
登場する人物のほとんどが台本通りに動かない衝撃的展開『遊星王子2021』
過去作のリメイクは数あれど、令和の世の中にはさまざまなアレンジが施されて“今風”になっているものが多いだろう──。そんな期待をいろんな意味で裏切ってくれる映画が舞い降りた。【関連レビュー】壇蜜、人生初のウエディングドレスが中古で5000円。
その作品とは『遊星王子2021』。『いかレスラー』(2004年)、『日本以外全部沈没』(2006年)、『地球防衛未亡人』(2014年)などで知られるB級映画の鬼才・河崎実監督がメガホンを取り、1959年(昭和34年)年に梅宮辰夫主演による特撮ヒーロー映画を令和の世に甦らせた。ちなみにWikipediaによれば、同作は「東映が初めてSF調メカを登場させた映画」であるらしい。

今回、主人公・遊星王子を演じたのは、2.5次元舞台やBLテレビドラマ『彼が僕に恋した理由』(TOKYO MX)での演技が注目される若手イケメン俳優・日向野祥。正統派の二枚目ルックスを持つ彼のオーラで見事に現代風にアレンジ…… かと思いきや、フタを開けたらサイゼリヤの間違い探し並にツッコミどころが満載なのだ。
惑星同士の民事トラブルに地球が巻き込まれる
現代から遡ること200年前、宇宙船で銀河を旅していたMP5星雲第四遊星の王子、通称遊星王子。「あれが第三惑星、地球か! ハーッハッハッハ!」と高らかに笑ったのもつかの間、太陽黒点活動による電磁波障害、デリンジャー現象に巻き込まれて地球へと墜落してしまう。非常に楽しそうに。非常に楽しそうに「ハーッハッハッハ!」と笑いながら。
そして時間は一気に200年進んで現代へ。ヒロインである商店街のパン屋の娘、大村君子(織田奈那)が店の前にいた謎の黒服の男達に襲われそうになったところを、マンホールの下から出てきた遊星王子が間一髪で助けたことをきっかけに、やけに聞き分けのいい大村家の家族に妙にすんなり受け入れられたのち、遊星王子は君子の家の居候となる。
遊星王子は自由な擬態の能力を身に着けており、君子が大ファンのアイドル歌手に扮したり、さらにその歌手と入れ替わって芸能人生活を謳歌したりするのだが、徐々にそこには魔の手が忍び寄っていた……。
君子が遭遇した謎の黒服の男達は、かつて遊星王子にストーカーまがいの横恋慕で星をめちゃくちゃにされた「タルタン星」の宇宙人であり、彼らは彼らで宇宙の破滅を回避するため、遊星王子の始末を企んでいたのだ。
改めてあらすじを書き起こしてみると、そのストーリーのカオスっぷりに頭がクラクラする。正義の味方は悪でもあり、悪役もまた正義の要素を持っており、言ってみたら惑星同士の民事トラブルに地球が巻き込まれるのだ。カオス!!!

そんなストーリーが、(いい意味で)チープなSF特撮映画のフォーマットで展開されていく。しかもひとつひとつのシーンは長くて3分程度と異様に短く、唐突に時間が飛んだり、舞台がワープしたり、パッチワークのようなシーンの行き来を繰り返しながら展開していく。余韻? 伏線? なにそれおいしいの?
「わからない人は置いていきますよ、義務教育やないんやからね」とは今はなきアングラ芸人・テントの言葉だが、まさに文字通り、スクリーンにかぶりついて情報を整理しながら見ていかなければ、あっという間にストーリーは次へ進んでしまうのだ。途中でトイレに立とうものなら終わりである。
メインの登場人物以外、誰一人として台本通りに動かない
しかし心配ご無用。この映画はただでさえ突っ込みどころが多い。そのひとつが、ワザとじゃないかと思えるほどにチープな編集だ。SFモノということで変身やバトルシーンの随所にVFX技術の用いられたシーンがあるのだが、負荷の問題か、それ以外の理由か、大体の場面でVFXの対象となる登場人物以外はピタリと静止画状態になる。明らかに白昼撮影されていると思われるシーンを無理やり夜空風に編集しているシーンすらある。
それに輪をかけるのが、演技慣れしていない主人公以外の人物たちが作り出す、微妙に生々しい空気だ。
作中、ヒロインの弟役として子役の男の子が登場するのだが、“悪役”であるタルタン星人に捕らえられるシーンでは、めちゃくちゃ楽しそうな笑顔を見せながら、嫌がる。

商店街で繰り広げられる戦闘シーンも秀逸だ。派手にビームを出しながら戦う遊星王子たちの背後で、パン屋のおばちゃんが普通に品出しをしている。もともと最初から存在していないかのようなガン無視具合である。本作にはロケ協力地の地元民の人もエキストラ的に画面に映りこむのだが、「お、撮影か?」と思い切りカメラを覗き込んでいたりする。本当にたまたま通りがかって“出演”してしまったのかもしれない。
プロの俳優たるメインの登場人物たち以外、登場する人物のほとんどが台本通りに動かないという、衝撃的すぎる展開。完全フィクションのSFのように見えて、「カメ止め」のような妙なドキュメンタリー感が漂っている。編集でカットされず、そのまま使われているところも見ると、河崎監督はこうした“予想外”を面白がって、どんどんストーリーに取り入れていったようにも思える。


SF映画の顔をした、大人たちの“大余興”
「遊星王子の“活躍”が注目され、メディアに引っ張りだこになる」というストーリーもあり、劇中には架空のテレビ番組のシーンがいくつも登場する。インタビューであったり、討論番組であったりと、そのバリエーションは異様に豊富なのだが、そこに絶妙な有名人たちが本人役として多数出演し、アドリブで番組を“進行”していくのだ。情報番組のコメンテーターとして登場した大林素子は、遊星王子について「ぜひバレーボールの世界に来てほしいです」と、まったく感情のこもっていないコメントをし、ネタ番組の芸人として登場したガッポリ建設は、往年の持ちギャグ「なごり雪」の面白さを一挙手一投足レベルで遊星王子に延々と解説する。

さらに、劇中の討論番組では、映画コメンテーターの有村昆、『全裸監督』原作者の本橋信宏、雑誌『ムー』編集長の三上丈晴という濃すぎるメンツで、「遊星王子の実態」を議論。「身につけているのはコスチュームは『皮膚』らしい」という話から「いま話題のヒーローは全裸だったのか!」という話へ転がっていき、本橋が「なんでもかんでも全裸になりゃいいってわけじゃないですよ」とノリノリでコメントする。ズルい。これはズルい。

スクリーンを流れていく小ネタの洪水を見ながら思った。これはSF映画という形をとった、壮大な余興なのだと。登場人物みんなが、昭和30年代のオリジナル版『遊星王子』を各々想像し、「SF映画に出たら」という設定を転がし合う様子を写し取ったドキュメンタリーなのだと。この映画からは、私たちがコロナ禍で忘れかけて久しい大宴会の香りを思わぬ形で感じることができる。
(天谷窓大)
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作品情報
『遊星王子2021』大ヒット上映中

出演:日向野祥
織田奈那、若林司、平優心、岩井志麻子
津沢彰秀、きくち英一、堀田眞三
小林さとし、鈴木秀人、長谷摩美、なべやかん、ウクレレえいじ、小堀敏夫、町あかり、本橋信宏、三上丈晴、有村昆
大林素子(友情出演)、染谷俊之(特別出演)、西寺郷太(NONA REEVES)(特別出演)、吉田照美(特別出演)
団時朗
監督:河崎実
原作:宣弘社
原脚本:伊上勝
製作総指揮:菅谷英一、後藤明信、河崎実
企画・プロデューサー:村岡貞之
配給:パル企画
製作:「遊星王子2021」製作委員会(MinyMixCreati部 / CS日本 / 竹書房 / リバートップ)
『遊星王子2021』公式サイト
https://yousayouji2021.pal-ep.com/
(c)2021「遊星王子2021」製作委員会
1基の宇宙船が地球に墜落してから200年後の日本。長い眠りから覚めたMP5星雲第四遊星の王子は、パン屋の娘・君子の前に突如現れ、絶体絶命のピンチから彼女を救った。
パン屋に居候することになった遊星王子は、地球人と触れ合い、時にはトップアイドルと入れ替わったり、しつこく現れる宇宙からの侵略者・タルタン人から街を守ったり、地球生活を満喫していた―――ようにみえるが、墜落の衝撃で記憶の大部分を失くし、第四遊星へ戻るすべが分からずにいた。
地球を守るヒーローとして一躍国民の人気者になった王子だったが、タルタン人によって王子の正体は「宇宙の破壊者」だと、日本中に暴露されることに……。
果たして、遊星王子は正義の味方なのか?否、王子こそが侵略者なのか?
地球の運命やいかに!?
天谷窓大
ライター・構成作家。エンタメ媒体で芸能人インタビューを多数行うほか、音声配信アプリを主戦場にラジオ番組の企画構成を手掛ける。焼き芋アンバサダー・熱波師としての顔も。著書に「サラリーマンは早朝旅行をしよう!平日朝からとことん遊ぶ『エクストリーム出社』」(日本エクストリーム出社協会名義、SB新書)
@amayan