『おかえりモネ』第16週「若き者たち」
第78回〈9月1日(水)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

※『おかえりモネ』第79回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします
「こういう話、ずっと聞きたかった気がする」と百音(清原果耶)。
【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第78回掲載中)
地元を出て東京に来た百音と明日美(恒松祐里)、地元に残った亮(永瀬廉)と未知(蒔田彩珠)、仙台に出て今後の進路にまだ悩んでいる三生(前田航基)と悠人(高田彪我)。亀島で生まれ育ち、震災を経験した6人が久しぶりに集まって本音を語り合う。
「やっぱ食えばよかったな、オムライス」
「なんで地元で頑張っているのがえらいみたいになるの?」積極的に東京に出て来た明日美が言うと、未知が「決めつけないで」と重い口を開く。亮は船に乗っているときも魚をおろす姿もカッコいい。だから彼のしんどさだけをクローズアップしないでほしいと願う未知の言葉を、亮は寝たふりして聞いていた。
この場面で思い出すのは、耕治(内野聖陽)と亜哉子(鈴木京香)である。耕治は亜哉子に興味なく、ずっと美波(坂井真紀)を想い続けていた。ある時、影がなさすぎて芸術(音楽)に向いていないのではないかと悩んでいた耕治に亜哉子は、その明るさがいいのだと彼を全面的に肯定。自分の良さをわかってもらえた耕治の心はこれをきっかけに亜哉子へと動いた。
誰にでも悩みはあるもので、今の状況に100%満足している人なんていないだろう。地元で漁師をやることにストレスを抱えている亮ではあるが、100%漁師の仕事が嫌いなわけではないし、漁師の才能があるのだから、それはそれでいいことである。未知はずっと亮を見ていて、彼が漁師として優れていることをわかっている。
物事は多面体だからいやなところに光を当てたら絶望してしまうが、良きところに光を当てたら希望を持つことができる。未知が亮の良きところに光を当てた。

『モネ』の登場人物たちが本音を言えないでいることは以前のレビューで指摘した。第78回でやはり彼らが気持ちを抑えていることが明かされる。
悠人は仙台で、地元が気仙沼であることを言わずにいる。明日美は家族とも震災の話はしない。しんどさばかりクローズアップされるのもしんどいし、本当のしんどさは当事者しかわからないことだし、ことは簡単ではないからであろう。自分たちすら自分の考えを正しくジャッジできない。心はいつも、主題歌「なないろ」のように“やじろべえ”みたいに微かにバランスをとっているのであろう。
「話しても地獄、話さなくても地獄なんだよな」と亮は言う。話さないと混沌とした感情がたまっていくばかりでしんどいし、言語化してしまうと意味が明瞭になってしまってしんどい。だから極端に傾かないように、懸命にゆらゆらとバランスをとり続ける。
「UFO」も「改造」もない世の中で生きていくと諦めかけた亮の手を取り、三生は「UFO」も「改造」もあると泣く。悲観も楽観も思い切って本音を話すことで、立ちすくんでいた彼らは良い方向(前進あるいは上昇)に向かったような気がする。
「やっぱ食えばよかったな、オムライス」と亮が言う。お腹が空くということは前進する(生きる)ことである。百音が喫茶店でオムライスを頼まず、菜津(マイコ)が彼らに食事を振る舞わないことにも意味があった。人間は自らの意思で動くしかないのである。周囲はただその手助けをするだけだ。
「生きていて何もなかった人なんかいないでしょう。何かしらの痛みはあるでしょう」
百音たちが語らっている頃、菅波(坂口健太郎)はウェザー・エキスパーツに来ていた。百音の代わりに鮫島(菅原小春)のデータを届けに来たのである。デートをすっぽかされたにもかかわらず百音のフォローをする。

恋愛事情をはじめとして他者の心の中はわからない。百音が気仙沼出身なので被災したのだろうと薄々感じていながら莉子たちは口には出さずにいた。野坂(森田望智)は神戸出身で子供の頃に阪神淡路大震災を経験していて、それが職業を選ぶきっかけになっていた。
自分だけ何もないと引け目を感じる莉子を「生きていて何もなかった人なんかいないでしょう。何かしらの痛みはあるでしょう」と内田(清水尋也)が気遣う。内田は何を抱えているかはわからなかったが、みんなそれぞれに想いを抱えている。9月1日は防災の日。1923年に関東大震災があった日である。
(木俣冬)
番組情報
連続テレビ小説『おかえりモネ』
2021年5月17日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら
作:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami