『おかえりモネ』第14週「離れられないもの」

第66回〈8月16日(月)放送 作:安達奈緒子、演出:押田友太〉

『おかえりモネ』第66回 朝岡のキャスター辞める宣言で百音が中継キャスターに抜擢。どうするどうなる
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

※『おかえりモネ』第67回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします


「生き方を変えなきゃいけなくなった彼のほうです」百音(清原果耶)菅波(坂口健太郎)の過去のつらい経験を知って、成す術なく背中をさするしかなかった。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第66回掲載中)

「つらい話をさせてしまって」と気遣う百音に「つらいのは僕じゃないんです。生き方を変えなきゃいけなくなった彼のほうです」と返す菅波。
彼とは、過去、菅波が担当した患者(石井正則)のこと。菅波の言うことを聞いたために命は助かったがホルン演奏者としての道を閉ざされたのだった。

目に涙をためて百音の顔を見上げる菅波の表情は、物語の中心が百音から菅波に移ったようにも見えた。

震災のときに地元にいなかった百音といい、菅波といい、当事者ではないことに苦しんでいる。百音は気象予報士になったことでその悩みを解消しはじめているが、菅波は未だ引きずっている。

自分のことで苦しむのはつらいけど、他者のことで苦しむのも、実感としてわからないからこそ辛い。
どれだけ心を寄せても経験してないという負い目があるから。どれだけ考えても他者には成り代わることができないが、それでも考え続けるしかない。

『おかえりモネ』はあらゆる悲しみを経験した人たちのことを考え続ける物語だという気がする。そして、そんな経験を回避できるように叡智を駆使しようと努力する物語でもある。第14週はその「生き方を変えなきゃいけなくなった」人たちに思いをいたす朝岡(西島秀俊)の物語になりそうだ。

『おかえりモネ』第66回 朝岡のキャスター辞める宣言で百音が中継キャスターに抜擢。どうするどうなる
写真提供/NHK

朝岡がキャスターを辞め、百音が中継キャスターに

10月のある朝、朝岡が番組放送ぎりぎりに駆け込んで来た。山梨のハンググライダー協会の仕事に行った帰り、事故による通行止めに巻き込まれたのだ。
鮫島(菅原小春)が宣伝したことでスポーツ気象の仕事が軌道に乗って来た。朝岡はいよいよキャスターを辞めるのではないか。皆は不安になる。

「この雨がいいんですよねえ」
朝岡は石ノ森章太郎の雨の絵を見つめる。雨と現実の雨が重なって、明岩市に大雨が降り土石流が起こった。朝岡は珍しく動揺した様子を見せる。


幸い天気は落ち着いた。が、朝岡は「命が守られたのは良かった。でも生活があるんだ」と言う。その口調は真剣そのものだ。

※石ノ森章太郎の雨の絵に関しては、第41回のレビューを参照ください
https://www.excite.co.jp/news/article/E1626060354588/

朝岡がキャスターを辞め、百音が中継キャスターに

朝岡はついにキャスターを辞めると宣言した。当然、慰留を求められたが、来月いっぱいと決まった。こんな簡単に人気キャスターの変更って決まるものなのだろうか……。


『モネ』は心の描写は丁寧だが、実務に関してはざっくりしている。例えば、緊急ニュースで連呼された「明岩市」も、映った地図が東北だったのと、「はつみ川ですか」という百音の言動からどうやら東北らしいのはわかるのだが、ローカル番組ではないので、まず県の名前を出すのが普通であろう。「そんな曖昧な情報じゃどこだかわからない」と朝岡も言っているではないか(それは違う件)。

ただ、『おかえりモネ』は登米や亀島など架空の地域を舞台にしていて、赤岩も架空の土地。◎◎県とは言えないようだ。でも明岩市は日本のどのあたりなんだろうと気になってしまう。




『おかえりモネ』第66回 朝岡のキャスター辞める宣言で百音が中継キャスターに抜擢。どうするどうなる
写真提供/NHK

辞める朝岡の後任は莉子(今田美桜)、中継キャスターを百音が引き継ぐことになった。そのへんもウェザー・エキスパーツのなかで決めてしまえるものなのだろうか。朝岡が朝の番組があるにもかかわらず、前日に山梨へ行っていて遅刻しそうになるとかも事故とはいえ、そういった不測の事態も想定してスケジュール管理しないのは釈然としない。

挙げればきりがないのだが、いちばん気になるのは『あさキラッ』はいつでも東北の被害のニュースばかり報道しているように見えることだ。ちょうど先週から今週にかけて現実世界では西日本で大雨の被害が起こっていたし(冒頭に「ドラマの中で土砂災害の描写があります」とテロップが入っていた)、日本全国、天候に悩まされているのである。

とはいえ『モネ』は東日本大震災から10年ありきのドラマ。
それに前述したように悲しい経験をした人に思いを寄せる物語であって、テレビ局のリアリティーを追求するお仕事ドラマではない。だからファンタジーな部分があっても致し方ないのであろう。

いきなり莉子の後任で中継キャスターと言われても百音は顔出しすることに戸惑いがある。彼女の場合、テレビに出たくて気象予報士を目指したわけではないから。「お断りしようかと」と百音はサヤカ(夏木マリ)に電話する。サヤカの口調から朝岡に何かありそうな雰囲気が漂う。第14週で描かれた朝岡の過去(駅伝選手だった)だけでない、彼の心のうちが明かされそうな第15週の幕開け――。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪









番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami