『おかえりモネ』第8週「それでも海は」
第36回〈7月5日(月)放送 作:安達奈緒子、演出:桑野智宏〉

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『おかえりモネ』は主人公・百音(清原果耶)が気象予報士を目指す物語。第7週では、事前に天気を予測することで危険を回避する可能性を説き、気象予報士は人間の未来を作る仕事であるという希望を百音が感じる
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おりしも先週末から日本列島に大雨が降り、土砂災害に遭った地域もあり、とても心配である。天気が適切に予測できて未然に被害を防ぐことができたら……という祈りの気持ちが強くなった。
第8週は百音や亮の父母の話
2016年のお正月。亀島に里帰りした百音。母・亜哉子(鈴木京香)の浮気の噂が島中に広がっていることを知る。娘の百音は森林組合の人たちを呆れさせるほどピュア過ぎて、菅波(坂口健太郎)との関係が進展していないが、母・亜哉子は浮いた話を撒き散らす。亜哉子を尾行する百音と未知(蒔田彩珠)の探偵ごっこ風。その結果、ふたりは意外なことを知る。それは亜哉子の恋ではなく、父・耕治(内野聖陽)の忘れられない恋の真実であった。恋を知らない主人公が、親たちの複雑に絡み合った恋を覗き見るシチュエーションは、潮騒のように心をざわつかせる。

菅波との関係は進展せず
「気象であなたの暮らしを守ります」朝岡(西島秀俊)の所属する会社ウェザーエキスパーツのホームページに書いてある文言を見て、やっぱり気象予報士の仕事に惹かれる百音。3度目の試験を2週間(正確には13日)後に控えた年末、菅波から記憶力向上にいいとプレゼントされたものは意外なものだった。
第35回では「どうして毎週戻るんですか? 登米にずっといたっていいのに。先生は必ず東京に戻る。東京ってそんなにすごいところですか」とじとっとした感じで菅波に聞いていた百音だが、第36回では菅波に縄跳びをもらって、ムードも何もない。帰りがけ、「あ」と思い出して、スローモーションで百音に歩み寄って……とそれっぽく見せながら落とすというアンチ・キュン・ストーリーであった。
森林組合の事務所の中庭は1年前の年末よりもキラキラが増えて、かわいい雪だるまのライトも飾られて、雪も多くなく少なくもなく降って、いい感じになりそうなのに。このシチュエーション、もしや、森林組合の人たちが百音たちのために一生懸命、準備していたのかもしれない。窓の中から全員集合(サヤカも含む)で見ていて、翔洋(浜野謙太)はスマホのムービーを回していたが、期待したキュン展開にならず、みんながっかり。
縄跳びが体力にも脳にもいいから毎日3分跳ぶといいと言われ、「毎日跳びます」と百音が微笑んだあと、BUMP OF CHICKEN主題歌「なないろ」の<やみくもにも信じたよ>の歌詞がかかって、縄跳びが受験に有効であることを百音がやみくみにも信じたのだろうと想像した。
東京への道筋――
2016年、正月。百音は実家で過ごす。ただ、試験の前日なので成人式はやらずに登米に帰ると言って耕治を落胆させる。百音、ことごとく、あるあるをスルー。イケメンとのキュンはないし、親を喜ばせる成人イベントもやらない。それが現代っ子。百音が勉強している傍らで、人生ゲームに興じる幼なじみたち。美容整形、結婚して子供が生まれる、モデルにスカウトされるなどで盛り上がった流れで、明日美(恒松祐里)が短大を出たら東京に行くと宣言する。第35回で百音も「出会ってしまって」(興味ある仕事に)と言ってたが、明日美も「出会っちゃったんだよね」と言う。
友だちが東京に行くと聞けば、百音のなかで東京に行く選択が現実を帯びてくる。第35回で、百音は自分の意思を超えて、まわりが気象予報士の仕事をするように動いていくと語っていたが、ここでもまた、百音の人生が他者の影響で動いていこうとしている。

忘れられない人の正体
亜哉子がしょっちゅう本土に出ていて誰かに会っているという噂が島中に広がっていた。耕治も龍己(藤竜也)の耳にも入っていて気にしている。百音と未知は亜哉子のあとをつける。未知のキャスケットがかわいかった。百音も変装してほしかった。喫茶店で亜哉子が会っていたのは、亮(永瀬廉)の父・新次(浅野忠信)だった。ふたりの話題は亮の母・みち(坂井真紀)の思い出だった。
亜哉子「えらいえらい」
新次「男にそういう言い方はしない人でしょ」
亜哉子「ごめんなさい」
新次「いやいや、あいつだよ、そういう言い方」
亜哉子「そう、言い方がかわいいんですよね、美波さん」
このやりとりが印象的。とりわけ浅野忠信の「男にそういう言い方はしない人でしょ」という言い方にたっぷり含みがあって、びしょびしょの手ぬぐいって感じであった。「いやいや、あいつだよ、そういう言い方」には愛情たっぷり。一方、亜哉子の鈴木京香はけろっと明るく無邪気なので、この場が重くなり過ぎない。
亮の表情
船のなかで寝ながら亮がケータイの写真を見ている。母親の写真に最初は嬉しそうに微笑んで、やがて思慕の情が溢れて嗚咽を漏らす。母の顔を見ると嬉しい、でも今はいないから哀しい、その感情の繊細な流れを永瀬廉が見事に表情に映し出していた。(木俣冬)
番組情報
連続テレビ小説『おかえりモネ』
2021年5月17日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら
作:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami