『おかえりモネ』第9週「雨のち旅立ち」
第41回〈7月12日(月)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

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第9週はサブタイトルに「旅立ち」とあるように、百音(清原果耶)が自分の決めた道を旅立っていくところが描かれそうだ。
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2016年1月25日。百音は3度目の気象予報士の試験を終えて、発表を待つ時間を過ごしていた。
石ノ森章太郎の雨の絵は何を表しているか
1月25日は川久保(でんでん)が尊敬する『仮面ライダー』や『サイボーグ009』でおなじみの登米市出身の漫画家・石ノ森章太郎の誕生日。川久保が気に入っている石ノ森章太郎の描いた雨の絵のようにその日は雨が降っていた。川久保は「じつに絵になるなあ」とその情緒をしみじみ味わっている。ドラマの中では、すこし積もった雪に雨がしとしと降っているが、石ノ森先生の絵は桜の森に雨が降っている絵だ。満開の桜の花びらと矢のような雨の軌跡の混じり合いが心を捉えて離さない。
この絵は石ノ森の代表作のひとつ『佐武と市捕物控』の一作「散桜記(ちりぬるを)」の扉用に描かれたもので、『佐武と市捕物控』石ノ森章太郎デジタル大全の第15巻に収録されている。佐武と市は江戸時代を舞台にしたいわゆるバディものの事件ものである。岡っ引きの佐武と盲目のあんまの市がコンビを組んで事件を解決する。
「散桜記(ちりぬるを)」では市が雨の音について語る場面があって、彼にとって降り続く雨の音はあまり良い印象ではない。市のぼやきはやがて雨についての哲学的な考えに至る。
市の語りもすばらしいし、扉をめくると展開する劇的な出来事の流れも、じつに石ノ森章太郎のコマ割りの巧さを堪能できる一作。良い演劇を見ているみたいなのである。この漫画のおかげで『おかえりモネ』に描かれた降り続く雨に彩られる生と死が強烈に浮き上がってきた。

きっと川久保は、漫画も読んで知ったうえで、この絵を愛しているのだろう。演じているのがでんでんなので、人生の酸いも甘いも噛み分けたやるせなさがある。
亮の母・美波(坂井真紀)の歌った「かもめはかもめ」といい石ノ森章太郎の雨の絵といい、モチーフ選びのセンスがいい。
25日の前日24日は登米能の公演があった。登米能保存委員の翔洋(浜野謙太)が参加し、その打ち上げか何かで、二日酔いで組合に出勤してくる。
能の世界でも生と死は切り離せない。能には「現代能」と「夢幻能」というジャンルがあり、「夢幻能」では、現実を生きる人と異界の幽霊など霊的なものが登場するものである。
生と死を切り離すのではなくつながっているものとして描くという点から見れば、幽霊がよく出てくる朝ドラも決しておもしろさだけで幽霊を出しているのではないのではないだろうか。余談ついでで記しておくと、亮役の永瀬廉の誕生日は1月23日である。

百音、合格。菅波のリアクションがやばい
サヤカが4月の能の定例会で能を舞うことになった。吹奏楽をやっていた百音にお囃子をやらないかと翔洋が誘う。百音は伐採したヒノキを、能舞台の修繕や床材用に50年間保存する場所探しの仕事もしていた。もし気象予報士の試験に受かったら東京に行きたいという思いがある一方で、登米への愛着もある。悩む百音。その頃、菅波(坂口健太郎)も東京に戻らないかと提案を受けて悩んでいた。
そこへ気象予報士の合否のはがきが来る。菅波に立ち会ってもらってはがきを見ると――。
結果を知ったあとの菅波の挙動不審な感じがやばい。なんだかこの回の菅波は髪の毛もぼさぼさで手入れしてなく見えて、勉強とか研究とか没頭しがちな人のイメージに寄せていっているように感じる。
勉強は抜群だが、投げられたものを取れない菅波。それは左脳(思考)に比べて右脳(感覚)の働きが極端に弱いからと菅波は考えている。
それを聞いて「たまにはなんも考えず、動いてみればいいのに」と言う百音。百音だって感覚で動いているほうにはあまり見えない。頭でっかちなほうだと思うが、きっと自分に言い聞かせているというのもあるだろう。しがらみで東京行きを思いきれない百音も思いきって東京で気象予報士になってしまえばいいのである。
(木俣冬)
番組情報
連続テレビ小説『おかえりモネ』
2021年5月17日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら
作:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami