『おかえりモネ』第20週「気象予報士に何ができる?」

第97回〈9月27日(月)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

『おかえりモネ』第97回 さよなら東京、さよなら汐見湯、気仙沼におかえりモネ
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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「おかえりモネ」と迎えられ、亀島の実家に帰って来た百音(清原果耶)。さっそく気仙沼の自治体をまわり、「あなたの町の気象予報士」企画を売り込む。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第97回掲載中)

「海のまち市民プラザ」で、百音はコミュニティFMの天気予報をやることになる。
2019年11月5日、映えある第一回放送。番組のオープニングに使った曲は中学時代の吹奏楽部の思い出が詰まった「アメリカン・パトロール」。さっそく動き出した百音に爽やかな風を感じた朝だった。彩雲のようなレンズフレアがキラキラしていた。

宇田川さんの絵

汐見湯とお別れ。菜津(マイコ)が以前、番台でスケッチしていた百音と菅波(坂口健太郎)の絵を百音はもらう。さらに宇田川が以前描いた海の絵も。


けっきょく、宇田川は顔を出さず、音で合図しただけ。「これでも私たちは前に進んでると思うの」と菜津は言う。百音は「そこにいてくれるだけでいいって言ってくれる菜津さんに会えてよかったです」とその気持ちを受け止める。

宇田川が昔描いた絵は色彩豊かな海の中のもので、本来明るく素直な性格だったのだろうと感じられる。この絵を汐見湯から外に出すだけでも一歩も二歩も前進であろう。汐見湯にすら飾ってなかったのだし、彼にとって絵は自身の一部であろうから、その絵を百音と共に旅に出させることで宇田川の中で何かが動いているのは確かであろう。


心を閉ざさざるを得なかった人物を一回も表に出すことなく物語に描いたことは『モネ』東京編の成果のひとつだった。できれば菜津の祖父母の肇・光子(沼田爆・大西多摩恵)にももう少し出番が欲しかったけれど。お別れだけど菜津は「いってらっしゃい」とモネを送り出した。

『おかえりモネ』第97回 さよなら東京、さよなら汐見湯、気仙沼におかえりモネ
写真提供/NHK

百音、コミュニティFMのパーソナリティになる

2019年11月、百音は橋を渡って帰って来る。「ただいま」と家につくと誰もいない。耕治(内野聖陽)未知(蒔田彩珠)は仕事に出ているのであろう。そこへ亜哉子(鈴木京香)が駆けて来て「おかえりモネ」と言い、漁協に行くと足早に去っていく。
そっと百音を振り返りながら。

2014年の4月に百音が家を出て登米に行ってから5年半、ようやく実家に戻って来た長女を誰も迎えないのはなぜだろう。へんに盛り上げず、まるでいつものようにしようと考えたのではないだろうか。百音のあの真剣な手紙(第96回)を読むと、家族だって肩に力が入ってしまうだろう。百音だってあの手紙の延長線上だとどういう顔で「ただいま」していいか悩ましいのではないだろうか。だからこそあえて出迎えない。
それが気遣い。

さっそく百音は気仙沼の自治体まわりをはじめる。ちょうど悠人(高田彪我)が役所勤務になったので案内してもらっている。彼は新しく出来た「海のまち市民プラザ」のはまらいん課(「はまらいん」とは一緒にやろうという意味)の仕事をしていて、上司である課長・遠藤(山寺宏一)が震災を機にやっていたコミュニティFMに百音も参加することになる。

「なんで戻ってきちゃったの?」と素直に聞く遠藤。悠人が「ん」という顔になる。
テレビで活躍していた百音が急に地元に戻ってきたらそりゃあ気になるであろう。百音は地元の役に立ちたい一心だけれど、ネガティブなことを想像する人もいるかもしれない。でも百音には目的があるので、その疑問はすぐに払拭される。

「だいぶ変わったでしょう、町」「頑張ってますよ。人も町も。みんな。
あなたのように新しいことにチャレンジしている若い人もいっぱいいて。じつに頼もしい」と遠藤。彼もボランティアの大学生・水野一花(茅島みずき)も百音の番組を観て知っていた。百音がくよくよ悩んでいた間、地元の人も地元以外の人も頑張っていた。ここからは百音も一緒に地元を盛り上げていく。

震災直後、災害FMを立ち上げたメンバー小山役の佃典彦は日曜劇場『半沢直樹』(2020年)で堺雅人と香川照之にはさまれて土下座させられた役で注目された俳優。AIアナウンサーのシマノミドリさんもなかなか可愛かった。



『おかえりモネ』第97回 さよなら東京、さよなら汐見湯、気仙沼におかえりモネ
写真提供/NHK

「伸ばした羽はすぐ畳まっせから」

朝、お弁当の仕度を手伝う百音。亜哉子、未知、百音の3人が台所に立つ風景はきっとすごく久しぶりで感慨深いものがあるだろう。でも3人ともごく当たり前に振る舞っている。

最近、耕治が仙台によく行っているという話になると、「伸ばした羽はすぐ畳まっせから」と亜哉子がいつもにこにこしているが実はけっこう怖いところを覗かせる。耕治に恋してまっしぐらで諦めずに射止めただけあって執念深い――よく言えば情の深いタイプなのだろうなあ……。

食事の仕度をしながらせりふを話す鈴木京香の自然さはさすがであった。未知と百音はただ箸を右から左へ動かしているだけでやり慣れてない感があるのはご愛嬌。若手俳優はたいていこんな感じなのである。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami