『コントが始まる』必要とされたい――個人の夢のドラマではなく「共助」のドラマが新鮮
イラスト/おうか

※本文にはネタバレがあります

個人から共助へ『コントが始まる』第2話

「今売れてるヤツらは例外なく、もう限界だってなったところからもうひと踏ん張りしてきてんだよ」

【前話レビュー】『コントが始まる』第1話 トリオであり親友――緊張と緩和の聖域を輝き生きる芸人の姿を菅田将暉らが巧みに演じる

中村倫也演じる芸能マネージャー楠木の言葉が刺さった『コントが始まる』(日本テレビ系 土曜よる10時〜)。第2回。10年やって芽が出ないので解散しようとしている春斗(菅田将暉)、潤平(仲野太賀)、瞬太(神木隆之介)によるお笑いグループ・マクベス。
彼らの誕生は高校時代、春斗と潤平が初めてコントをやったことがきっかけだった。

潤平は好きな女の子・奈津美(芳根京子)に振り向いてほしくてコントをはじめた。そのためにまず、瞬太を誘ったが、彼はゲーマー活動が多忙で断り、その代わりが春斗だった。でもそれを10年経っても春斗には言っていなかった。そのことがのちに大きな波紋を生むことになる。

10年後、奈津美のためにはじめたお笑いを彼女のためにやめようとしている潤平。
夜の公園、白い花が暗闇に浮かぶように咲いているのを背景にしてブランコに乗りながらも解散話。彼女の元カレは出世していることにコンプレックスのある潤平に「潤平を選んでよかったと思ってるよ」と奈津美はあっけらかんと笑う。

その頃、春斗は、瞬太のバイト先の焼き鳥屋で、大将(伊武雅刀)に「俺はな、新しくバイトを雇うときにはどんなやつでも一生のお付き合いになるかもしれないと思って来てもらってるんだよ。相手の人生をお預かりする責任があると思って一緒に働いて来た」「おまえには瞬太や潤平に人生をお預かりして、一生を共にしていこうという気持ちはなかったのか」と問われる。マネージャーの楠木も発破をかけつつ、相談に乗ると言っていた。

人という字は人と人が支え合っていると生徒に熱弁したのは金八先生(実際の人の語源は違うらしい)。
コントだって、会社だって、恋だって、ひとりではできない。誰かが必要なのである。何かを一緒にやろうと思ったら相手の人生にも思いを致す、それすなわち、共助と言っていいだろう。この考えは新鮮に映った。

なぜなら、これまでこの手の夢を追う物語は個人の物語だったからだ。グループでの活動を描くにしても、自分の夢、自分の可能性、目的や結果を求めるための物語だった。
主人公は目標に達するために相方と別れたり、恋人と別れたり。傷つきながら、誰かを犠牲にして前に進む。

ところが、『コントが始まる』はそうではない。誰かと一緒にやっていこうとする物語であり、コントはあくまでも誰かと一緒に生きるためのものに見えるのである。だからなのか、マクベスのコントが突出して冴えたものではなく、ファンも少ない。極めて凡庸な、でも誠実な表現活動だからこそ、不器用ながらお互いにちょっとずつ支えながら生きることの尊さが際立つ。


ところが、そんなふうに身を寄せ合ってやって来た想いにひびが入る。潤平が最初にコントの相方として選んだのが自分ではなかったことを知ってショックを受ける春斗。もし、あのとき、選んだのが自分じゃなかったら、今ごろ潤平は芸人として売れていたかもしれない。今、ぱっとしない人生なのは、選んだ道を間違えたからではないか。そんなふうに自分を追い詰め落ち込む春斗。そこにも、自分の進む道に対する強い思いよりも、目の前の人のいちばんではなかったことの哀しみが先に立って見える。


『コントが始まる』の特性を象徴している瞬太

悩む春斗に、マクベスのファンの中浜里穂子(有村架純)が、瞬太に関する心配事を相談する。遺書を書いているというのだ。小道具じゃないかと相手にしない春斗に、瞬太がプロゲーマーだったときのインタビューで27歳で死ぬと答えていたと中浜は気を揉む。すっかりマクベスファンになった中浜は徹底的にマクベスを調べるオタク化していた。匿名のブログまで探り当ててしまう。「一度ハマると深堀りせずにはいられないたち」と自己分析する中浜。マクベスとの出会いによって彼女の資質は発揮される。


自分とグループを組んでいなかったら潤平も瞬太ももっと違った人生があったのではないかと考える春斗だが、高校時代、瞬太を救っていた。瞬太は高校時代、死を考えて屋上に立っていたとき、たまたまやって来た春斗によって思いとどまっていたのである。なにげない出会い、なにげない出来事の積み重ねで人生の軌道が変わって、未来への道が現れる。

そして瞬太は「春斗に『おまえしかいない』と言われている潤平は心底うらやましかった。男として生まれてきて、これ以上幸せな言葉がないと思ったから」と、孤独なゲームの勝負の世界より連敗続きでも誰かと一緒にやり続けるコントの世界を選ぶ。それまでの瞬太のドラマこそがこれまでの個人の夢と可能性を追求するドラマである。個人の夢のドラマから共助のドラマの世界の時代へとシフトチェンジした瞬太は『コントが始まる』の特性を象徴しているのではないだろうか。

男でも女でも「おまえしかいない」と言われることがこれほど嬉しいものはない。必要とされたい。『コントが始まる』からはこの想いが強烈に発される。マクベスの代表作『屋上』のコントのラストを、本番前に潤平が少し手直ししたものはその「おまえしかいない」想いの現れである。アドリブを入れない作り込んだコントをやる主義の潤平が珍しく入れたアドリブ。その真意の本気度は、高校時代、奈津美に告白する前の行為をそれ以来行っていることからわかる。

『コントが始まる』必要とされたい――個人の夢のドラマではなく「共助」のドラマが新鮮
第3話は5月1日放送。画像は番組サイトより

彼らにとってのコントは、お客さんを楽しませるため、生活のため、ではなく、大好きな人達と一緒に生きるためのものになっている。例えば、今、緊急事態宣言で、飲食店や娯楽の休業要請が政府から出ている。休業しないでいいものは「社会生活の維持に必要なもの」とされていて、一部の寄席や映画館は「社会生活の維持に必要なもの」だと営業を続ける宣言をした。

マクベスのコントを見ていると、コントは彼らにとって「社会生活の維持に必要なもの」だと痛切に感じる。コントを通して、彼らは生きている。ふだんうまく言葉にできないことを言葉にしたり、誰かを見守ったり、支えたり、輝かせたり。生きるために大事な行為を育んでいるのである。

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※第3話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします

●第3話あらすじ
つむぎ「ウチのお姉ちゃんはヤバい。それもかなり……」
春斗「危うさで言ったらウチの兄貴の方が断然上だ」
コント『奇跡の水』。明転した舞台に現れたのは兄弟を演じる春斗(菅田将暉)と潤平(仲野太賀)、そして謎の男を演じる瞬太(神木隆之介)。誰が見ても怪しさ全開の水を崇拝する兄とそれを説得する弟をテーマにした、マクベスのとりとめのないコントの『前フリ』が始まる―――。
1年半前、廃人寸前になっている姉・里穂子(有村架純)を自宅で見つけて以来、転がり込んで生活を共にしているつぐみ(古川琴音)。彼女の最近の心配は、誰も知らない売れないお笑いトリオ『マクベス』になぜどっぷりとハマった里穂子が、彼らの解散発表以来ため息ばかりついていること。
一方、春斗が気にかけているのは、完璧人間だった兄・俊春(毎熊克哉)のこと。非の打ち所のない順風満帆の人生を歩んできた兄だが、突然人生に挫折。今では実家の部屋に引きこもっている。自分が好きな道に進めたのは、しっかり者の兄がいてくれたから。春斗は自分も兄を追い込んでしまった一端を担っていると感じていた……。
問題を抱える二つの兄弟関係。交わるはずのない2組の関係性にはある一つの「秘められた共通性」が存在していた。孤独に陥りやすい現代にだからこそ届けられる想いが詰まった第3話。危うい兄弟のお話は、またしても想像をしていなかった笑顔あふれるクライマックスへとつながっていく!


番組情報

日本テレビ系
『コントが始まる』
毎週土曜よる10時〜

出演:菅田将暉(プロフィール) 有村架純(プロフィール) 仲野太賀(プロフィール) 古川琴音(プロフィール) 神木隆之介(プロフィール) 伊武雅刀(プロフィール) 鈴木浩介(プロフィール) 松田ゆう姫 明日海りお(プロフィール) 小野莉奈(プロフィール) 米倉れいあ

脚本:金子茂樹
音楽:松本晃彦
主題歌:あいみょん「愛を知るまでは」(unBORDE / Warner Music Japan)
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:福井雄太 松山雅則(トータルメディアコミュニケーション)
演出:猪股隆一 金井 紘(storyboard)

制作協力:トータルメディアコミュニケーション
制作著作:日本テレビ

番組サイト:https://www.ntv.co.jp/conpaji/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami