『おかえりモネ』第7週「サヤカさんの木」

第32回〈6月29日(火)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

『おかえりモネ』第32回 朝岡(西島秀俊)の気象予報士仲間が登場し、新たなフェーズへ
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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2015年8月、百音(清原果耶)は2度目の気象予報士の試験に挑戦する。その結果、気象予報士を目指す意味があるか悩みはじめる百音だったが、気象予報士の朝岡(西島秀俊)と再会し、揺り戻しが来る。朝岡の会社のスタッフで、同じく気象予報士の野坂碧(森田望智)内田(清水尋也)も登場し、新たなフェーズへ――。


【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第32回掲載中)

「社会人あるある」

2015年7月、気象予報士の免許より先に運転免許を取った百音。あっという間に8月になって、2度目の気象予報士の試験日がやって来た。

田中(塚本晋也)が復調し、蓮の花を撮影に行けることになったその日に試験が重なって百音は残念な気持ちに(実際、宮城は8月に伊豆沼の蓮祭りがある)。「また来年一緒に行こう ってのは冗談きついか」と自虐的なことを言う田中。長生きしてほしい。

こうして挑んだ試験だったが、百音は仕事が忙しくなって、最初の試験のときより勉強ができず、受かる自信がなかった。百音の部屋に貼ってある写真が、空の写真だけでなく森林組合の仕事の写真が増加していた。
写真の数で百音の状況がわかるところがおもしろい。

森林組合の仕事も充実し、車の免許を取ったことでやることが増えていた。菅波はそれを「社会人あるある」と言う。

「普段の仕事や生活が充実してきてしまうと、途端に資格試験の情熱が薄らぐ」

菅波、鋭い。人間は目の前のことに夢中になりがち。長い目でものを見る術を身につけないといけない。
百音は、登米にも慣れ、森林組合の仕事にもやりがいを感じ、それなりに老いているサヤカ(夏木マリ)のお世話もしたいと思っている。耕治(内野陽聖)亜哉子(鈴木京香)の子どもだし、地頭は良さそうだし、仕事もできないほうではないのだろう。

とはいえ、目の前のやれることをちょっとずつやっていくことで、自信や希望を取り戻すこともできるのだから、百音のやっていることは悪いことではない。

運命の相手

「しかし運命の相手というのは、こちらの心が揺らいでしまいそうになると、突然現れたりするものです」

ナレーション・雅代(竹下景子)も鋭い。雅代の言うように、忘れかけたもの、忘れようとしたものがふいに現れ、これって運命なのでは? と思ってしまうことは人生あるある。

2度目の試験にも受かりそうにない百音は、菅波に言われ、今後のことを一度ちゃんと考えることにした。気象予報士の免許は、免許を取ればすぐになにか仕事になるようなものではなくて、その資格を生かして何ができるか主体性が求められる。


百音が悩んでいると、9月、朝岡が再び登米にやって来た。樹木年輪を用いた年輪気候学が専門の中本教授(若尾義昭)を伴ってきた。中本は300年前のヒバの木に興味を持っていた。天明の大飢饉や天保の大飢饉の情報が得られるはずで、逆に、これから300年後の気候も予測できるかもしれないと言う。

さらに朝岡は、所属するウェザーエキスパーツの若手・野坂と内田を連れてきた。野坂は防災に興味があり、内田は花粉症に興味をもっていた。
ふたりとも気象予報士で、内田は1回で試験に受かった超優秀な人物(清水尋也がメガネできのこ頭、ちょっと体をくねっとさせていて印象的)。

『おかえりモネ』第32回 朝岡(西島秀俊)の気象予報士仲間が登場し、新たなフェーズへ
写真提供/NHK


『おかえりモネ』第32回 朝岡(西島秀俊)の気象予報士仲間が登場し、新たなフェーズへ
写真提供/NHK

百音の気象予報士の資格を取りたいと思った漠然とした気持ちが野坂や内田との出会いによって具体化しはじめる。未来の予測ができること、災害を事前に防ぐこと、山の木によって雨の災害を防ぐこと……これらは百音にとって魅力的に映ったに違いない。

リードタイムとは

朝岡が言う気象ビジネスにおける「リードタイム」は「備える時間」。天候によって災害が起こるまでの時間や花粉が飛散して花粉症になるまでの時間。一般的に用いられている製造業のリードタイムは、注文を受けて納品するまでの時間で、短いほうがいいと言われる(百音は森林組合の学童机の納品でそれは学んだ)。

菅波も田中に「リードタイム」という言葉を使っていた。
菅波の考える医療における「リードタイム」は治療方法を迷う時間。リード(lead)は英語で「先導する、引っ張る、勝る」というような意味。つまり、ビジネスにおいて他社よりもいかに先行できるか、そのために重要な時間。気象や医療においてはいかに良き結果に導けるか。そのための時間。

勝つため(ゴールまで)の時間をどう過ごすか。
ただ無為に時間を過ごすわけでもなく、着々と準備する。土の中で根を張るように。こういう考えを提示する『おかえりモネ』はただのんびりした牧歌的な物語ではなく、300年先までの未来を見据える、すなわち生きるための希望を模索する物語である。

野坂と内田と山に入り、ふたりの仕事ぶりを百音が見ているときはパッパラーと管楽器の劇伴がかかり、森林組合に戻って、大事なことを聞くとき、音楽が止まり、また百音の心が動き始めていくと、やわらかな劇伴がかかる。朝岡の「リードタイム」の話のときは、ピアノとボーカルありで、雨や空気が動いているような天候の神聖さを感じるような劇伴。まさに「運命」が百音を導いているようであった。SEや劇伴がかかるタイミングとその種類、かからないときが慎重に考えられ、それが百音の心模様になっている。耳だけでも楽しめる回だった。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪



番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami