『おかえりモネ』第7週「サヤカさんの木」
第35回〈7月2日(金)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

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気象予報士になるべきか、森林組合の仕事をするべきか迷った末、百音(清原果耶)は気象予報士になる決心を強くする。そして知識も深まり、菅波(坂口健太郎)を驚かせる。
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2016年3月10日に300年のヒバの木の伐採が決まった。
本宅に戻る男と愛人のような会話
「国づくりとは樹木で山々を埋めることである」伊達政宗の言葉を、森林組合では掲げていた。2年働いて、百音は森林組合の仕事の意義深さを知り、愛着も深まっていた。ひとり山に入り、何かを訊ねるようにヒバの木に触るが、ヒバは何も答えてはくれない。迷える百音の心を解析するのは菅波である。
菅波と百音の会話が秀逸だった。いつものように、東京に戻る菅波に、百音は「どうして毎週戻るんですか? 登米にずっといたっていいのに。先生は必ず東京に戻る。東京ってそんなにすごいところですか」と聞く。
このじとっと湿った空気はまるで、百音が愛人で、本宅に帰る菅波にどうして本妻のところに戻るんですか? と思いつめて聞いているようにも見える。でも菅波は混乱することなく、あくまで冷静に「僕に遠回しな質問をして、話を聞いてほしいだけなら、そう言えばいい」と言う。
菅波に促された百音は、気象予報士も森林組合の仕事も「どちらもとても大切なんです。それを迷っているとはいえませんか」と言う。百音もまたふたりの男性の間に迷っているような言い方である。
百音は混沌として、「私、気象予報士諦めます」と言い出す。これもまた、「好き」なのに「嫌い」と言ってしまったり、「行かないで」と思っているのに「さっさと出て行け」と言ってしまうような修羅場に置き換えて見える。
百音が自分の思っていることを的確に言語化できない不器用さ、かつ、あえて言語化しない面倒くさいところがあることを菅波はわかっていて、芯の部分だけ抽出して翻訳する。
本当は気象予報士になって東京で仕事したいという気持ちになっている百音。それをわかっている菅波。百音にとって菅波はとても大事な存在である。
安達奈緒子脚本の面白さは、人間の感情をきれいにAの件、Bの件、Cの件と切り分けず、AとBが溶け合ってくっついているように描くことである。虹が赤、青、緑……と色がぱっきり分かれているのとは違って、赤と青が混ざったり、黄色と緑が混ざったりしている。
「でも出会ってしまって」と恋するみたいに仕事する。「一目惚れ」で服や物を買うのも同じ。仕事でもなんでも出会いとはエモいものなのである。でもそこに水を差す菅波。気象予報士の免許をとってから迷えと。難関の気象予報士の試験に受かってもいないのに迷っていても仕方ない。湿り気の強くなりそうなところに風を入れてと笑い飛ばす。すごく独特でおもしろい脚本である。
とそこへ、雨が降ってくる。菅波は慌てて、荷物の紙袋を百音の頭にかざす。菅波の優しさと、気象予報士を目指しているけれどこの雨は予想できていない百音。


百音は仙台にスクーリングに通うようになってレベルをあげ、専門外の菅波は百音の知識に追いつけなくなり悔しがる。そんなところも面白い。
ただ、あまりにもメインの登場人物の関係性に集中してしまい、森林組合の職員を演じる浜野謙太や佐藤真弓という強烈な個性ある演技巧者に「毎週土曜に仙台ですか。で、これから」「大変ねえ。仕事も忙しいのに」「いってらっしゃい」「がんばって」しかセリフが書けないのは惜しい。ここをひと踏ん張りすることでドラマがもっと跳ねると思うのだ。
残されるサヤカ
第7週では、百音とサヤカがずいぶんと心通わせていた。誕生日が同じであったこともあって、親近感が増した。サヤカの守ってきた森を、百音が代わって守り続ける選択もあるが、百音はどうしても気象予報士への興味が捨てられない。サヤカのことを「カッコいい」と菅波に話しているのを、離れたところから聞いてガッツポーズしているサヤカ。百音がこの地を離れていくことに寂しさを感じながらも、若者を旅立たせようと考える。
年をとって伐られるヒバは、サヤカの分身のようなもので、「いいじゃないの、まだ(また)ひとりでも。
(木俣冬)
番組情報
連続テレビ小説『おかえりモネ』
2021年5月17日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら
作:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami