『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』登場人物全員のなかにあるピュアな部分を担う岡田健史
イラスト/おうか

※本文にはネタバレがあります

岡田健史のピュアな魅力に注目『ウチカレ』第4話

『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(以下ウチカレ)(日本テレビ系 毎週水曜よる10時〜)第4話は、水無瀬碧(菅野美穂)の小説『わたしを忘れないでくれ』が映画化。人気バンド「サイレントナイフ」のボーカル、ユウト(赤楚衛二)が主演することになり、碧のテンションは上がる。

【前回レビュー】『ウチカレ』登場人物、全員メンタル危険!? 一人ずつ検証

ユウトは朝ドラ『すくすく家族』に出演中。
朝ドラと聞いて「かんかんでり?」と返す碧。それは前作。今は『すくすく家族』って。「かんかんでり」からは『なつぞら』が、『すくすく家族』からは「てるてる家族」が浮かぶが、なぜ、大森寿美男脚本作ばかり?

ユウトは、原作の男女を入れ替えて、ユウトの役が死ぬほうがいいと横暴なことを言うので、碧は気分を害す。だが、条件をのまないと次の仕事がもらえない。なまじ一回売れているから下りることができない、オワコンのジレンマに碧は苦しむ。


いや、彼女は自作を愛しているだけ。考え抜いて書いた小説の、男女の役割を入れ替えることは簡単にできるわけはない。でも、「次の場所が欲しい」。「私の代表作は次の作品なのよ」という、他者から見たらオワコンかもしれないけれど、当人はまだ終わらない。遮二無二生きようとする強い精神力。

そんな彼女には味方がいる。
唐突に、担当編集・漱石(川上洋平)が漫画雑誌で盗作していたと過去をほじくりだしてきて、おちこぼれ同士だねと言う碧に、漱石はひるむことなく、「時の流れや世の中のから騒ぎに流されない本物です」と碧に寄り添うのだ。元担当・松山さん(ふせえり)によれば、盗作は漫画家当人の罪をかぶっただけだった。漱石の株、爆上がり。

ゴンちゃん(沢村一樹)といい、漱石といい、碧は恵まれている。ゴンちゃんは見合い結婚する予定だったが破談になっていた。鯛焼き屋・おだやに通って彼の働く姿に惚れたというのは資産価値をチェックしていたという世知辛いエピソード。


碧と結ばれる運命なのだとほくそ笑む俊一郎(中村雅俊)に、「あんなおてんば娘」と死語で反論するゴンちゃん。どうなる、碧とゴンちゃん。そして、漱石。

『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』登場人物全員のなかにあるピュアな部分を担う岡田健史
(C)日本テレビ

揺れる空の心

一方、空(浜辺美波)は憧れの渉先生(東啓介)との初デートにて、彼から鼻毛が出ていることに気づいてショックを受けたものの、その理由――忘れられない人がいて、忘れてはいけなくて、空に嫌われるように、という何かわかりやすい理由を明かされて、逆に「みくびられた気がします」と自ら終止符を打つ。

そして、部屋でひとり絵を描き始める。光(岡田健史)に頼まれた絵を。その絵を見て、光は大喜び。
「入野氏」「水無瀬氏」、そして「入野」「水無瀬」と呼び捨てにし合う仲に。このふたりがじつにいい感じ。空と一緒にいると素直に見える光の表情。彼はちゃらちゃらしているのに、人間の洞察力が意外と鋭い。それが空の刺激になる。

とてもいい感じだったのに、そこに碧がやって来て、光は碧の小説のファンで、碧と光がなんだかいい感じに。
さらにそこへ渉先生が来て、「なんなの? 松竹新喜劇みたいな展開。……って、見たことないけど」と空は混乱する。

全然、違う。どちらかといえばこれは吉本新喜劇。とまじめに考えるところではない。ただ、余計なお世話だが、今、朝ドラを意識してもあんまりいいことない気はする。
視聴者受け、SNS受けを狙うなら、半沢直樹ネタのほうがいいと思うが、それをやらないのは、凡人とは違う才能の成せる技であろうか。

それはさておき、空は再び渉に惹かれていく。渉の記憶のなかの“9歳の少女”という強敵に戦いを挑んでしまった空を囃し立てる碧。母も娘も大変。

が、しかし、碧のほうは大変と思いきや、波に乗ってくる。誰も彼もが彼女のファンなのである。渉も、漱石も、光も。そして、ユウトも。これだけ身近に若い男性ファンがいれば、全然オワコンじゃないだろう。

バブル時代、世紀末の終わりとか酷い事件を描いた物語が流行したのは余裕があったからで、平成、令和と時代が進んだ今、“終わり”というアイテムが身近にあり過ぎて、楽しめないのである。

今は凝って捻った物語、作家個人の資質が表出した強い物語は要らない。「ヤンキーの高校生がボーリングの待ち時間に地方のイオンで見る映画」という筧監督というインチキくさいけど売れているらしい人物の台詞があったけれど、そういう感じの軽めの作品のほうが無難でいい時代だ。

『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』登場人物全員のなかにあるピュアな部分を担う岡田健史
『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』第5話は2月10日放送

(C)日本テレビ

そんななかで自分だけの物語を貫き続けることができるか、それが碧の戦いであり、それを見つめる空もまた、自分だけのホンモノの物語を作ることができるのか。そこに話は絞られていくのではないだろうか。

光と組んで漫画を描けば、空はその道に進めそうに見えるけれど、なんだかへんな渉に行ってしまうもどかしさ。空の行動を見て、光はせっかくガチャでもう一度とったビー玉を空に渡しそびれて、河に投げ捨ててしまう。なんというか、から騒ぎのなかで、光だけが、ちゃらちゃらしているのに、ピュアに見える。なんせ、名前が「光」だもの。

たぶん、本当は登場人物全員のなかにあるピュアな部分を岡田健史が担っている。今もっとも伸び盛りの俳優に筆が走り、さらに磨き上げようとするところはとても正直だと思う。その感覚はまったく錆びていない。

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●第5話あらすじ
碧(菅野美穂)と漱石(川上洋平)の突然のキス!? ……は空(浜辺美波)の帰宅によって未遂に終わる。碧は、クールに距離を置こうとする漱石の本音をはかりかねるが……。

一方、空は漫画制作を通し、自然に光(岡田健史)に心を開いていく。作品のタイトルが決められず悩む空は、碧の作品『アンビリカルコード』が『臍の緒』を意味することを光に聞き、初めて知る。そんな中おだやでは、俊一郎(中村雅俊)が新しい恋人を連れて皆の前に現れる! その相手は、なんと漱石のストーカー彼女だった“サリー”こと沙織(福原遥)! 漱石との苦しくなるような恋に疲れた沙織は、年の離れた俊一郎といるとふんわりした気分になると語る……。

その夜。碧は空が寝静まった家で、一人鍵のかかった引き出しを開けていた。木箱の中には“臍の緒”が入っていて……。

翌日。空は渉(東啓介)との仕切り直し本格デートに挑む! 緊張と楽しさで心がぐちゃぐちゃになる空。そこに光から電話がかかってきて……。表面上は空の恋を応援する光だが、心の内では空への思いが募っていた……。

新刊企画の締め切りに追われる碧のもとには、ゴンちゃん(沢村一樹)が訪れる。ネタが浮かばず苦しむ碧に、ゴンちゃんは大好きな空のことを書くべきだと勧めるが……。訳あって一人で空を育ててきた碧には、空には言えないある秘密があった。いつかは話さないといけないと思っている碧だが……。

そんな中、光は、碧が抱える母娘の“秘密”に思わぬ形で近づくことに……! 仲良し母娘に不穏な大波が降りかかろうとしていた!


番組情報

日本テレビ系
『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』
毎週水曜よる10時〜

出演:菅野美穂 浜辺美波
岡田健史 福原遥 東啓介
中村雅俊 沢村一樹
有田哲平 川上洋平

番組サイト:https://www.ntv.co.jp/uchikare/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami