音楽・芝居・声優…多岐にわたり活動する加藤和樹が語る、人との関係性の重要さ
撮影/源賀津己

2006年4月にミニアルバム『Rough Diamond』でデビュー、今年15周年を迎えた加藤和樹。それを機にリリースされた『K.KベストセラーズII』では、気心の知れたライブメンバーとこれまでの楽曲と新曲「REbirth」をスタジオライブ録音し、さらに松任谷由実の「春よ、来い」をはじめとする名曲をピアノと歌だけでカバー。
アーティスト加藤和樹の新たな魅力をあますところなくアピールしてみせた。音楽に芝居にミュージカルにと、着実に幅広い活動を自分のものにしてきた加藤和樹にとっての15年、たっぷりと話を聞いた。

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加藤和樹のターニングポイント

──デビュー15周年を迎えて、どのようなことを感じますか?

加藤:濃かったなぁという印象がありますね。まぁよくここまできたなっていう。デビューしたときは本当にゼロからのスタートだったので、音楽経験もないし、何をどうしたらいいのか、右も左もわからない状態だったので。

そういう意味では下積みがあってデビューするアーティストの方とは違って歩みが遅いぶん、ひょっとしたら応援してくださる人たちからすると、もどかしいものがあったのかもしないです(笑)。

──この15年を振り返って「あそこがターニングポイントだったな」という時期はありますか。


加藤:2012年あたりですかね。ミュージカルを始めたタイミングでもあったし、音楽を5年以上やってようやく自分の意思というものが芽生えてきた時期だったのかなと思うので。それまでに失敗したこととかが、やっと経験として身になってきたというか。

──失敗がきちんと糧になってきた時期だと。

加藤:そうですね。でも僕、わりと都合よく忘れるほうで(笑)。
あまり深く考えないタイプなのかもしれないですけど、悪いことがあったり、失敗したりっていうのは自分の責任ですからね。それをいつまでも考えてたってきりがないので、時間は過ぎていくものだし。だから大変だぁとか、疲れたなぁとか、ネガティブな言葉はあまり発しないようにはしているんです。それをいつまでも引きずると、そのことが周りに与える影響のほうが大きくなるので。自分がしっかり前を向いていかなきゃって意識するようにはしてますね。

──それはこの15年間に思うようになったことですか。


加藤:そうですね。そのタイミングが2012年とかだったんじゃないですかね。僕は本当にゆっくり変わっていくタイプというか、成長速度が遅いんですけど(笑)、2012年頃にミュージカルと出会ったことは、一つ大きなタイミングだったと思います。

──地に足がついていますね。

加藤:どうなんでしょうね。でもその頃から気持ちのうえでは、すごく順調だと思います。
辞めたいとか、わからない、みたいなことはあまりなくなったような気がするので。もちろん悩むことはありますけど、追い詰められる状況にはならない。

でも追い詰められるときって、原因は周りじゃなく自分にあるんですよ。うまくいかない原因は自分だってことがわかれば、あとは自分がなんとかすればいいだけの話なんで。……ほんと深く考えないですね、僕は。嫌なことっていつまで考えててもしょうがないから。
そこはこういう性格でよかったなって思います(笑)。

音楽・芝居・声優…多岐にわたり活動する加藤和樹が語る、人との関係性の重要さ
撮影/源賀津己

──そういう考え方はプライベートにも言えることですか。

加藤:あまり人のことを嫌いになったり、悪口を言ったりしないかなぁ。そういうネガティブなことを考えないっていうか。

──そうは言っても、ネガティブに感じてしまうことがないわけじゃないですよね?

加藤:はい、ありますね。あるんですけど、ないんです、なんか(笑)。


──加藤さんの活動は音楽、芝居、ミュージカル、声優と多岐にわたっていますが、自分のなかで区別などありますか。

加藤:ないです。昔は現場によって会う人も違うので、僕も接し方を変えなきゃいけないのかなって思っていたんですけど。作品に向かっていく姿勢というのはみんな同じなわけで、そこであえて自分がこうしなきゃというよりは、現場の空気を感じて自分の在り方を探すのがいいと思うようになりました。けっきょくは現場が違っても人と人ですからね。その人との関係性こそが重要なんだって、フラットに考えられるようになりましたね。

──音楽と芝居の現場は、かなり違うように思えるのですが。

加藤:それも変わらないですね。もちろんライブの現場がいちばん自分で居られる場所ですけれど。あとライブは、自分より経験がある信頼している人たちに支えられている現場なので。どちらかというと他の現場では、後輩も増えてきて自分が引っ張っていかなきゃいけない立場になることが多いんですね。若い時はそれこそ先輩ばかりで、自分が勉強して吸収していくことがメインだったんですけど、今は自分が座長の立場になることもありますから。……音楽と芝居、なんかお互いに良い影響を与えているところはありますね。どっちもあるからこそ自分らしくいられるというか。

──加藤さんのなかで役を演じるということと、音楽を作ったり歌ったりするということは違いのあるものですか。

加藤:実はそれもそんなにないんですよね。表現方法が違うだけで、取り組む姿勢や、そこに向かうエネルギーは同じなので。唯一違うのは音楽の現場は、ある意味自分が監督であり、自分がプロデューサーでなくてはいけないところですかね。どちらかというと役者では自分は素材でしかなくて、どう料理されるかですけれど、音楽の場合は自分が素材であり、自分がプロデュースする側でなければいけないっていう。自分を導くのも自分しかいないので。



──デビュー当時から、これだけ幅広い活動を目指していました?

加藤:いや全然。生意気にもデビューした時は音楽1本でやりたいと思っていましたから(笑)。芝居も苦手だし……って。それよりも歌うことは昔から好きだったので、歌いたいっていう気持ちが強かったですね。でもMCは喋りたくないと思ってました。当時は本当に喋るのが苦手で、人前に立つと緊張してしまうし、こういうインタビューとかでも何か聞かれないと喋らないし、喋っても一言二言で終わってしまうみたいな。

──困るタイプですねー(笑)。

加藤:ですよね、ほんとに困らせていたと思います(笑)。自分のことをどう喋ったらいいかわからなかったんですよね。

──もともと性格的に引っ込み思案だとか?

加藤:緊張しいなんですけど、どちらかというと人を笑わせたり、面白いことをしたりするタイプの子どもではあったので、目立つことは嫌いではなかったと思います。中学高校でも、どちらかというとクラスの中心にいるタイプでしたし、むしろ機会があれば目立つことを率先してやるという。中学のときに合唱コンクールでソロをいただいたときも、めちゃめちゃ嬉しかったですから。

音楽・芝居・声優…多岐にわたり活動する加藤和樹が語る、人との関係性の重要さ
撮影/源賀津己

ミュージシャン・役者を志したきっかけ

──音楽をやりたいと思うようになったのは、何かきっかけがあったのですか? 誰かに憧れたとか。

加藤:音楽で、と明確に思うようになったのは、上京してザ・ベイビースターズの「去りゆく君へ」という曲を聴いたときです。それまでは単純にカラオケとかで流行っている曲を歌うくらいで、特にこのアーティストが好きっていうのもなかったんですね。とにかく幅広く聴くっていう感じで。

──好きな音楽のジャンルも幅広かった?

加藤:はい、ジャニーズに始まって、中学のときはGLAY、L’Arc〜en〜Cielとか、高校入ってからはCHEMISTRY、EXILEとか。女性アーティストでいうと宇多田ヒカルさん、倖田來未さんみたいに、その時の最新ヒットチャートを聴くタイプでした。で、聴くと歌いたくなって男性の曲だけでなく、女性の曲も歌って。

──友達と一緒に行くと「歌、うまいな」と言われたり。

加藤:「歌って」と言われることは多かったですね。男には、失恋すると「ちょっと泣けるバラード歌ってほしい」と言われたり。

──役者をやりたいと思ったきっかけは何ですか?

加藤:これが実は、明確にはないんですよね。前の事務所にいたときも、まずは役者で2時間ドラマに出ることからっていう感じだったので。

その後、歌の経験もできる、自分も好きな作品だったミュージカルの『テニスの王子様』のオーディションを受けてみることになって。ほぼ同時期に若い男の役者は毎年受けることが決まりのようになっていた戦隊ものの『仮面ライダー』のオーディションも受けて。ラッキーにも両方受かって。

とはいえ自分としては音楽をやりたかったし、ありがたいことにデビューの話もいただけたので、役者と並行してやっていくっていう流れになったんですね。なので本格的に自分の意思で芝居をやりたいと思うようになった時期は、本当に明確じゃないんですよね。

──やっていくうちに面白くなっていった。

加藤:そうですね。『ホタルノヒカリ』をやっているときも、芝居がわからないと思っていましたし。

──わからない?

加藤:自分じゃない人をどう演じたらいいかが、わからなかったんです。『テニスの王子様』と『仮面ライダー』に関してはキャラクターがものすごく強いので、演じることも面白かったんです。でも『ホタルノヒカリ』の役柄は普通の成人男性なので、普通ってなんなんだろう……って急にわからなくなっちゃって。普通にお芝居をするってことがどれだけ難しいかを、そこで思い知らされて。

──キャラクターが濃いと、そこに自分というものが出ることがないですもんね。

加藤:そうなんです。常々僕は芝居に自分はいらないと思っているほうなんで。ただ、その「普通」っていうのは日常から引き出してこないといけないものだから。そのときは本当にどん底というか、どん詰まっちゃって。そのあたりから舞台というか、ストレートプレイをやるようになっていったんです。

けっきょく舞台ってなまものだしライブだから、その限られた時間のなかで役を生きることの魅力にとりつかれたというか。お客さんも目の前にいて緊張感もあるので。今でも、舞台のほうが好きですね。


──ただその緊張感はやり直しがきかない怖さと紙一重ですよね。

加藤:そうなんですけど、すごく刺激になったというか。昔はセリフを忘れたらどうしようと思うこともあったんですけど、今は舞台やミュージカルってホントに緊張しないんですよ。でもライブは昔も今もめちゃめちゃ緊張します、歌詞が飛んだらどうしようとか。

──ミュージカルの場合、歌詞が飛んだらどうしようという恐れは。

加藤:もう役に入っちゃうので、そういうことはあまり考えないんですよね。もう演出も決まっていて自分の芝居のプランもあって、というところで体が覚えているので。ミュージカルは歌を歌うというのではなく、お芝居するっていう感覚なんですよね。

──セリフのように歌が体に入ってる。

加藤:そうなんです。でも歌になると芝居もないし、歌だけを伝えなきゃいけないので。



──机上の空論かもしれないですけど、もしもライブ中の動きとかがすべて決まっていたら緊張しないかもしれない?

加藤:作られたパッケージのものになっていたら緊張しないかもしれないです。でもそれは俺にとってライブじゃないんですよ。ライブは自由じゃなきゃいけないし、お客さんと作る空間だから。

──ということはライブ=緊張は仕方がないことになりますね。

加藤:ですね。きっとライブは役をまとってないから、自分自身だから緊張するんでしょうね。昔はある程度カッコつけなきゃとか思ってましたけど。デビューしたての頃はMCもろくに喋れないんで、あらかじめ用意したMCを丸暗記して喋るっていう、今にしたらめちゃめちゃ器用なことをやってましたけど(笑)。

でもそれって自分の言葉ですけど、その場で思いついた言葉じゃないから、ある意味どっか芝居がかってるところも多々あって。今は加藤和樹として、今この場で感じたことを喋る、お客さんとその場のことを語り合うスタイルになってるんで。……ひとたび出ちゃえば全然緊張しないんでけどね、出る前の緊張がもうやばいんで。

──隙あらば逃げ出したいくらいですか?

加藤:いやホントそう思います。10分前、5分前くらいがピーク。落ち着かなくてウロウロ、ソワソワしてますね。それはずっと変わらないし、この先も変わらないんだろうなって思います。その緊張がなくなったら終わりだな、とも思ってます、ライブにおいては。

音楽・芝居・声優…多岐にわたり活動する加藤和樹が語る、人との関係性の重要さ
撮影/源賀津己

菊田一夫演劇賞を受賞

──ところで今年受賞した菊田一夫演劇賞はとても嬉しいことだったのではないですか。

加藤:そうですね、聞いた瞬間は嬉しいというより、ビックリするほうが先で実感がなかったですけど。いやいやいやいや、他にもっと素晴らしい人がね、たくさんいますからって。ただ、苦手だったけれども諦めずにコツコツやってきたお芝居を認められたというか、評価していただけたのは嬉しかったですね。

──励みになりますよね。

加藤:励みになりますし、自信にもなりましたね。やっぱりどっか自分の芝居に自信がなかった部分があったので。でもいろんな人の支えがあって貰えたものだとは思ってます。

──そしてこの11月からはツアーも始まりますね。

加藤:昨年から今年の頭くらいまでは、なかなかバンドでは行けない状況があって一人で回るロードツアーっていうのをやったんですけど。やはり15周年ということでライブを待っている人がいるので。そしてその期待に応えないと自分が音楽をやってる意味がないと思ったので。

もちろん少し落ち着いたとはいえ、「まだ早いんじゃない?」っていう意見もあるとは思うんです。でも「じゃ、いつやるの?」って部分もあるので。どうしたらできるかをスタッフと考えて、お客さんにも理解してもらって、来られる人には来てもらおうということになりました。

──ツアーはピアノだけの『Piano Live Tour 2021』と、バンドでの『Kabuki Kato Live“GIG”Tour2021-REbirth-』がありますね。

加藤:『Piano Live Tour』は初めての試みなんです。9月に出した『K.KベストセラーズII』というアルバムでカバー曲をピアノとともに5曲やったので。その延長線で今までの自分の楽曲も含めて、ピアノアレンジでちょっと大人な雰囲気で伝えてみたい、っていう挑戦でもあって。そこに関しては自分でも未知数なんですけどね。アレンジが変わることで歌へのアプローチが変わって、曲の印象も変わると思うので。ピアニストと2人で醸し出す雰囲気、間、タイミング、テンポも毎回変わってくるんだろうなって。そこは自分自身もすごく楽しみなところではありますね。


──バンド編成のライブは15年を総括りするセットリストに?

加藤:そうなるとは思います。でも今回のアルバムでは、これまでの曲を新たにバンドで一発録音してセルフカバーしているので、それをライブで見せる感じになると思います。なので15周年ありがとうっていう感謝の気持ちがありつつ、ここからまた20周年に向けた第一歩が届けられるようなライブにしたいと思っています。
(前原雅子)

ツアー情報

【Kazuki Kato Piano Live Tour 2021】
2021年11月14日(日)広島 Live Juke
2021年11月16日(火)札幌 ペニーレーン24
2021年11月20日(土)仙台 LIVE DOME STARDUST2021年11月24日(水)新潟 GIOIA MIA
2021年11月27日(土)松山 MONK2021年12月02日(木) 名古屋 ボトムライン
2021年12月11日(土)福岡 Gate's 7
2021年12月19日(日)心斎橋 JANUS

【Petit VOICEFUL WORLD TOUR 2021】
※FC会員限定公演ツアー
2021年11月13日(土)広島 Live space Reed
2021年11月17日(水)札幌 SPiCE
2021年11月19日(金)仙台 darwin
2021年11月23日(火・祝)新潟 GOLDEN PIGS RED
2021年11月28日(日)松山 サロンキティ
2021年12月3日(金)名古屋 CLUB QUATTRO
2021年12月12日(日)福岡 DRUM LOGOS
2021年12月18日(土)梅田 Banana Hall
2021年12月30日(木)新宿 FACE

【Kazuki Kato Live “GIG” Tour 2021-REbirth-】
2021年12月9日(木)川崎 CLUB CITTA’
2021年12月13日(月)福岡 DRUM LOGOS
2021年12月15日(水)岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
2021年12月16日(木)心斎橋 BIG CAT
2021年12月23日(木)豊洲 PIT

◎ツアー詳細
https://www.katokazuki.com/live/contents_type=52

舞台出演情報

【ミュージカル「フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~】
2021年12月8日(水)~29日(水)東京・日生劇場
2022年1月8日(土)9日(日)大阪・梅田芸術劇場メインホール
2022年1月15日(土)16日(日)大阪・愛知県芸術劇場 大ホール
◎公式サイト
https://www.hokuto-no-ken-musical.com/

【冬のライオン】
2022年2月26日(土)〜3月15日(火)東京芸術劇場 プレイハウス(公演日は予定)
◎公式サイト
https://www.thelioninwinter.jp/

加藤和樹オフィシャルサイト

https://www.katokazuki.com/



Writer

前原雅子


フリーライター、音楽系が多い。読書、ジャンクから高級物まで広く食するお菓子、気の向いたときにする家事が趣味。