
※本文にはネタバレがあります
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花火大会デートの顛末は?『プロミス・シンデレラ』第8話
お姫様抱っこVS山賊抱っこ。熱く燃える早梅(二階堂ふみ)をめぐる兄弟対決。ついに壱成(眞栄田郷敦)に軍配か。【前話レビュー】漫画原作の『プロミス・シンデレラ』はラブコメの“パターン破り”なドラマ

壱成のまさかの「山賊抱っこ」。これは昨年2020年に同じTBS系で放送された金曜ドラマ『俺の家の話』(宮藤官九郎脚本)で長瀬智也が戸田恵梨香を獲物のようにひょいっと逆さに抱える抱き方の呼び名である。体格の大きい人物が華奢で小柄な人物を抱えると映える。眞栄田郷敦と二階堂ふみもなかなかお似合いであった。が、まさか『俺の家の話』オマージュとはやるなあ。
第7話で花火大会に一緒に行く約束をした早梅と壱成。いよいよ当日。花火大会に行く客も多く旅館が忙しいなか、早梅は花火大会に行くためシフトを代わってもらっている。こんなの絶対、職場がギスギスするに決まっているのだが、高校時代は早梅が他の子が花火に行くとき働いていたそうで、その頃の残念な想いを晴らせるいい機会なのだろう。
浴衣ですっかり見違えた早梅に壱成はドキドキ。なかなか素直になれない壱成が懸命に素直な恋心を発露しようと試みる。早梅も早梅で、壱成の仕草にときめきを覚えていく。
ふたりの射的対決などを見ると、早梅の精神年齢というか嗜好が若く、相手は高校生くらいが楽でいいのだろうと感じる。高校時代はフィットしていた成吾はひとりで先に大人になってしまったため、早梅と一緒にはしゃげず、心の欠落を埋めることもできない。

高校時代で時間が止まってしまった早梅が高校生の壱成と出会って一緒に大人になっていく。そういう通過儀礼にまで物語が成熟したものになると深みが出るのだろうけれど、作り手はあくまでもふたりのイケメンの間で揺れるシチュエーションづくりのみにとらわれているように感じる。ラブコメとはいえ、恋愛ものは主人公がなぜ恋するのか、その内面を掘り下げることに味わいがあるにもかかわらず、そこは潔く捨てて、どうやってキスシーンや抱っこシーンにもっていくか腐心している。
お姫様抱っこVS山賊抱っこ
シチュエーションを盛り上げることに大活躍するのは菊乃。早梅を想う成吾のためにと、早梅と壱成を邪魔してくる。自分が選ばれないのなら、最愛の相手・早梅と結ばれてほしいとあの手この手を尽くすが、その作戦がことごとく早梅に大きな負荷を与えてくる。前夫(井之脇海)が浮気するように仕向けて別れさせたり、仲居に手を回して早梅を旅館で孤立させたり。
今回は、早梅のスマホを盗んだうえで崖から突き落としてしまう。


花火大会がいったいどれくらい山中で行われているのかよくわからないが、山の中で遭難した早梅が枝を杖にして必死で壱成の元に向かう姿が、二階堂ふみの熱演によって、ともすれば茶番に見えそうな場を、「八甲田山」のように深刻に見せてしまう(言い過ぎ)。

ピンチの早梅のもとに駆けつけてきたのは――成吾だった。明かりも持たずに。彼の2度目の「お姫様抱っこ」は手慣れたスマートさだったが、早梅は枝を抱えたままで成吾に身を委ねていない。ロマンティックでないお姫様抱っこ。つまり、ここでもう早梅・成吾はないのであろうと感じるが、壱成と合流できないまま花火大会がはじまって、早梅は成吾と花火を見ることになる。


「花火ちゃんと見るの、子供の頃以来だわ」と花火に見とれる早梅。子供時代不遇な境遇にあったまま幸福というものがわからない彼女を守りたいと想う成吾は思わず彼女を抱き寄せるが、彼女の視線が自分に向いていないことに気づいて止めてしまう。成吾、切ない。
助かった早梅を迎えに来た壱成のまさかの「山賊抱っこ」。ちょっと笑っちゃうのだが、やっぱり眞栄田郷敦のシリアスな態度ですべての詰めの甘さが浄化されてしまう。成吾がためらったキスも壱成は実行する。このときの本気の眼差しもドラマを純化する。

「バカ女」と壱成に言われ、その幼く不器用ながら真っ直ぐな愛情に早梅がキュンとしてしまうのは、父の幼稚で無責任な暴力に苦しんできた人物にしてはどうかと思うが、けっきょくはそういった愛憎行為から脱却できないのだろうと感じる。要するに好みなのだろう。現実だったら早梅のこの性癖のようなものを危惧するが、フィクションだからこういうのもあっていいだろう。壱成は暴力性をコントロールできそうであるし。それにやたらと「やさしい」ことが正義でもない。
(木俣冬)

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番組情報
TBS火曜ドラマ『プロミス・シンデレラ』
毎週火曜よる10時〜
出演:二階堂ふみ
眞栄田郷敦 松井玲奈 井之脇 海 松村沙友理 堺 小春
高橋克実
友近 森カンナ 金子ノブアキ
三田佳子(特別出演)
岩田剛典
原作:橘オレコ「プロミス・シンデレラ」(小学館「マンガワン」連載中)
脚本:古家和尚
音楽:やまだ豊
主題歌:LiSA「HADASHi NO STEP」(SACRA MUSIC / Sony Music Labels Inc.)
演出:村上正典(共同テレビ) 都築淳一(共同テレビ) 北坊信一(共同テレビ)
プロデューサー:橋本芙美(共同テレビ) 久松大地(共同テレビ)
制作著作:共同テレビ TBS
番組サイト:https://www.tbs.co.jp/promise_cinderella_tbs/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami