃなかった 残った謎を考察
(C)TBS

その頃、陸(柄本佑)は朔也と行動を共にしている。掌にほくろも見つけ、クウシュウゴウであることを陸もほぼ確信しながら、認めたくない。すると望月からクウシュウゴウの画像を送られ、やっぱり師匠だと突きつけられる。


「陸にとっては友達でも、人殺しは人殺しなのよ」とまたもド正論をはく望月。辛抱たまらず、「わかってるよ! それくらい」と陸は電話を切る。

ある時期、ともに仕事をし、尊敬している師匠・朔也に情がある陸。それを理解できていない望月。陸の顔が一時期とまったく変わっていて、哀切の情を、師匠(朔也)に向けている。本音を隠しながら、笑顔で語り合う、師匠と陸の姿、この瞬間は何もかも関係なくとてもいい場面だ。

罪を犯した者に法からはみだした情を抱く陸。おそらく日高もそうなのだ。漫画に描かれたクウシュウゴウが法で裁けない者を殺すことと、法では罪と定められた者を責めることのできない気持ちは同一である。

『天国と地獄』日高は猟奇殺人犯じゃなかった 残った謎を考察
(C)TBS

朔也と日高の過去

師匠は、すべての事件のきっかけになったらしき、過去に勤務していた会社のビルを見つめる。もうすぐ満ちる月を、朔也と日高は別々の場所から見ている。

日高は「おまえが15分先に生まれてくりゃ」と朔也に責められたことを回想している。望月に突きつけれられた「死守すべきルール」について「何百回も考えたんだ」……と苦渋の表情を浮かべる日高。


この回想から想像すると、早く生まれた長男だから、父に引き取られ割を食ったことを責められ、日高は朔也をかばうようになったと考えられる。

日高はまた、朔也をかばおうと工作をはじめる。朔也の証拠品を盗み細工して、河に飛び込み自殺したように見せ捜査を撹乱するが――。

『天国と地獄』日高は猟奇殺人犯じゃなかった 残った謎を考察
(C)TBS

左遷されながらも執念を燃やす河原(北村一輝)が部下の幅(谷恭輔)と共に朔也のことを調べてきて、日高がインした望月を挑発する。多くの捜査員の集まった会議室で河原が舞台劇のように大きな声と身振り手振りで、朔也が久米幸彦を殺害するにいたった動機と考えられる理不尽な出来事を話す様は圧巻。

『天国と地獄』日高は猟奇殺人犯じゃなかった 残った謎を考察
(C)TBS


『天国と地獄』日高は猟奇殺人犯じゃなかった 残った謎を考察
(C)TBS

そこに、現場にいた犬が飲み込んでいた日高の乳歯がみつかったと報告が入る。警察は日高と朔也を共犯関係として緊急配備に動き出す。このときの日高が、あの歩道橋の微笑ましい思い出――乳歯を取り替えるーーを思い出し、「まだ持っていたのか」と表情を変える。

「何か何か」と考え続ける日高。満月であることに気づいて走り出し、謎の石を持ち出すと望月を歩道橋に呼び出す。朔也への罪悪感からかばっていた日高だが、朔也がまだ乳歯を持っていたことで彼の気持ちが日高への憎悪だけじゃないことに気づき、なんとか彼を守りたいと日高が思ったと解釈できる。五木(中村ゆり)が日高は優しいと証言していたことからも、日高はきっと朔也を守ろうとしているのではないか。


『天国と地獄』日高は猟奇殺人犯じゃなかった 残った謎を考察
(C)TBS

柄本佑と迫田孝也の名演技

あのとき入れ替わったときとまったく同じ条件――満月、石、手錠、階段から転がり落ちる……がそろったとき、ふたりは――。

荒唐無稽な仕掛けを使いながら、いかに人間の心情を描くか。成功したら、『天国と地獄」は稀なる傑作となるだろう。この時点で、このドラマがそうなりそうである条件はだいぶある。前述した陸と師匠の関係性をはじめ、タクシーに乗るとき、普通に望月の口調になっている日高(見た目は望月)、ヒールがとれるほど猛烈に走る望月から感じる日高の心情。全力で走っていても望月っぽさを残す日高(中身が望月)。その瞬間の真実が画面から力強く伝わってきたとき、「入れ替わり」のギミックは薄れ、人間ドラマが色濃く立ち上ってくる。

『天国と地獄』日高は猟奇殺人犯じゃなかった 残った謎を考察
(C)TBS

『天国と地獄』日高は猟奇殺人犯じゃなかった 残った謎を考察
(C)TBS

「陸、奄美大島言ってみないか」と言われ、師匠を見たときの陸の汚れなき表情。師匠の瞳が、どこか定まらなく謎めきながら、漫画の主人公クウシュウゴウの瞳のような寂しさもあり、少年時代のようなピュアさがあり。柄本佑と迫田孝也が俄然いい芝居をしている。

『天国と地獄』日高は猟奇殺人犯じゃなかった 残った謎を考察
(C)TBS

【次回9話あらすじ】警察が日高陽斗と東朔也を追う その頃、東=師匠は陸ととある場所へ向かう
【レビュー一覧】日曜劇場『天国と地獄』1〜7話

※第9話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします

番組情報

TBS系
『天国と地獄〜サイコな2人〜』
毎週日曜よる9時〜

出演:綾瀬はるか(プロフィール) 高橋一生(プロフィール)
柄本佑(プロフィール) 溝端淳平(プロフィール) 中村ゆり(プロフィール)
迫田孝也(プロフィール) 林 泰文(プロフィール) 野間口徹(プロフィール) 吉見一豊(プロフィール) 馬場 徹(プロフィール) 谷 恭輔(プロフィール)
岸井ゆきの(プロフィール) 木場勝己(プロフィール)
北村一輝(プロフィール)

脚本:森下佳子
編成・プロデュース:渡瀬暁彦
プロデュース:中島啓介
演出:平川雄一朗、青山貴洋、松木彩
音楽:高見優

製作著作:TBS
(C)TBS

番組サイト:https://www.tbs.co.jp/tengokutojigoku_tbs/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
編集部おすすめ