
※本文にはネタバレがあります
遠慮がちながら自己顕示欲のある里穂子演じる有村架純がピカイチ『コントが始まる』第6話
『コントが始まる』(日本テレビ系 土曜よる10時〜)第6話。毎回、コントグループ“マクベス”のコントにはじまり、コントに終わるこのドラマ。今回のコント『金の斧 銀の斧』は女神役の瞬太(神木隆之介)がきれいだった。【前話レビュー】『コントが始まる』衝突し崩壊を避けられなくなったマクベスの3人に悲しみが募る
マクベスの3人――春斗、潤平、瞬太を演じる菅田将暉、仲野太賀、神木隆之介はそれぞれ違う巧さがある。菅田将暉は仲間や兄想いで主体性があまりない傍観者的な春斗をうまい塩梅で演じている。仲野太賀は純朴な善人に徹する足腰の強さがある。神木隆之介は小動物のような、いつまでも少年のようにかわいらしく見えて、ちらりちらりとクールな大物感をのぞかせる(さすが『SPEC』でニノマエをやっていた人である)。とてもバランスのいい組み合わせだ。
俳優たちがキャラを魅力的に演じているが、物語上ではマクベスは売れないので解散することを決める。恩師・真壁先生(鈴木浩介)にそれを報告するため、マクベスをはじめるきっかけになった中華料理店ポンペイに集まる。
マクベスの熱狂的ファンの中浜里穂子(有村架純)とその妹・つむぎ(古川琴音)も先生が来る前まで一緒。マクベスの思い出の麻婆丼を里穂子が食べたかったのだ。
そこで5人はつむぎに比べ、里穂子は下の名前で呼びにくいという話題でひとしきり盛り上がる。そもそも里穂子の名前をマクベスの3人は知らなかった。
ここでおもしろかったのは、里穂子が潤平(仲野太賀)のブログに投稿していたハンドルネームが「ファンの誇り(ほこり)」――入れ替えると「りほこ」であったこと。
有村架純が何かと「私なんか」というような自己否定的態度をとりながら、それが自己顕示欲である里穂子の不自然さを演じさせるとピカイチである。第6話の後半、酔ってブランコに乗り、『アルプスの少女ハイジ』の主題歌を歌っているときも実にやばかった。
『ひよっこ』のときもそうだったが、キャラを作りこまないといけない作品のとき、有村は自意識が抜けないというか、常に肩に力が入っている。だがそれはツッコまれるキャラ・里穂子を表現するのに有効だ。妙に不器用に不自然なほうが合っている。つまり意識してそういう演技をしているのだろう。一回りして巧い。その証拠に『花束みたいな恋をした』でカラオケ歌っているときはものすごく自然に力が抜けている。力がぎっちぎちに入っている演技だから、里穂子が苗字でしか呼ばれないことに説得力が増す。
でも徐々に徐々に、この5人は親しくなっていく。そこに仕事で現れなかった奈津美(芳根京子)。

3人だったマクベスが6人に
高校時代からずっと全力で奈津美を笑わせてきた潤平。それしか価値がないと思い込んでいる。一方、売れなくても潤平の笑いを理解し支えてきた奈津美。じつは解散にホッとしていた。10年支えてきた優しい女こそ価値があると思い込んでいた。その反面、親には一度も会わせていなかった。お互い、想い合っているはずなのに、その本質を見誤り、外側の価値に惑わされる2人を、春斗、中浜、瞬太(神木隆之介)、つむぎが協力して助ける。
里穂子の家のバスルームで行われたサプライズは傍から見ると痛々しい感じもしつつ、当事者にとっては幸福なことであったろう。『コントが始まる』のマクベスのコントは決してすごく面白いものではなく、客も少なく、笑い声もあまり聞こえない。このサプライズもそれに近いのだけれど、冴えない日々に浮かない顔をして生活し続けるよりも、少しでも笑う努力をして、気持ちを上向かせたほうがいい。
マクベスにとって笑いは仕事ではなくて、人生を上向かせるためのお守りのように感じる。
6人で行う餃子パーティーはとても楽しそう。その楽しい流れのなかで、瞬太が里穂子の名前を初めて呼ぶ。「一番里穂子」。次は潤平。最も親しい感じの春斗だけなかなか名前を呼べない。
でも彼がようやく「里穂子(先輩)」と呼べる瞬間もうまく用意されている。最後のコントのオチも潤平と奈津美へのサプライズ。マクベスは解散に近づいているが、3人には代わりのものが出来つつある。このドラマは決して終わりを描く哀しい話ではない。失うものあれば得るものがあることを描いているのではないか。
前述したように、俳優は皆、すごく巧いのだけれど、突出しているのは、菅田将暉と芳根京子。寝ている潤平の顔の上に上半身裸で馬乗りになって「気持ち悪い肉体」と潤平から言われる春斗のシーン。白い背中をうねらせる。その気持ち悪さをイベントではなく生活の一部のようにさりげなくやっている菅田将暉は手練だなと思う。
芳根は高校時代の回想で制服を着ている場面。彼女の主演ドラマ『半径5メートル』でも変装で制服を着ていたが、大人が制服を着ているギャップの自意識がいっさい感じられない。ウェットスーツを着たときも面白いことやってます自意識がない。
これは神木隆之介の女神にも言える。女性を演じる自意識の強さがない。彼らはまるで自意識という暴れ牛を制御できる闘牛士のようである。
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※第7話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします
番組情報
日本テレビ系『コントが始まる』
毎週土曜よる10時〜
出演:菅田将暉 有村架純 仲野太賀 古川琴音 神木隆之介
芳根京子 伊武雅刀 鈴木浩介 松田ゆう姫 明日海りお 小野莉奈 米倉れいあ
脚本:金子茂樹
音楽:松本晃彦
主題歌:あいみょん「愛を知るまでは」(unBORDE / Warner Music Japan)
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:福井雄太 松山雅則(トータルメディアコミュニケーション)
演出:猪股隆一 金井 紘(storyboard)
制作協力:トータルメディアコミュニケーション
制作著作:日本テレビ
番組サイト:https://www.ntv.co.jp/conpaji/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami