『おかえりモネ』第13週「風を切って進め」

第63回〈8月11日(水)放送 作:安達奈緒子、演出:桑野智宏〉

『おかえりモネ』第63回 鮫島と衝突した百音に対する朝岡の態度が良い上司すぎた
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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晴れと雨

『おかえりモネ』には「人のため」か「自分のため」かの問いがある。第63回では新たに「感覚」か「数字(論理)」かの問いが加わった。それらの対照的な選択肢のどちらとも決めかねるモヤモヤを朝岡(西島秀俊)がびしっと意見を言って晴らしてくれた。


【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第63回掲載中)

気象予報士は「晴れ」と「雨」と両方言っておけば済むとはいえ「結論をひとつに絞って提示しなければいけない」。ただ、状況は刻々と変化するもので。そのときは即座に「プランB」に変更する必要もある。「人のため」「自分のため」も「感覚」「数字」も「晴れ」「雨」もどっちもありで、要は、自分が何を選ぶかなのである。『おかえりモネ』がなんだかビジネス本のような雰囲気を帯びてきた。

風に強い鮫島

鮫島(菅原小春)はオリンピック選手選考会を目前にして伸び悩んでいた。きちっとデータ分析した通りにラップタイムを守って我慢して走る練習を地道にすることが「おもろうないねん」と本音が漏れる。


もともと鮫島は「風に強い」と言われてきたランナーで、通常の選手が避ける向かい風をあえて切り裂いて走る感覚を好んでいた。そのことを知った百音が過去のデータを調べると、風の強い時のほうが勝っていることがわかる。

感覚を信じてやってみてはどうかと百音が提案すると、鮫島は声を荒げた。これまで感覚でやってきて結果が出せなかったから徹底したデータ主義でやってみようと考えたのだからと百音の提案を跳ね除ける鮫島。真摯にサポートしてくれる百音の言うことを信じたい気持ちはあるものの、絶対に負けられないプレッシャーが鮫島をがんじがらめにしていた。

風を切って走った過去の体験を思い出すときの輝く表情と、百音の提案を受け付けられないときの辛い表情の落差が大きければ大きいほど鮫島が落ちて出られずもがいている場所の深さがわかる。
それでも鮫島は「自分のために自分の選んだ方法で勝つ」と自分を律し続けるのだ。

『おかえりモネ』第63回 鮫島と衝突した百音に対する朝岡の態度が良い上司すぎた
写真提供/NHK

「やみくもにあなたの意見を従ったかもしれない」

百音と鮫島のやりとりをそっと聞いていた菅波(坂口健太郎)は、鮫島が強い意思をもって百音の提案をはねのけたことを評価する。相手に情が移ると判断に迷うことがある。それが結果的に当人を苦しめることを菅波は過去に経験していた。

「やみくもにあなたの意見を従ったかもしれない」という菅波のセリフ。<やみくもにも信じたよ>とBUMP OF CHICKENの主題歌「なないろ」の歌詞のようであった。

気象予報士も医者も、まずはあらゆる可能性を並べ、分析を繰り返し、ひとつに絞り込む。
でも状況によっては臨機応変に変更もする心構えも必要。それだけの準備をもって物事に臨んでいる。とりわけ医者の菅波は死が近いところにある。



『おかえりモネ』第63回 鮫島と衝突した百音に対する朝岡の態度が良い上司すぎた
写真提供/NHK

百音の誕生日に登米で診ていた患者が亡くなっていた。菅波は「最善を尽くしたとは僕は一生言い切れない」と通夜帰りのサヤカ(夏木マリ)に語る。どれだけ慎重にあらゆる可能性を取り出し、分析を繰り返し、ひとつに絞り込んでも、死に抗えない。
そんな経験を菅波はつねに味わっているのだ。だからこそ、決して油断できないと自分を戒め続け、百音にもそれを求めてしまう。

信頼できる朝岡

朝岡は百音に「選手を迷わせるようなことを言ってはいけませんね」とちゃんと注意をして、でも叱ったりはしないところが良い上司である。

「結論をひとつに絞って提示しなければいけない」と教えながら「その後が勝負だったりするんだよな」とにやりとする。論理と感覚の両方の良さを知っている。「勝負」という言葉が好きみたいで、風に賭けることが好きだという鮫島を「彼女も勝負師だな」と言うときも嬉しそうなのは、過去、駅伝で勝負に身を置いてきたからであろう。

百音や莉子(今田美桜)や内田(清水尋也)には言葉に迷いなくしっかり語り、「勝負」という言葉には奮い立つかのような熱を発する。
若者を導く面と自分自身の嗜好と両立させて地に足つけ生きている頼もしさが朝岡にはある。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪









番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami