
のん、監督・主演映画『Ribbon』を語る
のんが監督・主演を務める映画「Ribbon」の劇場公開が決定した。のんが監督を務めるのは、2019年に公開されたYouTube Original「おちをつけなんせ」に続いて2作目。今作「Rebbon」でのんは、コロナ禍により卒業制作の発表の場を奪われ、自分のやるべきことを見つけだせずに葛藤する美大生“いつか”を演じている。撮影/コザイリサ
スタイリスト/町野泉美
ヘアメイク/菅野史絵
ライブ中止の決断に感じた悔しさ
――ご自身が監督・主演を務める映画『Ribbon』ですが、製作のきっかけはコロナだったとか?のん:はい、完全にそうですね。2月29日に『のんフェス2(NON KAIWA FES vol.2)』の開催を予定していて、緊急事態宣言前ではあったのですが、中止するか続行するかを委ねられて。

――ちょうど同じ日に東京事変の復活ライブが決まっていて、予定通り行うことを発表したんですよね。バンドの決断を支持するファンがいる一方で、コロナの感染拡大を懸念する声も上がっていました。
のん:そうなんです。そんななか、私は中止するという決断をしたんですけど、自分の主催するライブに自分で中止の判断を下したことにショックを受けてしまって……。
そして自粛期間に入って、女優の仕事もすべてがストップして。まず、リボンを使った映像を撮りたいってアイデアが浮かんで、最初の3〜4日は寝てばかりだったんですけど(笑)、だんだんこうしていられない、何かを作りたいって気持ちが湧いてきて、アイデアを形にしようと脚本を書き始めました。
――なぜ美術を題材にし、美大生を主人公にしようと思ったんですか?
のん:私自身、絵を描くってこともそうですし、もともとは美大に行きたかったこともありますね。美術大のオープンキャンパスに参加したこともありました。

主人公は何をしている人にしようかなと考えたときに、会社員でもないし、高校生だと……私27歳だし(笑)、じゃあ大学生かなと。それで、大学生でも美大生だったら自分にもできるかなって考えて。
緊急事態宣言が発出されて、美大生は何をしているんだろうって思って調べたら、美大生の方たちにもショックなことがあったんだってことがわかって……。
――卒展ができないなどの影響があったようですね。今回、実際に美大の生徒さんたちに取材をされたとお聞きしました。
のん:だいぶ脚本を書き進めている段階ではあったんですけど、全国の美大が集まって『見のがし卒展』という展示会をやっていたんですね。最終日に行けたんですけど、会場に作品を出展していた生徒さんたちが集まって、多摩美の先生もいらっしゃって、それでお話を伺いました。いきなり行って、「すみません、突然。お話聞けますか?」って。そうしたら、快く話の場をセッティングしてくださって、がっちり取材させていただきました。

鬱屈した感情をダークなものとして表現したくはなかった
――コロナ禍に生まれた映画ということで、タイトルの『Ribbon(リボン)』は『Reborn(再生)』とかけたとか?のん:タイトルをつけたときに、かかっちゃうな、かけたことにしようって思いました(笑)。

――(笑)。そもそも、なぜリボンだったんでしょう?
のん:『のんフェス2』を自分で中止にしてしまったモヤモヤがある状況でリボンのアイデアを思いつきました。きっと、もつれてしまっていた気持ちとリボンとが結びついたんだと思います。それで、可愛いイメージのリボンが眉をひそめるような存在で出てきたら、感情のモヤモヤをリボンで表したら面白いなって思って。
今、コロナで、世界中の人がモヤモヤした気持ちでいると思うんです。この映画は、感情の行き場がなくて、どうにもできないっていうモヤモヤをテーマにしています。その鬱屈した感情をダークなものとして表現したくはなかった。モヤモヤした感情をリボンみたいな可愛いもので昇華できるんじゃないかって可能性を感じるものにしたかったんですよね。
映画に限らず、何かを作るときはどろっとしたものではなく、ポジティブなものに昇華したいって思っているんです。

エンタメは「必要必須」
――緊急事態宣言が発出され、不要不急の外出・移動を控えるようにという政府の方針が示されました。エンタメは不要不急だと糾弾されたこともありましたが、のんさんは「不要不急」という言葉をどのように受け止めましたか?のん:『のんフェス2』の中止を伝えるときに「不要不急なものを控えるってこういうことか」と、実感として自分に押し寄せてきたっていうのはありますね。
中止の決断をしたときは「世界中にコロナの感染が広がっていて、みんなが気をつけないといけないからイベントは控えなきゃ」と、仕方ないという気持ちだったんですけど、中止にすることをバンドメンバーやスタッフに伝えるタイミングになって、「こんなこと言いたくない!」って思って。映画とか音楽とかアートとか舞台を見聞きして、今の自分は形作られていて、だからそれを不要不急だと思いたくないと感じたんです。

――映画では「不要不急」という言葉に翻弄される美大生の姿を描いています。のんさんは「不要不急」という言葉と今後どう向き合っていこうと思っていますか?
のん:私たちの作っているエンタメは不要不急じゃなくて「必要必須」なんだって信じたくて『Ribbon』を作ったところはありますね。この「必要必須」という言葉、あまり広がらないんですけど(笑)。
コロナの影響で、お気に入りのカフェとかパン屋とかタルト屋さんが店を閉めてしまって、すごくショックだったんです。「外に行くのを控えていたから…私のせいだ……」って。そこまで自分の頭がまわってなかったから、申し訳ないことをした、みたいな気持ちになって。

――自分にとって必要だと思っていたのに、「不要不急の外出」を控えた結果、そのお店を失ってしまった……。
のん:何が不要不急かっていうのは難しいですよね。まだ自分の中でも、答えをどう出していいんだろう、どう折り合いをつけていけばいいんだろうっていう思いはすごくあります。イベントが中止になっても、実際コロナは人を介して感染するものだし、その鬱憤を誰にぶつけられるものでもなくて。そんな葛藤だったり、自分の行き場のない感情もこの作品にリンクさせていきました。
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