『ウチカレ』6話 岡田健史の一途な役が迫真 空と光の寂しさを共有する関係に胸しめつけられる
イラスト/おうか

※本文にはネタバレがあります

次々と名場面が『ウチカレ』第6話

『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(以下ウチカレ)(日本テレビ系 毎週水曜よる10時〜)第6話は、前回、風邪をひいたうえにサリーこと沙織(福原遥)に去られた漱石(川上洋平)が朦朧として交通事故にあうところからはじまる。病院に血相を変えて駆けつけた水無瀬碧(菅野美穂)の髪に触れる漱石。

【前回レビュー】ラブストーリーの覇者・北川悦吏子描く恋の2番手の法則に見る恋愛の機微

「コウヤボウキの綿毛かな。
もうそんな季節だ」

ドラマのクライマックスに主要人物が事故にあうのは90年代のドラマのパターンであり、まだ折返し地点ながらそんなふうにベタな展開にもかかわらず、このセリフのなんたる文学性。文学性すらベタな狙いなのかと思えてきて混乱してしまったが、6話は娘の空(浜辺美波)光(岡田健史)が良すぎて、もうそれに尽きる。

碧と漱石も、空と光も、どちらも根はピュアで、それを笑いや強気でぼかしていることには変わらないが、碧と漱石は語り合えば合うほど空騒ぎ感が強く変なふうに捻れていき、空と光は、語り合えば合うほど余計なものがほどけてきれいなところだけ残っていく。

碧は、グレー、ピンク、水色と、ファジーな幸せに酔い、サリーといい感じの年の差恋愛(?)中の俊一郎(中村雅俊)は「曖昧な時っていうのがね、いちばん楽しいんだよ、恋は」と浮かれる。

ファジー、曖昧、グレー、中間色……言い方はいろいろあるけれど、同じように白黒つけない状態であるはずの、碧と漱石、サリーと俊一郎、空と光のきらめきの尊さの差はなんだろう。前者は混ぜると濁り、後者は透明になっていく。
年齢なのだろうか。

そう、年齢と経験が増えていくと、余計なものがくっついてくるのだと思わせる、碧と空の違い。余計なものが増えたほうが生きることが大変で、そんな碧の物語こそ面白いと思うので、そちらにも期待しているが、やっぱりいまは空と光を見ていたい。日常が疲れていると透明なものが楽なんだと思う。

「俺がいる」

空が血液型から碧の本当の子供じゃないことに気づいてしまう。絶対的な安心感のもとであった母親との関係性が崩壊してしまった絶望に、未だ恋愛関係にない光が手を差し伸べる。

『ウチカレ』6話 岡田健史の一途な役が迫真 空と光の寂しさを共有する関係に胸しめつけられる
(C)日本テレビ

目下、光と空は、一緒に漫画を描いて、出版社に持ち込むという野望でつながる者同士。
カフェの打ち合わせで割り勘し合う公明正大の仲であるのもいい。ちゃらい遊び人のはずが1ミリも気持ちを漏らしていない(酔って、俊一郎に話しているのは当然空のことだろう)。その間、空は渉先生(東啓介)との関係を深めていく(まだ手をつないだような状態のみ)。このもどかしさがたまらない。

空と光はどっちも哀しさを抱えている。単なる恋ではなく、哀しさ同士が惹かれ合う。
これもパターンといえばパターンだが、このパターンは永遠という名の王道である。王道は強い。

第6話は名場面の大盤振る舞い。

その1:空が大学で光を呼び出し、「母ちゃん、O型だった」と報告する場面。廊下で、ふたりの身長差がはっきり出た並びのなかで、「コーヒー牛乳」についてひとしきり語るふたり。光の白い服と、空の黒いコートの対比。


その2:大学の庭に空がしゃがみ、光も合わせてしゃがむ。今度はふたりの目線が同じになる。光の赤いコートと、空の青いリュックの対比。

枯れた芝生を空にぶつける光。

空「小さい時こうやってひとりで道草食ってた」
光「おれも」
空「今は2人だね」
光「おう」

寂しさを共有する関係が最高すぎる。ここは屈指の名場面。
朝ドラ『半分、青い。』で言ったら屈指の名場面、鈴愛と律の駅での別れのシーンのような感じである。ドラマの中盤で、最高の場面を作る、それも大事なお仕事である。

その3:夕暮れの公園で、泣く空を抱きしめる光。

「俺がいる」
こんな状態にもかかわらず、まだ恋が生まれないって逆にすごい。万力でしめつけられるように心がきゅうぅぅうとなった。


無償の愛、その強さを体現する岡田健史は、誰になんと言われようとも一途に誰かを思う役で注目された俳優で、そこからいままでいろんな役を経験してきたが、まだまだ一途な役が迫真。こぼれる汗に不純物がまったくないという清潔感、いまだ健在である。

その4:空が家に帰りたくなくて、光の家に泊まる。
マンションの窓から手を小さく振る空がかわいい。
気を使って漫喫に行く光を空が追いかけて、けっきょく漫喫で過ごす。

『ウチカレ』6話 岡田健史の一途な役が迫真 空と光の寂しさを共有する関係に胸しめつけられる
『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』第7話は2月24日放送

(C)日本テレビ

「誰かの心のなかにあるものをああして具現化して絵にするってことは、それはもう心が通じ合ったも同じと思った」

空のこのセリフにはまいった。手つなぎよりもハグよりもキスよりも寝ることよりも最上級の人と人との結びつきを空と光はやっている。バナナの皮をむく話よりもエロいと言っても過言ではない。ものづくりの真髄を知っている人の実感こもったロマンあふれるセリフである。付け焼き刃のオタク描写よりもこういうもののほうが本当のオタクの心に刺さると思う。

朝の本所吾妻橋。東京タワーの麻布に暮らす空と、スカイツリーの下町に住む光。対照的なアイテムも完璧で、あとは、ふたりが結ばれるか否かを延々描いてほしい。

【関連記事】『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』4話 登場人物全員のなかにあるピュアな部分を担う岡田健史
【関連記事】『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』3話 登場人物、全員メンタル危険!? 一人ずつ検証
【関連記事】『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』2話 岡田健史大盤振る舞いの2話は人の“弱さ”描く

※第7話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせしています。お見逃しないよう、ぜひフォローしてくださいね。

●第7話あらすじ
「かーちゃん、誰?」親子の血の繋がりがないことを知られ、空(浜辺美波)から問い詰められた碧(菅野美穂)は、それまで空に隠していた“真実”を語り始める……。かつて心から愛した男性がいたこと。その人に裏切られたこと。死を決意して訪れた樹海で置き去りにされている小さな空に出会い、一緒に生きようと思ったこと……。

碧の話を聞き、今まで以上に母娘の特別な“絆”を感じる空。しかし二人の間には、それまでとは違うぎこちない空気が漂うようになっていた。さらに、新作小説に取りかかっていた碧は再びスランプに悩まされる。そんな中、碧の小説『アンビリカルコード』を読んだ光(岡田健史)は、あることに気づく。小説の内容が、空から聞いた碧と空のなれそめとそっくり同じだったのだ……!

一方、空は、碧の引き出しの奥に“臍の緒”が隠してあるのを見つける。自分が拾われた子なら、なぜ臍の緒があるのか、疑惑を抱き始める空……。

翌日。空と光は、本当のことを知るであろう俊一郎(中村雅俊)とゴンちゃん(沢村一樹)を問いただすが、二人はお茶を濁し……。碧がなおも自分に嘘をついていたことを知り憤る空は、今度こそ本当のことを聞き出すため、光と沙織(福原遥)、ゴンちゃんと俊一郎を連れて、碧の元へ! 打ち合わせに訪れていた漱石(川上洋平)も巻き込み、碧が空に話したくなかった衝撃の真実がついに明らかに……!

そしてその頃――。疎遠になっている空からフラれることを怖れる渉(東啓介)は、ダイビングに訪れた海で、流木を集める謎の男に出会っていた。怪しげでありながらどこか雰囲気があるこの人物の正体とは……!?


番組情報

日本テレビ系
『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』
毎週水曜よる10時〜

出演:菅野美穂(プロフィール) 浜辺美波(プロフィール)
岡田健史(プロフィール) 福原遥(プロフィール) 東啓介(プロフィール)
中村雅俊(プロフィール) 沢村一樹(プロフィール)
有田哲平(プロフィール) 川上洋平(プロフィール)

脚本:北川悦吏子(プロフィール)
音楽:得田真裕
演出:南雲聖一 内田秀実

製作著作:日本テレビ

番組サイト:https://www.ntv.co.jp/uchikare/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami