『おかえりモネ』第17週「わたしたちに出来ること」

第85回〈9月10日(金)放送 作:安達奈緒子、演出:中村周祐〉

『おかえりモネ』第85回「あなたの投げるものなら、僕は全部取ります」菅波の胸に飛び込む百音(キュン)
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

※『おかえりモネ』第86回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします


すれ違いの末、百音(清原果耶)菅波(坂口健太郎)は改めて心を通わせる。そのシーンは抜けのいい川沿いのロケ。莉子(今田美桜)もトンネルを抜けたようで、週の終わりはそれぞれの登場人物に晴れ間が見えた。


【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第85回掲載中)

「傷ついていいことなんかない」
「傷ついてる人が強いなんてそんな…そういうことは言っちゃダメ。傷ついていいことなんかない」

傷ついて部屋に閉じこもっている宇田川さんを見てきた菜津(マイコ)の言葉に莉子は感じ入った顔になる。世の中にはどういう人がいるのか考えるようと決意してからの莉子の放送は、自分の袴写真を2枚も公開した時とは打って変わって、ぐっとアップになるときの目線は自分アピールではなく、カメラの向こうにいる無数の人たちに向けられているようだった。それを見て百音は「観音様見てるみたいな」と興奮気味に莉子に感想を述べる。

“宇田川さん”とは世の中にいる目立たない人たちの代表であり、目立たないかもしれないけれど、風呂掃除をしたり、住人に気を使ったり、ちゃんと意思はある。汐見湯の宇田川さんは絵を描くのが好きで勤勉だったが、会社で傷ついて外に出ることができなくなってしまった。菜津は彼に寄り添っている。

「私から見たら神野さんも百音さんも十分すごい」と言う菜津。そう、ふたりは全国区のテレビ番組に出ているのだから、たしかにすごい。

それに比べたら菜津は地味である。経営難の銭湯をなんとか維持しようと頑張って、老いた祖父母と3人で肩寄せ合って生きている。明るく振る舞っているけれど、決してハッピーなだけではないはずだ。
実家の銭湯が時代とともに必要とされなくなることにはきっと想いがあるはず。

莉子はまず汐見湯のことを考えるといいと思う。こういう人たちが日本国中に無数にいる。汐見湯はまだ恵まれているほうで、世界にはもっといろいろな生活があるのだ。

『おかえりモネ』第85回「あなたの投げるものなら、僕は全部取ります」菅波の胸に飛び込む百音(キュン)
写真提供/NHK

朝岡(西島秀俊)内田(清水尋也)を起用した理由は「伝えるエキスパート」を目指すため。世の中にはいろいろな人がいて、ひとりではカバーしきれないから莉子とはまた違う層に情報を伝えるために内田も必要だったというところだった。

「受け取り側の経験や価値観に左右される」ことを「人は自分の好きな人や、なんとなく信用できそうな人の話しか聞かないってことです」と言い換える朝岡。

菜津や朝岡の想いはドラマ作りとも重なって見える。こんなふうに考えながら誠実にドラマを作ってくれているとすればだからこその苦労もあるに違いない。

それにしても内田への似顔絵は素朴な絵ばかり。少女漫画風とかないのかな。それと、放送中とその直後の百音は別人。
その切り替えの鮮やかさには舌を巻くばかりである。

「あなたの投げるものなら僕は全部取ります」

その後も百音は菅波の部屋に合鍵を用いて入るが菅波と部屋で会えることは一度もなく、百音は菅波の引っ越し準備を手伝いはじめる。

「そんなことさせるために鍵を渡したわけじゃないんですから」と菅波は電話越しに言うが、この状況はそうとしか思えないし、百音は百音で世話女房ふう。帰ってきたら食べてね的に勝手にキッチンを使って料理を作ったりすることはないが、せっせと荷造りはするのである。勝手に料理が図々しいと考えるか荷物を全部見ることが図々しいと考えるか。これもひとつの価値観であろう。



『おかえりモネ』第85回「あなたの投げるものなら、僕は全部取ります」菅波の胸に飛び込む百音(キュン)
写真提供/NHK

菅波「見られて困るものなんてないですよ」
百音「それはそれでおかしくないですか」

この会話が可笑しい。見られて困るものを人は持っているはずという百音理論。

健気に荷造りする百音。けっして感情的にならないが、不満のようなものが溜まっている。菅波に聞いてほしいことがある。百音の切迫感に気づいた菅波はなんとか時間をやりくりして「15分会いましょう」と川沿いで待ち合わせる。

ようやく会えたふたり。
百音は少し甘えを見せるかのように鍵を投げ返す。空間把握能力に欠けているはずの菅波がその鍵をキャッチ。

「あなたの投げるものなら、僕は全部取ります」

そう言われて百音は菅波の胸に飛び込んだ。

川沿いで川がキラキラ、風がそよそよ、自然光の良さもあっていい感じだったが、ふたりのシーンだからといって単調なカットバックを多用するのは百音と菅波の素朴さを表すためだったのだろうか。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪










番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
編集部おすすめ