
※本文にはネタバレがあります
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朝を待つ夜間の緊急救命で働く若者たちの群像劇
『ナイト・ドクター』(フジテレビ 系 月曜よる9時〜)は夜間の緊急救命で働く若者たちの群像劇。救命に情熱を燃やす朝倉美月(波瑠)、上級医で良い上腕二頭筋の持ち主・成瀬暁人(田中圭)、持病を抱えた妹・心美(原菜乃華)がいる深澤新(岸優太)、陽気に見えてナーバスな桜庭瞬(北村匠海)、高飛車だが優秀な高岡幸保(岡崎紗絵)の5人と、ニューヨーク帰りの指導医・本郷亨(沢村一樹)。この6人が、あさひ海浜病院で新たに創設された夜間勤務だけを専門に行うその名もナイト・ドクターのメンバーである。ナイト・ドクターという呼び名はカッコいいが、「要はただの夜間勤務」(深澤)。あさひ海浜病院は、24時間365日、どんな患者も受け入れる理念を掲げていたが、昨今、人手不足による過重労働になっていたところ、「働き方改革」によって大規模な勤務体系改善を行うことになった。当直を廃止し、昼・夜の2部制にして、夜間は夜間でナイト・ドクターに任せることになった。と言えば聞こえはいいが、実は優秀な医者を休ませるためで、ナイト・ドクターは「スペア」「二軍三軍」と考えられていた。
実際、寄せ集めのメンバーで、即戦力になるのは朝倉と成瀬のふたりだけ。あとは医師になって3〜4年の若手である。それでも患者は待ったなし。
「夜空に月がのぼる。それが戦いの合図だった」と朝倉のナレーションで、重症患者が続々搬送されてくる。どこの病院も人手不足で、あちこちたらい回しにされて、危機的状況にある患者たちである。
受け入れを断った患者が自分の妹だった
衝撃最初の患者は、工事現場で崩落事故に合った青年。明日、彼女とデートで、プロポーズすると苦しい息の下で言うが、足を切断しないと命が危ない。朝倉は懸命に処置するが……。どんな症状にも動じず、毅然と手当てする朝倉に比べ、おどおどして何もできない深澤と日頃は明るく振る舞っているが患者の激しい損傷に吐き気をもよおしてしまう桜庭は頼りない。ただ、朝倉もやけに頑張り過ぎていて、成瀬から「救命に向いてない」「今すぐやめろ」と注意を促される。
朝倉が頑張り過ぎることにはわけがあった。彼女のみならず、皆、それぞれなにかを抱えているようで、徐々にそれが明かされていくだろう。
過去にトラウマ、仕事に集中するあまりプライベートを捨てている……という設定は医療ものあるある。若い医師たちによる群像劇といえば、山下智久、戸田恵梨香、新垣結衣らの活躍で劇場版も大ヒットした『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』シリーズ(08、10、17年)のようだという声もSNSで囁かれていた。既視感はその世界に入りやすくなる利点もあれば新鮮さが感じられないともいえる。
既視感といえば、フジテレビは人気の医療ものに『救命病棟24時』シリーズ(99、01、05、09、13年)もあって、『ナイト・ドクター』の48時間ぶっ続けで働いている医師の話には、第2シリーズで渡辺いっけい演じる医局長・小田切が働き過ぎて倒れてしまうエピソードを思い出した。
ちなみに、『救命病棟24時』の第1シリーズの主題歌はDREAMS COME TRUEの「朝がまた来る」で、『ナイト・ドクター』は、朝が来るのを待ちながら夜を過ごす医者たちの物語。第1話の冒頭では、高く昇った月が徐々に地平線に落ちていき、朝倉がその月を見るところからはじまる。
「不安で眠れない夜。
孤独を何かで埋める夜。
とろけるような甘い夜。
現実を忘れようとはしゃぐ夜。
誰しもが当たり前だと思っていた。
どんな夜もやがて明けることを。
朝がまたやって来ることを」(朝倉)
ほかにも「朝を見せてあげたいんだよね」というセリフや、成瀬の「朝が来た。交代の時間だ」というセリフもあって、「朝」が強調されている。波瑠が朝ドラ『あさが来た』(2015年度後期)の主人公を演じていたことに掛けているところもあるだろうし、暗く辛い夜を必死でやり過ごせばやがて朝が来るという希望を描いてもいるのだろう。夜が舞台の『ナイト・ドクター』はコロナ禍によって夜のように暗い1年半が続いているからこその設定ではないだろうか。最近、この手の凪待ちのようなドラマが多いのだが、時代的には致し方ないが、『ナイト・ドクター』では明るい朝を描いてほしい。
第1話は、深澤がナイト・ドクターの激務に早くもついていけず、辞めようと思ったとき、患者受け入れ依頼の電話がかかってきて、手が足りないから断るが、その患者が誰あろう持病のある妹だったというくだりが衝撃的だった。この体験を経て、誰かが引き受けなければ失われてしまう命の重さを痛感したに違いない深澤の、今後の成長を見守っていきたい。
また、桜庭の心身の調子は復調するのか、成瀬の上腕二頭筋が活躍するときは来るのかも気になるところ。
第1回で不憫だったのは佐野大輔(戸塚純貴)である。なまじ普通の男子だったために朝(倉)を待つことができなかった残念な人物。中華街デートのとき、指輪を用意してプロポーズのタイミングを見計らっていて、なにかと朝倉を褒め、欲望を満たすために必死な姿は、戸塚純貴の憎めないキャラによって、悪くは思えなかった。彼はただ本能に忠実なだけなのだ。
(木俣冬)
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番組情報
フジテレビ 系『ナイト・ドクター』
毎週月曜よる9時〜
出演:波瑠 田中圭 岸優太 岡崎紗絵 北村匠海
一ノ瀬 颯 野呂佳代 櫻井海音 梶原善 真矢ミキ 小野武彦 沢村一樹、ほか
脚本:大北はるか
音楽:得田真裕
プロデュース:野田悠介
演出:関野宗紀 澤田鎌作
制作著作:フジテレビ
番組サイト:https://www.fujitv.co.jp/NightDoctor/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami