『おかえりモネ』第20週「気象予報士に何ができる?」

第99回〈9月30日(木)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

『おかえりモネ』第99回 ほくろが左目の下に並ぶ内野聖陽と右頬にある清原果耶の親子感
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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意を決して地元で働き始めた百音(清原果耶)亮(永瀬廉)は「なんで帰って来たの?」「(地元のためとは)きれいごとにしか聞こえないわ」と酔った勢いも手伝って率直に言う。

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「嫉妬して当たっているみたいに思われたらかっこ悪いな」と言い訳しながらも本気のようで、空気がざわついたところ、亜哉子(鈴木京香)が割って入り、その場を収めた。

たとえ何を言われても百音は考えに考えて戻って来たのでやれることをやるしかない。
コミュニティFMで天気予報を続けるが、漁港組合の組合長・滋郎(菅原大吉)が百音の予報に耳を貸してくれない。

百音、アワビの開口日に興味を持つ

気まずい雰囲気を明るくほぐす亜哉子であるが、お母さんというより飲み屋のママみたいに見えるのはなぜなのか……。しかも『あまちゃん』のようなスナック感ではなく、彼女が昔演じた『王様のレストラン』の元はクラブホステスだったバーテンダーみたいな上品さを常にまとっていて、生活感ある家庭からひとり浮遊している感が興味深い。鈴木京香はいつでもどこでも彼女の周辺だけ艶やかな虚構感があるところが魅力である。どちらかといえばAIシマノミドリさんの仲間のようである。

永浦家は実力派漁師としておそらく島のヒーローのようであったであろう、伊達男感漂う龍己(藤竜也)、影のない耕治(内野聖陽)と、ママみたいな亜哉子とちょっと芸能人のような華のある陽キャたちで構成されている。ところがふたりの娘はささやき声で自己肯定感の低い陰キャ。


思春期に震災を経験していなかったら百音も未知(蒔田彩珠)も祖父や両親のように屈託なかったのかもしれない。そう思うと言葉が出ない。いつかふたりも屈託なく笑える時が来るといいのに。亮も。陽キャのような龍己も耕治も亜哉子も本当は疲れていて、でも必死で背筋を伸ばしているのだ。

すっと前を向く百音の表情は透明で美しい。
ある日、百音の元に、気仙沼中央漁港の組合長・滋郎がやって来た。アワビの開口日について放送で話す滋郎。それを聞いて百音はアワビの開口日の予測の手伝いをしようと思いつく。だが滋郎には相手にしてもらえない。

この百音と滋郎の対立と同じようなことが登米編でもあった。長年の勘で判断してきたことを信じている人物とはなかなか折り合えない。
ベテランが勘で行っていることを百音は科学的にデータ化することで精度を高める。登米の時はまだ百音も未熟であったが、今は気象予報士の資格も実践も積んで自信をもって意見を言える。そこが強みであり成長である。

ただ、登米でも最終的に人生は螺旋階段のように同じところを回っているようでちょっとずつ上にあがっていることがあるもので、この繰り返しも無駄ではなく、百音はBUMP OF CHICKENの主題歌「なないろ」の歌詞のように「前に進んでいる」はず。

それに百音は力強いパートナーがいる。菅波(坂口健太郎)が電話で話を聞いてくれる。
彼は彼でひとり東京で悩みながらも前に進んでいる。支え合いながらお互い頑張っている姿は麗しい。

『おかえりモネ』第99回 ほくろが左目の下に並ぶ内野聖陽と右頬にある清原果耶の親子感
写真提供/NHK

そんな折、ラジオでしゃべらせてほしいと子どもたちを連れて高橋美佳子(山口紗弥加)がやって来た。彼女はかつて災害FMをやっていたメンバーであるという。「たまには飲みに来てくださいよ〜」と遠藤課長(山寺宏一)に言うので飲み屋を営んでいるのであろう。

そうそう、山口紗弥加からはすでにスナック感が漂っている(本人がということではなく、そういう演技をしているという意味です)。
菅原大吉演じる滋郎から漂う漁港の生活者感はかなりのもの(この場合の生活者感とは実際に知らない者にもそうなんじゃないかと思わせる、いわゆる説得力)。宮城県出身だから言葉はじつにナチュラルに響く。



菅波は「自分のいなかった時間を埋めるのはしんどいけど案外面白い」と言う。この「時間を埋める」。これこそが演技における生活感である。山口紗弥加と菅原大吉は出てきた瞬間に時間が埋まっているのである。
おかやまはじめも。山寺宏一も。時間の埋まってる俳優とどうしても埋まらない俳優の差とは何なのだろう。永遠の問題である。

「市民の時間」というコーナーが復活し、ラジオブースが活気づく。こうやって地元の人たちと一緒に何かをやっていくのが良いのだろうなあ。

クレジットを見るとーー漁師さん(おかやまはじめ)、新港商店さん(竹林文雄)、氷屋さん(鹿野浩明)、洋品店さん(あじの純)と名前が仕事の名前だった。「さん」をつけて尊重しているようだが、もう一歩進んで漁師・◯◯、氷屋◯◯ みたいに名前があったほうがより生き生きとするのではないだろうか。子どもたちはさすがに子ども(◯◯)ではなく、ヒナ(太田結乃)、コウタ(前村隆之介)、麻衣(竹野谷咲)と名前がついていた。

『おかえりモネ』第99回 ほくろが左目の下に並ぶ内野聖陽と右頬にある清原果耶の親子感
写真提供/NHK

前に進んでいるといえば耕治。仙台の本店の部長の打診を受けていた。出世である。でも耕治の顔はさほど嬉しそうではない。

余談だが、内野聖陽の左目の下にほくろが並んでいる。清原果耶は右頬にほくろがある。左右違うが、複数のほくろが印象的なのは親子感がある。耕治と百音が似ている(性格とか趣味嗜好が)設定なので、たまたまなのだろうけれど、この偶然はいい作用をもたらしているように感じる。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪







番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami