
※本文にはネタバレがあります
もうひとつの『花束みたいな恋をした』か 『コントが始まる』第5話
解散の岐路に立たされたコントグループ“マクベス”。もう少し続ける可能性も探っていたが、ついに当初の予定どおり解散することを決意する。【前話レビュー】『コントが始まる』はやさしさでできている マクベス・里穂子らのやさしさが奇跡のようにリンクしていく第4話
『コントが始まる』(日本テレビ系 土曜よる10時〜)、春斗(菅田将暉)、潤平(仲野太賀)、瞬太(神木隆之介)が苦渋の決断をした第5話を観て感じたことは、これはもうひとつの『花束みたいな恋をした』(参照:菅田将暉×有村架純『花束みたいな恋をした』若い時間を愛おしく想い弔う物語)ではないかということだった。
『花束〜』とは言わずと知れた、菅田将暉と有村架純がやがて別れる恋人たちを演じた大ヒット映画である。『花束〜』と『コント〜』に共通するのは、幸福な時間とそれが終わる時の哀しみが甘美なものになる物語であることだ。第5話の潤平のセリフ「あとちょっとで終わると思うから、いろんな記憶が光り輝いて見えるし、離れがたく思うだけでさ――」がそれを端的に表している。
瞬太の「お互いに離れたくないって気持ちが残ってるうちに別れるからいいんだろうね」なんて、まるで『花束〜』の映画を観た感想を述べているみたいにも聞こえてくる。終わるからこそ美しいのは恋だけでない。友情や青春、夢にもあるあるな話なのである。マクベスの3人がじゃんけんをするとき、キャラを作ってやる姿が最高にキラキラしていた。
『コント〜』の場合、マクベスが3人組だったことで、度々、一対一の対立を避けることができた。ところが、ついに3人をもってしても崩壊は避けられなくなり、それが哀しみをいっそう募らせる。
解散に向かって最も心を揺らしているのが、潤平。恋人・奈津美(芳根京子)との結婚を考えていること。彼女の元カレ・小林勇馬(浅香航大)が会社を経営し、成功していることにコンプレックスもある。
救いは、あからさまに無理解、無神経な外敵(客)から潤平をかばう味方(店の従業員や常連)の存在であるが、追い詰められた潤平にはそのありがたみだけではもはや救われない。
一方、春斗はまだ負けたくない気持ちでいて、「このまま笑い者になったまま終われんのかよ」と言うが……。間に入りきれない瞬太は、5年前、辞める辞めないで激しく揉めていた先輩芸人のことを思い出して、頭を抱える。あの時、潤平は「あの歳までいったら、続けんのも地獄、辞めるのも地獄」と言っていた。
今、まさに地獄のど真ん中の3人。ファミレスで話が煮詰まってしまい、春斗が水の入ったコップをとろうとして手が滑り、そのコップが瞬太のコップに当たってカツーンと響いた大きな不快音は終わりのはじまりを告げる鐘のようだった。
『花束〜』でも決定的別れの瞬間の舞台はファミレスだった。終わりはいつもファミレス。これが令和的。
「努力って報われると思いますか」
才能も、信念も、何もない。空っぽな自分に悩んでいるのは潤平だけではない。彼女の他者への優しさは自己肯定の唯一の手段でしかない。それは単に自己肯定感が低いだけであることを瞬太は見抜いている。「本当に空っぽな人ってさ、誰かを助けたいって頭で思うだけで動けない人だよ」と。でもつむぎもまたその言葉だけでは救われない。
「努力って報われると思いますか」
大きな年輪のありそうな木の前で、潤平は里穂子に訊ねるも、そこで彼が導き出した結論は、成功した人は「報われる」と考え、失敗した人は「報われない」。なんだか身も蓋もないものであった。
里穂子が意外と強い人で、高校時代に活躍していたことを知って、春斗はなんだか自分と違うものを感じる。人はけっきょく、自分より弱いものに励みという言葉にすり替えて慰められるものという考えが春斗にはある。勇馬のさばけた態度をそう思う春斗。
でも、里穂子が意外と高校時代に活躍していたのだと知ると、自分たちの悩みとは違うと思ってしまう。中浜はそれを「見下している」と感じる。
里穂子は、仕事と恋に失敗し廃人化していたが、ファミレスでバイトしはじめたことで少し動き出しているように見える。店の客とのコミュニケーションに、10年前に自分がやって報われなかったと思っていたことが役に立った体験が里穂子を少し元気づける。
眉間にシワを寄せて人の話を聞く里穂子の顔は、感情に素直になっている証しである。もともと里穂子は負けん気の強い、がんばり屋さんなのだろう。春斗のネガティブな話を中浜は眉間にシワを寄せ聞いて、意見する。

里穂子は、バイト先の店長・恩田光代(明日海りお)に社員登用試験を勧められていた。社員になる、ならないが問題ではなく、小さな一歩を踏み出すための助言であり、麻雀では「どっちに進んでいいかわからない手がいちばん危険な状態」で、店長はそういうとき「極端に動くのがいい」「じっとしてるとろくなことにならない」と考えていると里穂子は知る。意外と麻雀は人生の縮図かもしれない。
少し元気になってきた里穂子の、あとから結果が出ることや、過去の努力が報われることもあるという長い話に、春斗は反発したように見える。でも、春斗には里穂子の言葉は響いていたのではないだろうか。それがラストシーンのコントでの春斗の最後のセリフに現れているように感じる。
『花束〜』とは違うエンドになるか。それとも報われない延長戦こそが最も光り輝くものになるのか。見えない未来に心がざわついた。
▼第1話〜最新話まで全話&スペシャルコンテンツ「マクベスの23時~皆様の質問に本当に答えます~」配信中
Huluで『コントが始まる』を観る<2週間無料お試し>
【関連レビュー】『コントが始まる』第1話 トリオであり親友――緊張と緩和の聖域を輝き生きる芸人の姿を菅田将暉らが巧みに演じる
【関連記事】『コントが始まる』第2話 必要とされたい――個人の夢のドラマではなく「共助」のドラマが新鮮
【関連レビュー】『コントが始まる』頑張りすぎて電池が切れてしまった人たちの再起の姿をやさしく見守る第3話
※第6話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします
番組情報
日本テレビ系『コントが始まる』
毎週土曜よる10時〜
出演:菅田将暉 有村架純 仲野太賀 古川琴音 神木隆之介
芳根京子 伊武雅刀 鈴木浩介 松田ゆう姫 明日海りお 小野莉奈 米倉れいあ
脚本:金子茂樹
音楽:松本晃彦
主題歌:あいみょん「愛を知るまでは」(unBORDE / Warner Music Japan)
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:福井雄太 松山雅則(トータルメディアコミュニケーション)
演出:猪股隆一 金井 紘(storyboard)
制作協力:トータルメディアコミュニケーション
制作著作:日本テレビ
番組サイト:https://www.ntv.co.jp/conpaji/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami