『おちょやん』第17週「うちの守りたかった家庭劇」
第84回〈4月1日(木)放送 作:八津弘幸、演出:原田氷詩 〉

「大山社長に見限られたんや」
4月1日、「よし」と一歩踏み出すことを『おはよう日本 関東版』で提案していた高瀬アナ。続く『おちょやん』では千代(杉咲花)が「よっしゃ」と前に踏み出していた。偶然? それともBSで見ていたのか。【前話レビュー】恐怖にさらされ、不自由な状況下に笑いをもたらす塚地登場
「よっしゃ」の千代。最近、狂言回し的な役割ばかりだったが、家庭劇解散に関しては自分の強い意思を見せた。
「大山社長に見限られたんや」
大山(中村雁治郎)に家庭劇解散を言い渡された一平(成田凌)はなかなか言い出せずにいたが、ようやく劇団員に話す。
千代は、つかつかと社長と話してくると出ていこうとすると、一平は戦争で「みんなボロボロやで」とこれ以上演劇を続けることは難しいと止める。
「俺の力不足です」
第82回のシズ(篠原涼子)に続いて一平も落ち込みモード。「おもろないわあ」と言って出ていってしまう千之助(星田英利)。
「うちは絶対いやや」
千代は「これ以上大事なものをなくしたくない」と唯一の生きがいである芝居をなくしたくないと必死に頼むが、「でもこれでようやくふんぎりがついたわ」とルリ子(明日海りお)は田舎でひとり残る父の元に戻ると言い、「警報鳴るたんびに子供5人連れて逃げ回んの、もう嫁も俺も限界やわ」と徳利(大塚宣幸)も疎開する意思を示す。

千代にとって芝居が一番大事だけれど、家族が大事な者もいるのだ。楽しみのために芝居をしていたり、家族を食べさせるために芝居をしていたり、人それぞれであることが稽古場で明るみになる。それに、なんといっても命が大事。
一平だって芝居を辞めたくはないが、この戦況では難しい。座長として、劇団員をこれ以上縛るわけにはいかない。
国防婦人会の活動
朝ドラ名物のひとつ、国防婦人会。割烹着とたすきがトレードマーク。銃後の守りとして女性たちが活躍する場で、出征兵士の見送りや、慰問袋の調達など、主としてお国のためになると思われる活動をしていた。戦争を描く朝ドラではたいてい登場し、お国のためを思うあまり、お国のためにならないと判断する言動をする近隣住民を厳しく取り締まる。『おちょやん』では洋楽を演奏する福助(井上拓哉)のことを警察に告げ口し(第81回)、さらにそのトランペットを供出せよと迫る第84回。朝ドラではたいてい、戦時下でも自由にふるまう主人公を抑圧しようとする適役のような存在として描かれている。昨今、嫁いびりする姑があまり描かれなくなってきたなかで、国防婦人会は未だかばうところのみつからない意地悪キャラとして君臨している。
むしろ、現代におけるマスク警察やネット警察みたいに近い存在なので、わかりやすいかもしれない。消えた意地悪姑に対して、意地悪国防婦人会キャラがいつまで物語のなかで生き残ることができるか、今後の興味のひとつである。
今回は、みつえ(東野綾香)が大芝居に出て、包丁で自らを刺そうとしたため、すぐに引き下がった。夫が出征した妻の気持ちを察したのか、あまりに鬼気迫っていたので恐れおののいたのか、判然としないが、婦人会の粘度も薄くなりはじめているようだ。
婦人会が引き下がったあと、すぐにみつえがトランペットを持ち出したことにはハラハラした。婦人会の誰かが疑ってこっそり外から見ていたら大変なことになるではないか。そういう執念深い行為の心配がない世界。やっぱり国防婦人会の描き方も変わってきているのかもしれない。
意地っ張りの千代とシズ
福富は疎開することになったが、岡安は締めたとはいえ、疎開はしないと意地を張るシズ。千代は、劇団は解散しても、一平と寛治(前田旺太郎)と三人で芝居を続けたいと提案するが、一平は乗ってこない。
ついに千代はたったひとりでもやると啖呵を切る。『おちょやん』は、あのテルヲ(トータス松本)に代表されるが、常識で考えると、そうじゃないだろうと思うようなことを頑として貫いている人たちを中心に描いている。常識を知る者から見たら、意地を張ってもいいことないし、そこは考えを変えたほうがいいと苛立ちを覚えるけれど、テルヲも千代もシズも絶対曲げない。
テルヲはもうすこし生き方を変えることができたかもしれないのに、酒と借金が止まらなかった。千代は、戦争が終わるまで芝居を休むという考えに至らない。シズも危険を承知で道頓堀にい続けようとする。なんだか哀しい。
彼らの生き方を見ながら思い出す言葉がある。写真家の蜷川実花さんが、お父さんの蜷川幸雄さんに言われた言葉「目の前に二本の道がある、自分以外の全員が右にいっても、自分が正しいと思えば、たとえたった一人でも、左に行ける人間になってほしい。」(蜷川実花さんのツイッターより引用)を大事にしていることは有名だ。たとえたった一人でも自分が正しいと思う道を行くことをほかの誰も止めることはできないのである。
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■杉咲花(天海千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
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番組情報
連続テレビ小説『おちょやん』<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
作:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami