
※本文にはネタバレがあります
エンディングのオフショットもエモく『ウチカレ』最終回
『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(以下ウチカレ)(日本テレビ系 毎週水曜よる10時〜)最終回は、多くの殿方に囲まれながら、けっきょくは「私も娘も、(明確には)彼氏ができない!!」であった。【前回レビュー】『ウチカレ』「始められませんか」「手を繋ぐのは恋人って言ってなかったっけ?」母娘それぞれの恋が急上昇
碧(菅野美穂)と空(浜辺美波)は血が繋がっていないにもかかわらず、思考が似ている。碧はゴンちゃん(沢村一樹)を「空気みたいになっちゃって、いつでもそこにあると思ってる」(by 空)、空は光(岡田健史)を「なくしたくない」存在と思っている。
恋人とか夫婦とか決めてしまうと壊れてしまうこともあるし、壊さないように気をつけるのも難儀だし、はっきり決めないで、いい感じのままをキープしていたほうがいい。碧とゴンちゃん、空と光はそんな感じエンドだった。
碧は小説も売れて調子が上がってきて、モテ期も来た。風雅(豊川悦司)について沖縄か、漱石(川上洋平)についてニューヨークか悩みながら、「今っていう時のなかにいたいなあ」と思う。
おだやで、ゴンちゃん、風雅、漱石が集まっているとき、碧はルーレットで進路を決めている。そこに、光がやって来る。
「言わないけどわかります、顔見れば」と空が寂しがっていることを伝えると、碧は嬉しくて目を輝かせる。
その頃、空は渉先生(東啓介)に別れを告げていた。光への気持ちがわからないと言う空。
渉「無理に気持ちに…関係に名前つけることないよね。でも、その関係が大事なんだね、なくしたくない」
空「なくしたくない……」
渉「それは守らないと。なくしたくないものは守らないと」
「なくしたくない関係を築けなかったのは僕のせいでもある」と反省する渉だったが、あとで、あの思い出のうさぎの子からFacebookに友達申請が。
ゴンちゃん、風雅、漱石劇場
ほかにも最終回ならではだったのは、サリーこと沙織(福原遥)と俊一郎(中村雅俊)の関係。「みつけた 、私の幸せ」と意外なほど穏やかにうまくいきそう。ふたりが並んでいるところが、お父さんと娘に見えなくもないが、案外お似合いのようにも見えるから、中村雅俊ってやっぱりすごい。
おだやでのゴンちゃん、風雅、漱石劇場はすごかった。風雅が「碧」と呼び捨てて、酔った流れかマウントをとることに怒ったゴンちゃんが殴りかかる。彼の怒りはもっともだ。風まかせでふらふらして、身重の恋人・鈴(矢田亜希子)を捨て、一週間しか付き合わなかった碧に、知らないとはいえ、生まれた子・空を育ててもらっていた。
その間、残された女たちはどれだけの哀しみと苦しみを感じていたことか。でもその感情を楽しみに変えて、強く生き伸びてきたのである。碧は亡くなった鈴の分まで、空を愛しながら、たくましく生きてきた。その封じ込めた怒りをゴンちゃんが代わりに吐き出した。
「この人笑ってます」と止める漱石。
風雅「君、誰?」
漱石「通りすがりの者です」
漱石には風雅とゴンちゃんほどの濃密なものはない。世代であろうか。そしてけっきょく、碧は漱石にはついていかない。漱石は、オワコン化しかけた碧を立ち直らせた役割を終えて退場していく。
「私は人間だから書き続ける」
碧の決意の言葉はなかなか強烈だ。コンテンツじゃないから、生きている限り書くことは自由だし、それに心動かされる人だっている。オワコン呼ばわりは差別のひとつだ。ジェンダーだけじゃない、年齢とか、古い新しいと決めつけるのも差別である。そこときっちり戦っている北川悦吏子先生を讃えたい。
「君のいる世界」
碧はけっきょく、誰とも一緒にいかない。これだけ、創作の世界で生きて、資産をつくって、一時代を築いてしまうと、男性に頼る必要はない。よっぽどスケールの大きい人じゃないと、彼女をぐいっと城(基地と言ってたけど)から引っ張り出すことは無理だろう。「私は自分の行く場所は自分で決める。
驚いたのが、殴られた帰り、風雅が神社で空と語り合う場面。「ちゃんと自分の罪を責められて、少しほっとしたんじゃないかな」と一応、自分のしたことをわかってはいるらしい風雅が、空と話ながら、泣き出すのだが、豊川悦司の意外な演技に驚いた。こんなふうに嘘泣きみたいに泣く芝居を初めて見た気がする。ミスリードしようとしているのだろうか。
あとで、空は、おだやでの風雅はゴンちゃんと碧を結びつけるためにわざとやなヤツふうに振る舞ったのではないかと想像する。が、風雅は、半分は碧の言ったとおり、半分以上はよりを戻せたらと思ったと言う。でも、あの嘘泣き風を見るに、悪役を演じたのか。豊川悦司は名優だが、一ノ瀬風雅はあんまりうまい俳優じゃないようである。

(C)日本テレビ
ゴンちゃん、風雅、漱石から距離をとって、けっきょくは「母ちゃんはまだその子を見守ってたいです」「離れたくないです…」と碧にとって最も大切なのは空。
でも空が母離れするときは近づいているかもしれない。漫画をほぼ描けたふたり。「君のいる世界」とタイトルが決まる。
結果は――努力賞で、大喜びするふたり。評には「人物の表情が豊かに描かれている」と描いてあり、空の作画は高評価。
「俺、ほんとは彼女いねえ」と明かす光。でもしばらく、兄妹のように、仲良いふたりでもいいように思う。なくしたくない関係は最高にピュアな関係だから。いちばんそうだったのが、碧と空だった。
みんなが笑顔でよかった。最後に象印で締めたのもよかった。最終回はエンディングのオフショットもエモく感じた。
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番組情報
日本テレビ系『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』
毎週水曜よる10時〜
※放送終了
DVD&Blu-ray
2021.08.25発売決定
『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』はHuluにて全話配信するほかTVerにて最終話を1週間無料配信中
Huluで全話配信中!
<14日間無料>
出演:菅野美穂(プロフィール) 浜辺美波(プロフィール)
岡田健史(プロフィール) 福原遥(プロフィール) 東啓介(プロフィール)
中村雅俊(プロフィール) 沢村一樹(プロフィール)
有田哲平(プロフィール) 川上洋平(プロフィール)
脚本:北川悦吏子(プロフィール)
音楽:得田真裕
演出:南雲聖一 内田秀実
製作著作:日本テレビ
番組サイト:https://www.ntv.co.jp/uchikare/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami