『おかえりモネ』第3週「故郷の海へ」

第13回〈6月2日(水)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

『おかえりモネ』第13回 まるで朝ドラヒロイン? 内野聖陽演じる父親像が朝ドラで珍しいタイプである点
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

モネこと百音(清原果耶)はお盆に実家へ戻り、同級生の及川亮(永瀬廉)、野村明日美(恒松祐里)、早坂悠人(高田彪我)と再会する。ひとりだけ遅れて来た後藤三生(前田航基)は見違えてしまっていた。

【関連レビュー】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第13回掲載中)

モネは中学時代、この同級生たちと吹奏楽部に入っていた。
モネはアルトサックス担当。その頃の写真やムービーを懐かしく見る同級生たち。野外での演奏シーンもあって、空に届くような演奏にキラキラとアオハルの香りが漂った。これも話題の「島マジック」(第12話で明日美が言った言葉)のひとつであろうか。

ド正論言うと逃げ場がなくなる

新登場の三生は期待を裏切らなかった。ユーモラスな雰囲気で場を和ませる。お寺を継ぐつもりで大学に行き、このお盆の行事で僧侶デビューする予定だったが、突然、進路変更。バンドをやろうと金髪にピアスと変身。状況をおもしろおかしく描きつつ、進路問題自体はシリアスで。

モネが、今、(進路を)決めなくてもいいんじゃないかと言うと、亮が「ド正論言うと逃げ場なくなっから」とたしなめる。モネが「私もちょっとわかるし」と言うと、亮も未知も表情を変える。未知はいちいち亮のことを気にしている。

亮は「漁師以外、選択肢ないんで」と龍己(藤竜也)と爽やかに話していたが、未知と話していたときは仕事のきつさに少し心が折れそうな時もありそう。


「正論」を辞書で引くと「筋道の通った、正しい議論(主張)」とある。新明解国語辞典第八版には[多くは、実際には採用されたり 行われたりすることが無い]と身も蓋もないことが書かれていた。みんな正論はわかっているけれど、それができなかったりやりたくなかったりするから問題が起こる。そしてそれがドラマになる。正論ではドラマにならない。

その点ではモネは何やら心に抱えた悩みはあるものの、正論の道を歩いており、ドラマになる人生から程遠い。だからじっとしているように見える。彼女が正論からはみ出して歩き出すことでドラマが動き出すことだろう。

同級生たちが演奏のムービーを見ているところは実に楽しそうだった。演奏シーンは本当に音が高らかと鳴って、モネたちの人生はなんの障害もなさそうだ。それが今や頭の上に重しを乗せられたたようなモネや三生。あの頃を失わずに大人になることはできるのかできないのかの局面ってほろ苦い。


耕治が朝ドラヒロイン

第2週の前半は耕治が印象に残ったが、第3週もまた耕治が目立つ。モネたち同級生の話をドアの向こうで立ち聞きしているのを見つけたとき、法事の後の飲みでお猿さんのように顔を赤くしている。

お寺を継ぎたくなくて、でもこっそりモネたちには会いに来た三生を、叱ることなく話を聞き、むしろ共感する。自分が家業を継がなかった「パイオニア」として。これは2週で耕治が言っていたことと繋がっている。

朝ドラお父さんにしては、ものわかりが良く、子どもたちの視点に立って、一緒に吹奏楽もやっている(むしろ自分が楽しんでしまってる)という、主人公視点に近い、大人に成りきれてないようなお父さんは、朝ドラではちょっと珍しい。

「親の仕事継ぐって、やるなら超えてかなきゃダメだろってプレッシャーかがっとごあるしな」というセリフは男としての責任感が伝わってくる。今はジェンダーフリーの時代だけれど、ちょっと前までは男性は家を継ぐ責務に苦悩していた。そこから出ることができた耕治ながら、完全にすっきりしてもいない。

『おかえりモネ』第13回 まるで朝ドラヒロイン? 内野聖陽演じる父親像が朝ドラで珍しいタイプである点
写真提供/NHK


『おかえりモネ』第13回 まるで朝ドラヒロイン? 内野聖陽演じる父親像が朝ドラで珍しいタイプである点
写真提供/NHK

なんだか耕治の物語になってしまっている。耕治が朝ドラヒロインみたい。内野聖陽の主役体質がそうさせてしまうのだろうか。耕治は正論(親を正しく継ぐ)から外れたから物語になっているのである。
中学時代の演奏会のムービーでも、後ろにいたのが、前列のモネと並んで演奏、みんなを煽る。後ろから前に行くときの身のこなしのキレなんてさすがである。

面白いのは、家を継ぎたくないと言いながら、「1000年」と言った耕治に「1120年」と正しく言い直す三生。なんだかんだいって家のことは誇りなのであろう。

耕治、亜哉子、新次の関係

お盆の夜、同級生たちはモネの家に泊まることになった。はしゃぐ一同。亜哉子(鈴木京香)はみんなの家に電話をかける。お母さんらしい行為。住所録をめくって亮の家のケータイ番号にかける(自宅番号には線が引いてある)。

電話に出たのは新次(浅野忠信)で、亜哉子の様子が何か不自然。それをそっと見ている耕治の表情。住所録に書かれた名前は新次のものではないこと(そのインク文字が黝色して虹色っぽいところが凝っている)。亜哉子と耕治の表情……さらにそれに気づくモネ……とても思わせぶりな画の数々。
序盤、亮が龍己と話しているときの耕治の表情も。

メリハリある出来事は起こらないのだが、水面下で何か蠢いていて目が離せない。法事に来ないでひとり、仮設住宅らしき場で飲んだくれている新次と子どもの花火は、顔を赤くして子どもたちとおしゃべりしている耕治とはまるで違う。あの日の演奏の一体感とは違う、それぞれの人生が明暗を分けているように見えた。



※『おかえりモネ』第14回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします

番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
編集部おすすめ