『おかえりモネ』第7週「サヤカさんの木」

第33回〈6月30日(水)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

『おかえりモネ』第33回 朝岡(西島秀俊)の確信に満ちて澄んだ瞳が百音(清原果耶)を導く
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

※『おかえりモネ』第34回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします


「何もできなかったと思っているのはあなただけではありません」
「何もできなかったと思う人は、次はきっと何かできるようになりたいと強く思うでしょ? その思いは私達を動かすエンジンです」
朝岡(西島秀俊)の言葉が染みた。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第33回掲載中)

朝岡と登米やサヤカ(夏木マリ)との関わりは、2011年、東日本大震災のときに遡る。朝岡も、中村先生(平山祐介)も、百音(清原果耶)も……皆、不思議な縁によってここ登米に集まってきていたのである。


「ほらぁ、あんたやっぱりここの山に引っ張られてきてるのよ」
「山の神様があ」

サヤカは百音をからかう。でもきっと百音が登米に来たことは必然……。

天気予報の檜山さん

第32回のエンド5秒の視聴者投稿は、『あさイチ』の天気予報担当の檜山靖洋のピースしたような雲だった。

翌朝、高瀬アナが「採用された気持ちは?」と聞くと、「まあ……嬉しいです」と照れたように答えて、高瀬アナに「ピースでしょう」と突っ込まれた。エースアナだけに気の利いたことを言える高瀬に比べると、檜山はいつも素朴なリアクション。遠慮がちな印象もあって、朝ドラ送りしたいのにできない雰囲気もなんとなく漂ってきた。それが今回は、ヒロインが気象予報士を目指すドラマなので、檜山と無縁ではない。
朝ドラといい感じに絡めてキャラが立ってきてよかった。

朝岡と中村の関係

登米を訪れた朝岡、野坂碧(森田望智)内田(清水尋也)の歓迎会がその夜、行われた(教授は帰ったの?)。

名物・油麩丼を振る舞われているところへ、中村先生もやって来た。震災のとき救援活動をしていた先生は、そこで朝岡と知り合って、以来、連絡をとりあっていたのである。

朝岡も、中村も、復興支援活動で繋がっていて、今も「まだまだ」と活動を続けている。あれから4年、「しかしまだまだだなあ」「まだまだですね」と言う中村と朝岡。

災害当時も支援に尽力し、時間が経過してもまだ気にかけ続けている、誠実なふたりの会話を、黙って聞いている菅波(坂口健太郎)と百音。
百音はきっと、自分は何もできなかったとまた反芻していたことだろう。

その頃、気仙沼では未知(蒔田彩珠)が進学せずに就職すると言って耕治(内野聖陽)を心配させていた。未知は未知で地元のために働きたいと焦りに似た思いを抱いているように感じる。「無理してないか?」と耕治は訊ねるが……。

『おかえりモネ』第33回 朝岡(西島秀俊)の確信に満ちて澄んだ瞳が百音(清原果耶)を導く
写真提供/NHK


『おかえりモネ』第33回 朝岡(西島秀俊)の確信に満ちて澄んだ瞳が百音(清原果耶)を導く
写真提供/NHK

百音とサヤカの誕生日が一緒

激しい台風がやって来て、サヤカの部屋が山側にあるので念のため、百音の部屋で寝ることに。百音の部屋に写真がたくさん貼ってあることに初めて気づくサヤカ。百音と菅波の関係にはクビをつっこむが、百音のプライベートに干渉しないところが素敵。


布団を並べて語り合う百音とサヤカ。サヤカが台風の日に生まれたと聞いて驚く百音。よくよく聞けば、誕生日が一緒だった。
カスリーン台風は1947年に起こったから、2015年当時、サヤカは68歳ということになる。

サヤカが生まれた日の台風は大型で、この地域は水難に遭い、彼女は新田家に引き取られた。代々、伊達家に仕え、山に木を植える仕事をしていた。
その仕事を継いだサヤカ。木は人間の生きる支えになる。何もかも失っても木があれば、人間はそれを使って生きようとする。火を焚き、家を建て、船を作り……そうやって生きていく。

第32回でサヤカは山の神様の使いのようなファンタジックなことを言っていたが、江戸時代から代々、山に木を植える仕事をしてきて、サヤカも「あの木は人々の暮らしを守る最後の砦」と言われてきたと聞けば、昔であれば、神様と密接な関わりを感じながら生きてきて、おとぎ話のように落とし込むこともできたことであろう。

でも現代では、朝岡をはじめとして科学という魔法の力で、天気と山と森の関わりを論理的に解き明かし、コントロールすることも可能になってきている。
時の流れのなかで変わらない人間の想いと、自然の仕組みと、変わっていく知識の進歩を、15分の短い時間で感じさせる壮大な試み。

「リードタイム」とは

未来は誰にもわからないが、気象はわかる。朝岡の掲げる気象における「リードタイム」は危険を予測し回避する時間。大切なものを守る時間であると、朝岡は言う。百音にわざわざそう言うのは、百音が、震災のとき何もできなかったことを悔やんでいることを感じたから。「食いついてきた」とわかっていて、百音の気を引くように興味ありそうなことを振りまいていたのである。

「何もできなかったと思う人は、次はきっと何かできるようになりたいと強く思うでしょ? その思いは私達を動かすエンジンです」
百音に語りかける朝岡の瞳は確信に満ちて動かない。
そこに光が当たり澄んでいる。朝岡こそ、百音を導く、天気の神様のつかいのようである。

朝岡も、中村も、誰もが多少なりともそう感じていると朝岡。それはドラマの中に限らず、視聴者もそうであろう。心の隅にあり決して拭えない気持ちに言葉を与えられ、はっとした朝だった。ぐいぐい力任せに引きずり出すのではなく、控えめに、慎重に、人の心に触れてくる。

ドラマを観ている私達もまた、いつか来る災害のリードタイムを生きている。その時間をどう活用するか、心がけ次第なのである。まずは、百音のようにラジオにライトに水……を用意しておきたい。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪




番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami