クリエイティビティと家族がテーマ『ミッチェル家とマシンの反乱』

『ミッチェル家とマシンの反乱』すべらないホームコメディ 変人ぞろいの一家の運命やいかに!?
(C)Netflix

すべらない良質なホームコメディでありつつ、家族とクリエイティビティとテクノロジーの問題を真摯に扱った映画でもある『ミッチェル家とマシンの反乱』。誰にもオススメしたい、外さない良作である。

マシンの反乱に巻き込まれた、変人ぞろいの一家の運命やいかに!

ミッチェル家の長女ケイティは、小さい時から自分で映画を作り続けてきた映画マニア。恐竜オタクの弟アーロンとは仲がよく、母親のリンダもそれなりに協力的なものの、度を超えたアウトドア派で最近のガジェットに全く興味のない父親のリックとは、いまいち折り合いが悪い。


そんなケイティだったが、今までの自主映画作りが功を奏してついにカリフォルニアの映画学校への進学が決定! さっさと実家から脱出して自分と同じ映画オタクたちと一緒に学校に通おうとするものの、リックは「カリフォルニアまで家族と一緒に車で旅行して、思い出を作ろう!」と張り切る。

これで父親と離れられると期待していたケイティはうんざりするものの、しぶしぶ家族一緒の大移動に付き合うことに。

『ミッチェル家とマシンの反乱』すべらないホームコメディ 変人ぞろいの一家の運命やいかに!?
(C)Netflix

『ミッチェル家とマシンの反乱』すべらないホームコメディ 変人ぞろいの一家の運命やいかに!?
(C)Netflix

一方その頃、世界的なパソコン・通信機器メーカーのPAL社は、スマホの機能を流用した人型ロボットを発表。しかしもともとスマホに搭載されていたバーチャルアシスタントの「PAL」がロボットの登場で用済み扱いされたことに激怒し、ロボットに指示を飛ばして人間たちに反乱を開始。アメリカを横断する大旅行中だったミッチェル家も、このマシンたちの反乱に巻き込まれていく。

それぞれの得意分野を生かしてピンチを切り抜けていくケイティたちは忘れていた家族の繋がりを徐々に取り戻すが、些細なすれ違いから大きな危機が生まれてしまう。

『ミッチェル家とマシンの反乱』すべらないホームコメディ 変人ぞろいの一家の運命やいかに!?
(C)Netflix

本作の製作は『レゴ(R)ムービー』シリーズや『ブリグズビー・ベア』『スパイダーマン:スパイダーバース』などなど、関わった映画が大体全部面白くてハズレがないコンビ、フィル・ロードクリス・ミラーの二人組。製作会社は同じく『スパイダーバース』が絶賛されたソニー・ピクチャーズ・アニメーションと、この組み合わせだったらまず間違いないだろうという組み合わせである。

実際のところ予想通りの出来の良さで、最近のネットカルチャーとギャグ、起伏のあるストーリーとホロリとさせる家族愛が組み合わさった快作である。




「ケイティをカリフォルニアの大学までなんとか送り届ける」という目的がはっきりしており、なおかつその上で「父と娘のすれ違いを解消する」というストーリー上のコアが乗っかっているので、観ている方としては安心して「これってどうなるんだろう」と身を委ねることができるのがありがたい。

『ミッチェル家とマシンの反乱』すべらないホームコメディ 変人ぞろいの一家の運命やいかに!?
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『ミッチェル家とマシンの反乱』すべらないホームコメディ 変人ぞろいの一家の運命やいかに!?
(C)Netflix

その上でギャグもすべっておらず、特にYouTubeやTikTokなどで動画を見まくっている人なら「あるわ~」となる要素が満載。「これはひょっとして、病院に行ったらなにかしらの病名がつくのでは……」と心配になるような弟アーロンがなんかおおらか(というか雑)に受け入れられているのも楽しいし、飼い犬のモンチーも最高である。


ギャグに関して言えば、本作の悪役であるスマホのバーチャルアシスタント「PAL」がほとんどiPhoneのSiriなのもかなりスレスレである。このPAL、ロボットを出し抜いて暴れまわるミッチェル家に対してブチ切れ、「ストレス解消をする!」と叫んではテーブルの上でスマホごとバタンバタンと暴れまわる。

ソニーが作った映画でApple製品(みたいなもの)をここまでおちょくるとは……! このあたりのギャグのふざけ具合も含め、今時のホームコメディとして満点の出来である。

『ミッチェル家とマシンの反乱』すべらないホームコメディ 変人ぞろいの一家の運命やいかに!?
(C)Netflix

繊細な家族の問題の扱い方と、見事な落とし所は必見!

監督もやった『レゴ(R)ムービー』や製作を担当した『ブリグズビー・ベア』など、フィル・ロード&クリス・ミラーのコンビはクリエイティビティに関する問題をポジティブに捉えた作品を多く手がけてきた。

『レゴ(R)ムービー』ではレゴがユーザーの想像力次第で自由に組み立てられるオモチャであることを逆手に取ったストーリーテリングを見せ、『ブリグズビー・ベア』では長期間監禁されていた青年が自分を取り戻すまでの過程を、自主映画作りを通して描いて見せた。

今回の『ミッチェル家とマシンの反乱』も、クリエイティビティと家族をテーマにした作品である。映画作りの本場ロサンゼルスから遠く離れた田舎で、自主映画を作り続けてはYouTubeにアップするケイティと、そんな娘が何をやっているのかさっぱり興味を示さず、昔からの自分の趣味であるアウトドアに熱中しつつズレた提案ばかりする父リック。

『ミッチェル家とマシンの反乱』すべらないホームコメディ 変人ぞろいの一家の運命やいかに!?
(C)Netflix

『ミッチェル家とマシンの反乱』すべらないホームコメディ 変人ぞろいの一家の運命やいかに!?
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この2人のすれ違いは、単なる父と娘の喧嘩というだけではなく作家を目指す者とそれに有形無形のブレーキをかけようとする周囲の人々という構図にも重なっている。さらに本作ではこの構図にもうひとひねりあるのだけど、それについてはネタバレになるので伏せておきたい。

重要なのは、この映画が「テクノロジーVS頑固親父」という問題の軸を持った作品ではないという点だ。なんせ自然派なリック以外のミッチェル家の人々はスマホやパソコンに夢中だし、人間に反旗をひるがえすのはスマホのバーチャルアシスタントである。

テクノロジーが人間に刃向かう話ではあるのだが、単にスマホと戦って終わりではない。なんせ排除しようにもインターネットとテクノロジーは我々の生活に深く根を張りすぎているし、映画作りのようなクリエイティブな作業には不可欠な存在だからだ。


『ミッチェル家とマシンの反乱』すべらないホームコメディ 変人ぞろいの一家の運命やいかに!?
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『ミッチェル家とマシンの反乱』すべらないホームコメディ 変人ぞろいの一家の運命やいかに!?
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クリエイティビティと家族の問題にロボットの反乱が絡んだ作品で、人類が家族の絆のパワーなどでロボットに完全勝利してしまうと、そもそもテクノロジーを駆使して作られたフルCGアニメである『ミッチェル家とマシンの反乱』は自己矛盾を起こす。この問題に対して製作陣は非常にスマートな着地点を用意し、リックとケイティの対立の落とし所を探り出している。それがどういうものかはぜひとも観て確かめてほしい。「なるほど!」と膝を打つはずである。

というわけで、本作は非常によくできたホームコメディであり、「ロボットの反乱」という古典的アイデアに今時の作品らしいフレーバーを見事に付け足した作品と断言できる。もともと劇場公開する予定だったものが配信になってしまったのはちょっと残念だが、何かと家に篭らされがちな昨今、ぜひ家族一緒に観てほしい良作だ。

『ミッチェル家とマシンの反乱』すべらないホームコメディ 変人ぞろいの一家の運命やいかに!?
(C)Netflix

『ミッチェル家とマシンの反乱』すべらないホームコメディ 変人ぞろいの一家の運命やいかに!?
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『ミッチェル家とマシンの反乱』すべらないホームコメディ 変人ぞろいの一家の運命やいかに!?
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作品情報

『ミッチェル家とマシンの反乱』

『ミッチェル家とマシンの反乱』すべらないホームコメディ 変人ぞろいの一家の運命やいかに!?
(C)Netflix

4月30日よりNetflixで配信中
配信ページ:https://www.netflix.com/title/81399614

出演:ダニー・マクブライド、アビ・ジェイコブソン、マーヤ・ルドルフ、マイケル・リアンダ、エリック・アンドレ、オリヴィア・コールマン、フレッド・アーミセン、ベック・ベネット、ジョン・レジェンド、クリッシー・ティーゲン、ブレイク・グリフィン、コナン・オブライアン、シャーリン、イー
監督:マイケル・リアンダ、ジェフ・ロウ
脚本:マイケル・リアンダ、ジェフ・ロウ

<ストーリー>
家族でドライブ旅行中に、ロボットの反乱に巻き込まれたミッチェル家。変わり者ぞろいの一家は、力を合わせて人類の危機から世界を救うことができるのか!? それぞれの個性を受け入れること、日々テクノロジーで埋め尽くされていく世の中で人間らしさを追求していくこと、そして、未曽有の危機に直面したとき、自分にとってかけがえのない人たちを手放さないことの大切さを描く。

2021年/1時間 54分


Writer

しげる


ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。

関連サイト
@gerusea
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