
※本文にはネタバレがあります
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高い注目集めた『日本沈没』第1話
故国が沈む未曾有の危機において決して失わない希望を描く日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』(TBS/日曜よる9時〜)は初回拡大版で放送され、世帯視聴率は15.8%(ビデオリサーチ調べ/関東地区)と注目度の高さを示した。
じわじわとにじり寄ってくる危機と日本の中枢を担う官僚や学者たちの自分本位で信用ならない振る舞いを良い緊張感で描いた『日本沈没』は過去の日曜劇場のなかでも高い視聴率を獲得。何が要因だったか。
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環境省の官僚・天海啓示(小栗旬)は地球物理学を研究している田所雄介(香川照之)から「関東沈没」説を聞かされる。最初は信じていなかった天海だったが、徐々にまったく眉唾でもないような気がしてくる。その矢先、田所の言ったとおりに伊豆の島のひとつ・日之島が水没しはじめた。田所は日之島沈没が関東沈没の前兆となると予言していたのだ。

その1:原作の強さ
『日本沈没』の原作は1973年に発表された小松左京の小説。これがベストセラーになり、映画やドラマ化され、そのたび話題になった。最近ではNetflixでアニメ化もされている。昭和世代には有名な作品、名作中の名作として魅力的なコンテンツであるだけに、良くも悪くも気になるはずだ。
その2:タイムリーなテーマ
ちょうど初回放送の3日前の10月7日(木)の夜、関東で震度5強の地震があり、東日本大震災以来の震度と国民を不安に陥れたばかり。10年前に起こった震災以降、誰もが地震に敏感になっている。田所博士が予言した近い将来、関東が沈没するという説は当たるのか。ちょっと怖いが気になる問題である。ドラマは時代を現代に置き換え、原作を脚色している。

その3:小栗旬の求心力
放送前、主演の小栗旬が中心になってTBSのバラエティーや情報番組に多く出演していた。そもそもポピュラーな魅力ある小栗は親しみやすさがあり、何度もテレビに出て、『日本沈没』が紹介されると観てみようかなという気になる。

また、小栗はなかなか稀有な存在で、『花より男子』や『クローズZERO』から『銀魂』まで漫画原作ものにたくさん出てきたことで(ルパン三世までやっている)名前と顔が一致しやすい俳優である。そのうえ単なるポップな俳優ではなく、演劇で鍛えた演技力という信頼性も保持している。ライトさと重さがうまいバランスをとっていて安心感がある。実際、ドラマでも彼の物事に対する反応――疑惑や不安、好奇心や正義感などが鮮やかに表情に出ていて視聴者を見事に誘導していた。
その4:堅苦しくなり過ぎないほどよいフィクション感
官僚が未曾有の危機にどう判断し行動するかを興味深く描いた映画『シン・ゴジラ』がヒットしたとはいえ、官僚中心の話は一般人には遠い世界なうえ堅苦しく映らないだろうかと思いきや、ほどよい軽みでさほど気にならない。ところどころそんなことあるだろうかと思うところもあった。例えば、海底で天海が温水噴出に巻き込まれる。海底調査のため潜水艇わだつみで潜ったらスタッフのひとりが閉所恐怖症で体調が悪くなり途中で調査を打ち切る。

さらに田所が昔話の老人のようにやたらと声を震わせて話すことでフィクション感が出る。あまりにシリアス過ぎるとしゃれにならないテーマなのでしんどくなるところ、ちょっと角度を変えてくる加減がさすが。天海が海で人間の捨てたレジ袋に閉じ込められた子ガメを救うシーンは浦島太郎のようで、田所のしゃべりかたと合わせて日本昔ばなし感があった。

その5:インパクトある場面
はじまりは美しい海。海底では裂け目ができ、後に天海がそこに吸い込まれそうになる。海底を潜る潜水艦。水没する島。崩壊していく東京。スケールの大きな画が随所にあって刺激があった。大作映画ほどのスケール感はないとはいえ、室内の画が多くなりがちなテレビドラマにしては目先が変わっていて見応えがあった。
主たる要因は以上の5点と考えることができる。


第2話は一気に話が進み危機に直面していく天海たち。撮影はすでに終了しているため見どころがたっぷり盛り込まれた予告編が菅田将暉の主題歌「ラストシーン」と共に流れた。早くも気になる『日本沈没』のラストシーン。
(木俣冬)

番組情報
TBS日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』
毎週日曜よる9時〜
出演:小栗旬 松山ケンイチ 杏 ウエンツ瑛士 中村アン 与田祐希(乃木坂46)/國村 隼/小林隆 伊集院光/風吹ジュン 比嘉愛未 宮崎美子/吉田鋼太郎(特別出演)/杉本哲太 風間杜夫 石橋蓮司 仲村トオル 香川照之
原作:小松左京「日本沈没」
脚本:橋本裕志
音楽:菅野祐悟
主題歌:菅田将暉「ラストシーン」(Sony Music Labels Inc.)
演出:平野俊一 土井裕泰 宮崎陽平
プロデュース:東仲恵吾
製作著作:TBS
番組サイト:https://www.tbs.co.jp/nihon_chinbotsu_tbs/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami