『おかえりモネ』第14週「離れられないもの」

第67回〈8月17日(火)放送 作:安達奈緒子、演出:押田友太〉

『おかえりモネ』第67回 涙を見せたり戸惑ったり百音を見つめたり…いろんな「#俺たちの菅波」を堪能
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

※『おかえりモネ』第68回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします


蕎麦屋の48分

SNSのハッシュタグに「#俺たちの菅波」というのが現れた。第67回は菅波(坂口健太郎)がついに百音(清原果耶)を食事に誘う。洗濯が完了するまでの48分の間、近所の蕎麦屋。
それでも百音は笑顔で、菅波の表情も和らぐ。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第67回掲載中)

あまりにもうぶなふたり。「お蕎麦屋さんくらい普通に行け」とこっそり隠れて聞いていた明日美(恒松祐里)は呆れてつぶやく(このときのドアの閉め方のタイミングがいい)が、ふたりの距離は確実に縮まっている。

菅波の手がついに百音に触れそうになった時――。
「#俺たちの菅波」には菅波の言動に萌える声の数々が。

菅波の顔変化

蕎麦ランチのシーンは描かれない。戻ってきたふたりは、明岩市で起こった大規模土砂災害によって百音が悩みはじめた件について真面目に語り合う。
そこが百音と菅波のいいところだが、まさか47分、蕎麦屋で真面目な話に終始したのだろうか。

蕎麦屋から戻ってきて、シェアハウスの共通スペースでお茶を飲むときには、自分の過去の経験を涙目で語っていた菅波は消え、百音を蕎麦屋に誘えたことでライフが回復したかのように、いつもの理路整然とした口調に戻っている。クールに物事を俯瞰する視点と口ぶりで、何度も災害に遭う土地から移動するという考え方を肯定する。

「先生はいつも正しいですけど、少し言い方が冷たいです」と百音は受け入れることができない。そこで菅波はさんまを例に挙げる。言い方が冷たいと言われてすこし工夫したのだろうか。
だとしたら、菅波、やっぱり良い人だけど不器用すぎる。

『おかえりモネ』第67回 涙を見せたり戸惑ったり百音を見つめたり…いろんな「#俺たちの菅波」を堪能
写真提供/NHK

深く気落ちしてしまった百音を見て菅波は、さんまの話ではない方法で、百音の悲しみにあたたかさを提示しようとおずおずと手を伸ばす。それをある人に目撃されていて。そのときの菅波の表情がたまらなかった。

自分のことで目に涙をためる菅波。百音に弱みを見せてしまったことに戸惑いがある菅波。
思いきって蕎麦屋に誘うときのわざとぶっきらぼうな菅波。行くと言ってもらって嬉しい菅波。淡々と知識を語る菅波。百音を見つめる菅波。目の前の人に怯える菅波。そして百音に合わせてどんどんささやき声になっていく菅波。
15分でいろんな菅波が堪能できた。

百音もよく見れば、唇にうっすら色と艶が足されていて、憂いに色気が加わっている。

朝岡と雨

朝岡(西島秀俊)は「この雨がいいんですよねえ」と好む石ノ森章太郎の雨の絵を見ながら、何を深刻に考えているのか。その理由が明かされる。朝岡はスポーツ気象のことばかり考えているわけではなかった。彼は8年前、明岩市の大規模土砂災害の現場に行って被害をこの目で見ていた。8年経過して再び土砂災害が起こり、朝岡は再び明岩市に向かった。




『おかえりモネ』第67回 涙を見せたり戸惑ったり百音を見つめたり…いろんな「#俺たちの菅波」を堪能
写真提供/NHK

Jテレでは報道部の佐渡(玉置玲央)が市民の力でひとりも被害が出なかったことを番組で取り上げようとするも、それだけではないことを朝岡は危惧していた。そしてそのことを話題にすることで百音がどんな気持ちになるかも気にしていた。

ためらいながら語る西島秀俊の口調。声のトーンはさほど変わらないにも関わらず、見事にためらいを感じさせるところに微妙なところまで完璧にコントロールし、それでいて機械的でない、体温を残す西島秀俊の底力を感じる。

第41話にも出てきた石ノ森章太郎の雨の絵。レビューでその絵――満開の桜の花びらと矢のような雨の軌跡の混じり合ったものは石ノ森の代表作のひとつ『佐武と市捕物控』の一作「散桜記(ちりぬるを)」の扉用に描かれたもので、『佐武と市捕物控』石ノ森章太郎デジタル大全の第15巻に収録されていると紹介した。


桜と雨の絵の奥の小さな黒い染みのようなものの正体は、漫画を読めばただ美しいだけの絵ではないのがわかるのだが、この絵が朝岡を表すモチーフとして選ばれた理由が、第67回で一層色濃くなっていく。まるで宮沢賢治の「春と修羅」に綴られた心象が一枚に凝縮されているような気さえする。

百音と菅波のシーンにインサートされる汐見湯の煙突さえも、時代の流れに不要なものとされ街から失われていくものの象徴のようにも見える。老朽化した煙突が崩壊する危険性があるからと取り壊されることが後をたたない。汐見湯も客が減ってシェアハウス化されたのだ。形を変えて遺すことを選んだ場所で、百音と菅波が、故郷を去るべきか残るべきか語り合うことは象徴的に感じる。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪









番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami