『おかえりモネ』第3週「故郷の海へ」

第11回〈5月31日(月)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

『おかえりモネ』第11回 今週の演出は『あまちゃん』でキュン♡シーンを担当した梶原登城氏
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

モネこと百音(清原果耶)が登米に来て3カ月、初任給をもらい、祖母・雅代(竹下景子)の初盆に久しぶりに故郷・亀島に帰ることになった。お土産を両手いっぱいに抱えて、BRT(バス高速輸送システム)、フェリーを乗り継いで、山から海を渡って島につく。家族のあたたかい声と笑顔にモネは包まれる。

2014年7月。

【関連レビュー】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第11回掲載中)

うな重美味しそう

気象予報士・朝岡(西島秀俊)に影響を受け、気象予報士の勉強をはじめたモネ。試験の本を買ったとき、レンズフレアのなないろの光がこれでもかとモネに差し込んで、彼女の心に希望を灯す。
いざ高価な本を開くと、見知らぬ言葉の数々に怯むも、できることからはじめるモネ。空の写真を撮って大きなボードに貼って名前と形を覚えるなどして、夏を迎える。

初任給をもらったモネ。その晩の食事はうな重。サヤカ(夏木マリ)がお重を捧げ持って、モネに向かい頭を小さく下げるところを見ると、モネが初任給で奮発したのであろう。モネ、いい子。家賃についても相談する。

モネの良いところは、誠意や努力をひけらかさないところ。「粛々」という言葉が似合う。もしくは「地道」に「コツコツ」。


モネは帰郷したくないのか

サヤカに帰省を促され、帰郷することにしたモネ。帰省すると聞いた菅波(坂口健太郎)が「意外と帰りたくないとか?」とモネの心を伺うようなことを言う。モネは言葉少なで表情に感情をあまり出さないから、周りが口にすることでモネの感情がわかる。菅波は医者だから敏感なところがあるのだろう。毒舌な人物ではあるが、医者をやっているだけはあって、心底人に冷たいわけではないのだろう。

「ハートウォーミングな案件くさしてたら悪者になる」と自己弁護する菅波。何かとキツイことを言いがちなことを自覚しているようだ。第10回の「あなたのおかげで助かりましたっていうあの言葉は麻薬です」をはじめとしたきついセリフの数々はSNSをざわつかせた。

空気が読めないのではなく、空気をあえて読まずに波風立てる男・菅波。いったいなぜ彼はそんなことをするのか。気になる。クールな印象の一方で、空間認識能力が若干人より劣っているため、投げられたものを受け取ることができないところもある。モネはそんな菅波がおもしろい人と思うようになる。


『おかえりモネ』第11回 今週の演出は『あまちゃん』でキュン♡シーンを担当した梶原登城氏
写真提供/NHK


『おかえりモネ』第11回 今週の演出は『あまちゃん』でキュン♡シーンを担当した梶原登城氏
写真提供/NHK

菅波が指摘した「意外と帰りたくないとか」に、モネは家族には会いたいとぼかす。実際、島から出たいと深刻な顔で家族に語って出てきているので、そんなに無邪気に帰省はできないはず。最初は浮かない心持ちで、海が近づいてくると目がうつろになっていく、でも船で海を体感するとホッとなる。ドラマではそれを言葉にしないですべて画で見せている。

清原果耶は、帰郷に当たり緊張しながらも、バスの同乗者(方言が自然)との会話や気仙沼の港で再会した父・耕治(内野聖陽)と妹・未知(蒔田彩珠)と触れ合う時や、船上で海風に顔をなでられる時にはリラックスしていく。潮の匂いなども感じ、身体と心が動いている時やバスの中でお互いの故郷の食べ物が美味しいという話をしているモネの笑顔の柔らかさ。この本来のモネを、大リーグボール養成ギブス(例えが昭和ですみません)のように抑え込んでいる謎の力とは……。

今週の演出は

今週の演出、梶原登城さんは『あまちゃん』にも参加していた。第5週「おら、先輩が大好きだ!」、第21週「おらたちの大逆転」などキュンシーンを担当していた。とりわけ「おらたちの大逆転」はアキとミズタクのハグがあって(第126回)、SNSがそりゃもう大騒ぎの週だった。

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『あまちゃん』は脚本の密度の高さもあって、脚本、演出、演技が三つ巴で勝負しながらそれが見事に溶け合っていたので、どこが誰の仕事と切り分け難いものがあった。『あまちゃん』では井上剛さん、吉田照幸さんの演出家・2トップが注目されていたが、梶原演出も名作回ぞろい。

『おかえりモネ』でも前述のレンズフレアてんこもり画面をはじめとして(アキとミズタクのハグでもセットにもかかわらずレンズフレア効果を使っていた)、書店の様子をカーブミラーで映したカットを入れたり、うな重を入れたり、サヤカが蚊を叩く画を入れたり、ちょいちょいアクセントを入れてくる。
トンネルから差し込む光は『あまちゃん』を思い出した。

余談だが、アキとミズタクのハグの第126回は今はもうない土曜日の回である。土曜日は視聴率が下がると言われ、実際そうだったりもするのだが、土曜日に名作があることもあって(『ひよっこ』は土曜日の視聴率が高い異例現象があった)、土曜日の朝ドラがなつかしくもなる(今は、振り返り番組になった)。



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番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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