『おかえりモネ』第13週「風を切って進め」

第62回〈8月10日(火)放送 作:安達奈緒子、演出:桑野智宏〉

『おかえりモネ』第62回 今日はドラマに加えて『おはよう日本』高瀬アナの謝罪について
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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奥手の百音(清原果耶)菅波(坂口健太郎)が相合い傘で一緒に帰る第一歩。ただそれだけのことで、明日美(恒松祐里)からは「小学生か」(第61回の菅波の独白と同じ)とじれったがられるが、百音はどこ吹く風。アヴァンの前の百音のなんともいえない口元と目元の動きが、ずぶの新人では絶対出せない滋味があった。


【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第62回掲載中)

暑さに弱い鮫島(菅原小春)のサポートに良い方法を発見した。菅波の知識と百音のアイデアが合わさってできたことで、ふたりの仲は地味に進展しているといえるだろう。

そんな頃、百音は21歳の誕生日を迎える。汐見湯で大家の菜津(マイコ)、職場の同僚の莉子(今田美桜)野坂(森田望智)内田(清水尋也)、車椅子マラソンの鮫島、幼なじみの明日美が集まって誕生会。お祝いの題字は宇田川で、これがなかなか芸術的であった。

残念ながら菅波は登米に行っていて欠席。
送信されてきたメールは相変わらずそっけないが、登米で患者に手当している菅波の手は第61回の百音の手当と呼応している。

実家から百音に送られてきた荷物(誕プレなのか)の中にかつて菅沼が誕生日に百音に贈った中学理科の教科書が入っている。百音にとってはそれが何より大事であるような表情と余韻。この教科書がなければ気象予報士として今、東京にいないかもしれないし、菅波ともここまで親しくなっていない。

すべてのはじまりと言っていい教科書。窓辺に座って教科書を見てうっすら微笑む百音。
そこへ風が吹いてくる。百音の想いは教科書を持ったその手にあふれているように見える。冒頭と終わり、清原果耶の芝居の耐久力が光った。

「プレゼントもけっきょく何も……」と菜津が謝るのは理科の教科書を際立たせるためだろう。さほど忙しそうでない菜津だから何かしら用意できるだろうし、このようなパーティーを開くのだから別にささやかなものでも贈ればいいじゃんという気もしないでない。みんなからいろいろもらったけど、理科の教科書がいちばん大事でもいいと思うのだが、価値観は人それぞれである。


その価値観について、ちょうど考えさせられたことがあった。『おはよう日本 関東版』の高瀬アナの謝罪である。

『おかえりモネ』第62回 今日はドラマに加えて『おはよう日本』高瀬アナの謝罪について
写真提供/NHK

朝ドラ送りで謝罪

『おかえりモネ』第62回放送前、『おはよう日本 関東版』で高瀬アナが「(8月6日の放送で)その後に放送する広島平和祈念式典とは関係のない連続テレビ小説についてコメントしてしまいました。お叱りご指摘ありがとうございました。本当に申し訳ありませんでした」と謝罪した。

6日は『おはよう日本 関東版』の放送後は広島の平和記念式典の中継で、『おかえりモネ』はその後の放送にズレることが決まっていた。例年、8月6日だけは朝ドラの放送時間が変更になる。
にもかかわらず、なぜかその日「おかえりかモネ」と高瀬アナは森下絵理香アナに振って彼女を慌てさせた。

「えーとえーと、檜山さ−ん。何も考えてなかった」と森下は気象予報士の檜山靖洋に振り、彼もまた何も言えず(もともといつもアドリブの返しが得意でないように見受けられる)、そのまま番組は終わり、広島の平和記念式典の中継がはじまった。

代わって中継アナの「新型コロナウイルスによって被爆地広島の声は届きにくくなっています」「(終戦から76年)壮絶な被害を直接訴える機会があとわずかと考えています」という深刻なトーンとその前の高瀬たちのわちゃわちゃしたテンションには大きな差があった。いかがなものかと思う人がいてもおかしくない。ここは「『おかえりモネ』は『平和式典』の後の放送になります」と伝えることが最適だったのだろう。


朝ドラの楽しみのひとつに、ドラマそのもののみならず、その前の番組『おはよう日本』の高瀬アナの「朝ドラ送り」や後の情報番組『あさイチ』の華丸大吉の「朝ドラ受け」なども観て楽しむことがある。

「朝ドラ受け」が本格化したのが、2010年度前期の『ゲゲゲの女房』から。それまでも何かしら他の番組で朝ドラに反応することはあったが、注目されるようになったのは、『ゲゲゲの女房』の後に放送される『あさイチ』で井ノ原快彦がコメントするようになったのがきっかけと言われている。井ノ原のスター性によってコメントが目立つようになったのであろう。

彼とコンビを組んで司会していた有働由美子の「受け」も視聴者の気持ちを見事に代弁して、有働、井ノ原の朝ドラ受けのコンビプレーはある種の芸の域に高められていく。

『おかえりモネ』第62回 今日はドラマに加えて『おはよう日本』高瀬アナの謝罪について
写真提供/NHK

2013年度前期の『あまちゃん』でSNSを中心に朝ドラブームが起こり、朝ドラ受けまで観ることをワンパッケージにする人たちも増えた。
高瀬アナが『おはよう日本』のキャスターになると「朝ドラ送り」がはじまって、前後で朝ドラを応援する盤石の体制に。

ただ、夢を壊すことを言えば、『おはよう日本』と『あさイチ』が送りと受けをやるのは朝ドラ人気にあやかった視聴率対策の節もあるわけで。そんな事情もうっすら感じることもあるうえ、そこまで濃く朝ドラを観ている人ばかりでもない。なかには違う番組で朝ドラの話題をやることを好まない人もいて、以前からそれは地味に問題視されていた。番組と送りや受けのバランスをどうとるか、そこはキャスターの腕の見せどころである。

さて、件の朝ドラ送り謝罪である。高瀬アナは「おかえりかモネ」となぜか「“か”モネ」と言っているように聞こえる(『NHKプラス』で放送日から一週間限定で配信されている)。単純に口が滑ったのかもしれないが、「かもね」と言うことで『モネ』ではなく「平和式典です」と森下に言ってほしかったのかと想像もしてみた。あくまで想像に過ぎないが、もしそうだとしても、ここは変化球ではなく直球で情報を伝えることが無難であったろう。ここで森下か檜山がうまくフォローできていたら……誰もが痛恨を感じていたに違いない。

ミスは誰でもあることなので責めはしない。謝罪のとき、愛称の「朝ドラ」と言わず正式名称の「連続テレビ小説」と言ったことでも高瀬アナの真摯さは伝わってきた。

ドラマを応援したい気持ちがドラマに反感を抱かせるようなことになっては元も子もない。とりわけ、今回はせっかく百音と菅波がいい感じになってドラマが盛り上がってきたところだったので、それが話題に出ないことが視聴者としても残念であった。高瀬アナにはその知性を存分に駆使して、これからもやり過ぎないように応援を続けてほしい。

大事なものは人それぞれ。SNSの反応を見ると、どんな時でも朝ドラ送りしてほしいと楽しみにしている人もいるのである。お互いの事情や経験に思いを致し尊重したいとしみじみ感じた出来事だった。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪









番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami