朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第1週「1925-1939」
第3回〈11月3日(水)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

※朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第4回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせしています
安子の生きる平和で幸福な世界
マイク、鍋……と来て第3回は、安子(上白石萌音)の背中に「EPISODE 003 連続テレビ小説」が乗っかった。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜3回掲載中)
高等小学校を卒業し14歳になった安子は家業の菓子屋の手伝いをしている。兄・算太(濱田岳)のラジオ窃盗事件の時に生まれた赤螺吉右衛門(中川聖一朗)も大きくなってこまっしゃくれた話し方をするようになっている。
彼は自分のために届けてもらったかしわ餅を近隣に配ると言う。ケチ兵衛こと吉兵衛(堀部圭亮)のケチさとはえらい違いである。それにしても商店街のどんつきにある荒物屋は相当繁盛している店なのだろう。堂々たる店構えである。
ここまで楽しい話ばかり流れてきていたラジオだったが、日中戦争のさなか満州で日本とソ連が戦争をはじめたという不吉な話も伝えてくる(1939年5月ノモンハン事件)。
安子がかけたいと願ったパーマネントも禁止になった。戦争とパーマの関係性がわからない安子は「はようパーマネントがかけられますように」と神社にお参りする。この時お供えしているあずきの乗った三角形のお菓子は水無月。夏の風物詩のひとつであり、厄除けになるとも言われている。京都では6月30日に半年間の無病息災を祈って食べる習慣がある。
お参りの帰りがけにすれ違うのが、雉真勇(村上虹郎)。子役から村上虹郎に変わった。
モーニングルーティーンのラジオ体操。お店に並んだ菓子の数々。これもまた平穏の象徴のようなものばかり。幸せとは穏やかで誰も傷つかないし傷つけない、変わらない日々であることだと感じさせる。安子はこれといった夢も持たず、あたたかい実家で大好きなお菓子に囲まれて生きている。屈託のない、やわらかく煮て溶けてしまいそうなお餅のような安子の笑顔もまたやさしい日常を表していると感じる。
ラジオを他人の家から失敬しても大問題にならない。家を継がずに好きなことを学びに行けてしまう。毎日、お菓子を食べながら漫才を聞いて笑う。
安子の生きる小さな世界はそうだが、一歩外に出たら国境線をめぐって激しい闘いが起こっている。安子の理想とする世界はじつに脆いものであることを安子は未だ知らない。
と、そこへ現れたのが、お菓子を買いに来た雉真稔。待ってましたのSixTONESの松村北斗の登場である。ジャニーズの松村が朝ドラに出ると発表された時、ファンが熱狂した。松村は本日公開の映画『きのう何食べた?』にも主人公のひとりケンジ(内野聖陽)と同じ美容室に勤めている若手美容師の役で出演中であり、露出の仕方のタイミングが絶妙である。
第2回で友人きぬちゃんに言われた「好きな人」についてぴんと来てなかったような安子だが、このシュッと背の高い、清潔感に溢れた、礼儀正しい紳士的な口調の人物にやや心奪われはじめているような雰囲気が漂う。彼はここではまだ名前を明かしていない。代わりにというのもへんだが、安子は自分の名前をあんこにからめて説明する。
去っていく稔の後ろ姿を見送る安子。
これが安達もじりさんの専売特許というわけではけっしてない。昔は、短歌や俳句に代表されるように自然の移り変わりに心情を重ねて表現するものが多くあった。今はエアコンで温度は調節できるし温暖化で四季の変化も薄らいでいるため微妙な季節らしさを描く機会は失われつつある。昔を描いても現代調になってしまうドラマが増えきたからこそこういう描写があると嬉しくなる。
推測でしかないが、100年の歴史を描くドラマだからこそ、100年後の世界の相違を描く上では100年前の世界をしっかり描く必要があるのだと感じる。

落ち着いた知的な雰囲気を漂わせる松村北斗
橘家にラジオが2つになり、家でも職場でも甲子園の野球中継(1939年8月、全国中等学校優勝野球大会。決勝戦は8月20日)に夢中になっているある日、安子がおはぎを配達に行くと、出てきたのは稔だった。がさつな勇の兄とは信じられない落ち着きっぷりを見せる稔。英語もすらすらとしゃべれて、安子はびっくりする。稔にすすめられて朝の英語講座を聞き、流れるような英語の調べにうっとりなる。
恋と英語と、おそらく、雉真稔は安子の世界を広げる重要な役割を持っているだろう。松村はその重要な役割を真摯に演じていると感じる。ひたすら落ち着いた知的な雰囲気を漂わせる松村。「何食べ」のいかにも現代っ子美容師という感じの役とは別人のようだ。現代っ子役もいいけれど、稔の昭和男子のきちっと感が見事にハマっていて、ジャニーズアイドルとして演じるのではなく、役を演じる“俳優”として仕事に向き合っている姿に好感が持てる。
(木俣冬)
番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami