
※本文にはネタバレがあります
奈未・麗子・中沢がバランス取る『ボス恋』最終回
『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(以下ボス恋)(TBS系 毎週火曜よる10時〜)の最終回は、視聴率13.2%(ビデオリサーチ調べ / 関東地区)で番組最高を飾った。【前回レビュー】潤之介を振り返らなかった奈未 「恋は別冊」な展開に現れたのは――中沢!
結論から書いてしまうと、ラスト、潤之介(玉森裕太)が奈未(上白石萌音)を抱き上げるところが最大キュンシーンだった。小柄な上白石萌音とスラリと長身の玉森裕太の身体的特性が生かされ、いい絵になっていた。
舞台は、第1話、ふたりの出会いの場である橋の上のベンチ。そのベンチを使ったオチもなんとなく想像はできたものの、「ああ、やっぱり」とにんまりする流れになっていた。とがったところが一切ないところが『ボス恋』の魅力だった。
金沢の実家の会社を継ぐことになった潤之介に、編集の仕事がやりたいがため奈未が別れを告げたのが第9話。最終回の冒頭で奈未は、自分から別れを告げたとはいえ「子犬系男子の彼氏から」と泣きはらした目で朝を迎え、職場で先輩や同僚に慰められる。「子犬系男子の彼氏から」フラれた、みたいに受け取れるが、そうじゃないのに。
撮影の仕事では、誰もが「潤之介」に見えてしまうほど憔悴しきった奈未。おばちゃん視点だと、仕事とプライベートをごっちゃにして、困るわ〜と思うけれど、誰もがこの道を通ってきたってことで笑って済ませたい。
その撮影で撮った極秘の写真が流失。大騒ぎの矢先に、副編集長(なだぎ武)の編集長就任祝いがあって、なぜかそこに潤之介が来て気まずい。別れてからまだ4日。
その後、また、中沢(間宮祥太朗)とラーメンを食べながら語り合う。
潤之介の人生
最終回はこれまで、勝手に子犬系視されてきた潤之介の、人としての存在意義に光が当たる。子犬はあくまで奈未の妄想であり、潤之介には潤之介の人生がある。中沢が気づいた潤之介のカメラマンとしての才能に奈未も気づいた。それは、彼女が仕事の経験を積み重ねたからこその発見だったのかもしれない。仕事の厳しさも楽しさもわかるようになって初めて、相手(潤之介)にも仕事の世界があることに気づいたのである。
写真流失事件をなんとか乗り越えた奈未は、「潤之介さんは何を思ってカメラを向けてたんだろう」と想像できるようになる。そこにはもう子犬はいない(あとで、本当の犬が出てくるところがポイント)。
奈未は一日だけ潤之介に彼氏のフリをしてくれと頼む。それには理由があって、潤之介のアシスタント尾芦が残していた潤之介の写真を見て、彼の心を知る。「潤之介さんには笑っていてほしい」と奈未に言われて、潤之介はもう一度カメラマンの夢を選ぶ。
結果オーライなのだが、奈未は自分からフっておいて、フリでいいんで、って言うことにびっくりした。冒頭の憔悴といい、いちいちフラれた被害者みたいな感じになっている。このドラマ、徹底して、主人公中心の物語。これが多数に支持されるとなると、すなわち、世の中には、全部、自分に都合よく話を書き換えてしまう人が多いことになる。たしかにいる。この手の、反省しないで、いいことだけ考える人。そうならないように自分を律している者には奈未は理解し難い。
そんなとき、責任をとる女・麗子(菜々緒)がいる。こうして、うまいこと、お気楽な人物と生真面目な人物が配されているのである。
ついでに書けば、他人のことを気づかえる、ものの道理のわかった中沢。この3人をうまいこと配置することで『ボス恋』の世界はバランスがとれている。
麗子は会社を辞めて、新たな会社を起こす。
奈未と潤之介もうまくいく。潤之介はいったんカンボジアに行くけど、戻ってくるのを待っていてほしいと言って、抱き合うふたり。舞台は『MIYAVI』編集部。仕事場で抱きあうって……。さあ、皆さん、ご一緒に「ありえーる?」

そして、3年。奈未は。麗子と宇賀神の出版社に転職。潤之介は帰ってきて、前述したラストシーンへ――。
奈未は、潤之介を「子犬」ではなく「ヒーロー」に格上げする。女性が男性より下に見られてきた時代が終わり、女性と男性が対等であっていい時代。だからといって、男性を「子犬」扱いして、彼の仕事や夢に思いをいたせないヒロインはいやだなあと感じていたので、最後にちゃんと恋人の自立心を際立たることができてよかった。
『ボス恋』はプロデューサーが女性で、脚本家と演出家は全員男性。男性陣はきっと潤之介や中沢みたいな人たちなのだろう(内面の話です)。
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番組情報
TBS系『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』
毎週火曜よる10時〜
※放送終了
2021.09.03
Blu-ray&DVD発売決定!
出演:上白石萌音(プロフィール) 菜々緒(プロフィール) 玉森裕太(プロフィール)
間宮祥太朗(プロフィール) 久保田紗友(プロフィール) 亜生(ミキ)(プロフィール)秋山ゆずき(プロフィール)
太田夢莉(プロフィール) 高橋メアリージュン(プロフィール) なだぎ武(プロフィール) 犬飼貴丈(プロフィール) 橋爪淳(プロフィール)
山之内すず(プロフィール)
宮崎美子(プロフィール)
高橋ひとみ(プロフィール)
宇梶剛士(プロフィール)
倉科カナ(プロフィール)
ユースケ・サンタマリア(プロフィール)
番組サイト:https://www.tbs.co.jp/BOSSKOI_tbs/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami