『おかえりモネ』第17週「わたしたちに出来ること」
第82回〈9月7日(火)放送 作:安達奈緒子、演出:中村周祐〉

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2017年3月、菅波(坂口健太郎)が登米に移住するまであと一ヶ月。百音(清原果耶)との関係が進展している。お互い忙しい身ながら少しでも会いたい、そんな気持ちから菅波が百音に手渡したものは……。
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すっかり恋愛ドラマ化したように見えてそうではない。『おかえりモネ』が背負っている地元を守ることにも一歩一歩近づいている。ウェザー・エキスパーツの事業プレゼンで百音は地元への思いを噛みしめる。
実感と説得力
ウェザー・エキスパーツでは定期的に社員が新規事業のプレゼンをしていた。社員の誰もが自由に参加でき、プレゼンに意見を言うこともできる開かれた場である。百音と莉子(今田美桜)は見学していたが、野坂(森田望智)が山に植樹することで土砂災害を防ぐ企画で途中、言葉につまり、「以前、林業に携わっていた永浦さんが実感をもって説明します」と百音に助けを求めた。急にふられて焦りながらも百音は龍己(藤竜也)やサヤカ(夏木マリ)から聞いた山と海は繋がっているという話を説明する。このことで『おかえりモネ』が恋愛ドラマにシフトしたわけではないことがわかる。百音の心にはいつも自然災害から地元を守りたい気持ちがある。そのための気象予報士なのだから。
百音は「すべては水で繋がっている」ことを龍己、サヤカ、朝岡(西島秀俊)、菅波のリレーによって実感し、徐々に自分の中で確固たるものにしてきている。最初はふいに訪れる悲劇に成す術なく立ちすくんでいるだけだったが、論理的に考えていくと対処の仕様があることに気づいてきた。
自然のルールを正しく知ればできることが見えてくる。
星野光助(もう中学生)は宇宙天気予報のプレゼンを凝ったパフォーマンスで見せる。わかりやすく魅力的に見える企画ながら、予算がかかり過ぎるので却下になった。

内田(清水尋也)は花粉症アプリの提案。すでに会社のホームページにアプリの試作版を公開していて、その出来が良かったのと、採算の件も考えられていたため社長は企画にGOを出す。内田の「妙な説得力」に社長は感心する。内田は自分が花粉症であることと、もともと研究熱心なオタクっぽいところがある。
莉子の問題はこれからまだ描かれるだろうからここで先回りはしないが、プレゼンシーンで筆者が感じたことをひとつだけ書くとすれば、「実感」が人の心に響き、その「実感」は「体験」からしか生まれない。外側から考えているだけではわからないことがあるものなのだということだった。百音は体験をどう自分の人生に活かしていくか、それが残り2ヶ月の中で描かれるはず。莉子も彼女ならではのテーマを発見できるだろうか。
「それに、たった一度の大雨で町が壊れてしまうのは悲しいです」
百音のこの言葉は実感があった。そしてそれを聞く人たちの表情も。この回はそれぞれの表情が明確にものを言っていた。

菅波と百音の関係がますます進展
「世界のすべての根源は水であるといったのはギリシャの七賢人のタレスさんですが」プレゼンで思わず言ってしまい、「ん?」と社長に首をかしげられた言葉は菅波の言葉の受け売り。
その菅波との関係は百音が彼の部屋に行くようになったところまで進展していた。だが部屋の前で待ち合わせた末、菅波が仕事で戻れず、百音が帰ってしまうというようなもので……。いやあ、マンションの部屋の玄関前で待ち合わせはないだろう……近隣の人の目も気になるし……と思って見ていると、菅波が急いでコインランドリーに走ってきてすっ転ぶ。
それから、合鍵登場! 合鍵自体よりもキーホルダーが「鮫」というところがポイント。
渡された合鍵についたキーホルダーにこそふたりの関係が表される。どんなキーホルダーをつけて渡すか、そのセンスが問われる。これも極めて「実感」に基づいた描写であるといえるだろう。
それにしても転ぶほど慌てたり、「ちょっとでも顔見るとやっぱりいいなって思うし」と言ったり、どこまで百音に夢中なんだ菅波。クールに見えて一生懸命になるとひたすら一直線なのだろう。百音は菅波の実直な愛情も「実感」したに違いない。
(木俣冬)
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番組情報
連続テレビ小説『おかえりモネ』
2021年5月17日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら
作:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami