
※本文にはネタバレがあります
やさしさの輪広がる『コントが始まる』第4話
『コントが始まる』(日本テレビ系 土曜よる10時〜)はやさしさでできている。コントグループ“マクベス”のメンバー春斗(菅田将暉)、潤平(仲野太賀)、瞬太(神木隆之介)とそのファンの中浜里穂子(有村架純)と、彼女の妹で、潤平が通っているスナックに勤めているつむぎ(古川琴音)の交流からはじまり、徐々にその家族や知人へとやさしさの輪が広がっていく。よくできた群像劇で、人間関係もシチュエーションも様々なものが奇跡のようにリンクしていく。【前話レビュー】『コントが始まる』頑張りすぎて電池が切れてしまった人たちの再起の姿をやさしく見守る第3話
第4話、最大のやさしさは、母子の物語にまつわるやさしさ。瞬太が絶縁していた母・友利子(西田尚美)が現れ雪解けするまでの物語と、春斗が台本を書いているマクベスのコントで唯一、瞬太が書いたコント「捨て猫」と絡めて話は進む。
瞬太は高校に入ると一人暮らしをはじめ、母とはもう7、8年くらい会っていない。でもかつて一度、春斗と潤平は母と会っていて、母と子のミートソースと粉チーズの思い出を知る。
なんでもかんでも否定して、自分の欲望に忠実な母親に抑圧されていた瞬太。その否定されてきたリベンジが彼の原動力になっている。お笑い、ゲーム、お菓子、金髪……母のキライなものばかりやっている。「捨て猫」のコントは唯一、瞬太が書いたものだった。
春斗には「着信履歴は心配してるよってメッセージ」(第3話)と言う瞬太が母の履歴(名前は「鬼女」、ゴジラの着メロになっている)を無視している。ところがそんなある日、母が危篤との報せが……。
会いに行くべきと心配する春斗と潤平に、「俺はおまえらとつまんない話、したくないんだよ!」と行って出ていった瞬太は、つむぎの説得でついに母に会いに行く。親しすぎると素直になれない瞬太。面倒くさい性分なだけで、根は母のことを思っている。母が再婚することが寂しかったのだろう。コントグループの名前はマクベスだが、瞬太のこの母への葛藤はハムレットに近い(ハムレットは母が父が死んで間もなく叔父と再婚することに苛立ち反抗する)。
「あんたを許す時間、もう少し俺にくれよ」
最高にシリアスなシーンだが、瞬太はコアラ柄のパーカーを着ている。何か場違いな服だが、神木隆之介の屈折した息子の演技がその違和感をねじ伏せる。
葬式の日はネタ合わせの日で、春斗たちはねぎらって休めというわりに、瞬太に運転させている(車が彼のものだから)。でも瞬太は彼らに「やさしいなあ」としんみり言う。「湯船につかれ」という思いやりは、春斗が第3話で引きこもりの兄にも言っていた。「湯船」、それは「やさしさ」を象徴するキラーワードのひとつである。
真壁先生も焼き鳥屋の店主もスナックのママもやさしい
第4話、最大の「やさしさ」は、1話で描かれた「背後霊」であろう。まさか、1話でおもしろ可笑しく描かれた里穂子に背後霊が見えている?というエピがここで生きてくるとは。「だって俺にはもうマクベスしかなくなっちゃったんだよ」
ネタ合わせを休みたくない本心を吐露する瞬太。それまではなんだかんだ言いながらも母との繋がりをどこかで保険にしていたのだろう。「着信履歴は心配のメッセージ」は着信音がある限り母と繋がっていて、無視(否定)することが彼なりの屈折したコミュニケーションだったと解釈できる。素直になれない瞬太とファミレスでネタ合わせするとき、母の「背後霊」がいるかのように珈琲を4つ頼み、瞬太の前の席を春斗は空ける。なんというやさしさであろうか。悲鳴をあげたくなるほどだった。
「やさしさ」は、高校時代の恩師で「遮二無二やれよ」が口癖で、マクベスの名前の元になっている真壁(鈴木浩介)や、瞬太のバイト先の焼き鳥屋の店主・安藤(伊武雅刀)からも発せられる。真壁は忙しいなか、昔の生徒の相談にのろうと時間を作り、解散の相談を受けて「解散したほうがいい」とさくっと言う。
「18からの28までと、これから先の10年は別次元の苦しみだぞ」
このセリフはなかなか刺さるものがある(経験した人には)。そのあとカメラは奥の寝室側の押入れに入ったたくさんのコントの小道具越しに、春斗と潤平と真壁を小さく映す。「遮二無二やれよ」と期待した言葉ではない逆の言葉、それもまた先生のやさしさだ。
焼き鳥屋の店主は「親だと思ってくれてかまわねえからな」と背中を向けたまま(面と向かってないところが肝)で瞬太に言う。

つむぎの「ミートソース」が最強にやさしい
締めの「やさしさ」はつむぎ。第4話の最初に彼女は傷ついたもの捨てられたものに分け隔てなく心を注ぐ人物だと里穂子のナレーションで語られる。中、高で野球部のマネージャーをやっていて、卒業後に燃え尽きてしまい、スナックで傷ついたおじさんたちの心を癒やすことでお世話好きの心を満たしている。子供の頃に捨て猫を拾ってきていたことと「捨て猫」のコントもリンクしたうえ、つむぎのこさえる「ミートソース」が最強の「やさしさ」に。あいみょんの主題歌「愛を知るまでは」のサビ<優しい心を持ちたいのだけれど>がいつになく強く響いて聞こえた。
ちなみに、本稿の「やさしい」にはどんな漢字を当てても構わない。易しさが優しさになることもある。かの偉大なる劇作家・井上ひさし先生は「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」と書いている。要するに、よく噛み砕いて手渡すということであると考えられるが、『コントが始まる』には偉大な劇作家の精神に近いものを感じるのである。
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※第5話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします
●第5話「コント『カラオケボックス』」あらすじ
つむぎ「努力してなんにも結果が出なかったときのことばかり想像して、一歩も動けなくなった……」
瞬太「ボクが「マクベス」に入れて貰ってからの5年間は、楽しい思い出ばかりだった……」
コント『カラオケボックス』。ステージに現れる中年カップル役の瞬太(神木隆之介)と潤平(仲野太賀)。そして、カラオケ店員役の春斗(菅田将暉)。
里穂子(有村架純)と共に生活をし始めてから1年半の月日が流れたつむぎ(古川琴音)。今流れる時間に不満はなくとも、このまま姉の家に居座り、横で世話をし続ける日々に疑問を感じ始める。しかし、変えなくてはいけない現状を理解しつつも、何かの一歩を踏み出すことに恐怖に似た感情を持つつむぎ。――その横には無邪気な顔で夢を追いかけ続けるように見える瞬太が居た。
一方の瞬太は自身がプロゲーマーを引退し、春斗や潤平と共にマクベスとして活動を始めてからの煌めくような日々を思い返していた。だが、少しずつ今の自分たちの姿はその時から「変化」を持ち始めていることにはずっと気付いていて……。20代後半。それは一つの決断の瞬間でもある。様々な現実と夢との境界線。「変わる」ということには勇気とそして恐怖が伴うことは分かっている。
番組情報
日本テレビ系『コントが始まる』
毎週土曜よる10時〜
▼第1話〜最新話まで全話配信中
出演:菅田将暉(プロフィール) 有村架純(プロフィール) 仲野太賀(プロフィール) 古川琴音(プロフィール) 神木隆之介(プロフィール) 伊武雅刀(プロフィール) 鈴木浩介(プロフィール) 松田ゆう姫 明日海りお(プロフィール) 小野莉奈(プロフィール) 米倉れいあ
脚本:金子茂樹
音楽:松本晃彦
主題歌:あいみょん「愛を知るまでは」(unBORDE / Warner Music Japan)
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:福井雄太 松山雅則(トータルメディアコミュニケーション)
演出:猪股隆一 金井 紘(storyboard)
制作協力:トータルメディアコミュニケーション
制作著作:日本テレビ
番組サイト:https://www.ntv.co.jp/conpaji/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami