朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第7週「1948-1951」
第35回〈12月17日(金)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり、橋爪紳一朗〉

※本文にネタバレを含みます
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勇が進駐軍に勝つ
ロバート(村雨辰剛)の仕事を手伝うことになった安子(上白石萌音)。二人の仲が接近していることを、名前の呼び方の変化で表現する。ロバートは、ローズウッドさんではなくロバートと呼んでほしいと言い、安子のことを、Mrs.雉真ではなく、Yasukoと呼びはじめる。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜35回掲載中)
ロバートはおはぎの呪文「おいしゅうなれ、おいしゅうなれ……」を知って英訳する。第34回のレビューで英語と日本語の長さの違いについて書いたが、やっぱり日本語だと「おいしゅうなれ」と一言だが、英語だとめっちゃ長く、呪文感が増す。
るい(古川凛)は、安子とロバートとるいの絵を描く。以前、もっと幼い頃、勇(村上虹郎)が覗いた彼女の絵は拙(つたな)く、誰が誰だかわからなかったけれど、おそらく、稔(松村北斗)と安子とるいとおはぎの絵だった。それはロバートにすり替わっている。
安子とロバートが日米の文化の違いを認識し受け入れている頃、勇はアメリカに野球で勝つことばかり考えている。そして見事に勝つ。試合ではバットを思いきり振れた! これはこれで、戦争に負けた日本の必死さが感じられていいけれど、やっぱり勝ち負けにこだわっていると、けっきょく能力の強さで相手より優位に立つという考えから抜け出せないという反省点を勇が引き受けているように感じる。だが勇は勇んで、安子に――。
ここで来週に「TO BE CONTINUED」。文化交流のロバートか。
堀之内CPに聞いた、俳優たちの魅力
『カムカム〜』第7週は「第31回、32回が算太(濱田岳)と美都里(YOU)中心、第33回・34回・35回が安子、ロバート、勇、雪衣(岡田結実)、算太の五角の繊細な関係を紡ぎました」と制作統括の堀之内礼二郎CPは語った。その言葉どおり、安子、ロバート、勇、雪衣、算太の5人、そして美都里がそれぞれ素晴らしい演技を見せた第7週。安子の凄さはこれまでもたくさん語ってもらっているので、ロバート、勇、雪衣、算太、美都里を演じた俳優たちの魅力をCPに振り返ってもらった。
堀之内:ロバートは難しい役です。安子に接するとき、男の色気を感じさせてはいけない。つまり、彼女を口説いているように見えないことがとても重要だと思っていました。村雨さんは、安子とは男と女としてでなく、人と人としてのリスペクトと距離感を感じさせる見事な演技をしてくれました。

堀之内:最初は「あんこ」「あんこ」と安子をからかっていた勇が、戦争というどうにもならないことで甲子園への大きな夢を断たれ、彼女への想いを伝えることができないまま出征。帰ってくると稔を亡くした安子を支え続け、そしてついにプロポーズ……と十代の頃から大人に成長するまで、非常に緻密に演技に設計をしてくれました。
堀之内:美都里が算太を救い、彼女はるいに救われて天に召されていきました。最初は敵(かたき)役のようだった美都里が、最終的に愛情に溢れた女神のような存在に昇華したことは僕らも思いがけない奇跡の展開でした。

堀之内:勇への恋心のあまり、安子のみならず算太にまで失礼なことを言ってしまう雪衣は、ともすればいやなキャラになりそうなところですが、岡田さんが良いバランスで演じてくれたおかげで、結果的に応援できるキャラになったと思います。雪衣は、根は気の利く良い人なんですよ。
堀之内:人間として弱く、決して正しい行いばかりする男ではないけれど、だからこそ共感できる人物として算太を作り上げてくれました。第7週も第31回の「いっぺんに多すぎるじゃろ」とツッコんで笑わせるところにはじまって、チャップリンの形態模写の喜劇的なことも器用にやってのけ、美都里とのシーンでは、拗ねて偽悪的に振る舞っているが。本当は心に傷を負っていて、両親に会えなかった深い悲しみを晒す難しいシーンを鮮やかに演じてくれて、まさに“濱田岳劇場”を見せてもらいました。

雪衣に絡んでいくときもいやな感じになり過ぎない微妙なところを測っていたように感じる濱田岳さん。算太は“サンタ”に掛けた名前で、クリスマスに縁の深いキャラクターだそうで、今後もサンタ的な役割を果たしてくれそうと堀之内CP。安子編がクライマックスに向かっているが、算太はこれからも折につけ登場してくれるとしたら嬉しい。
また、勇、雪衣、ロバートが第8週ではそれぞれの役割をどう果たすのか。安子編のクライマックスをどんなふうに彩るのか。見逃せない。
第33〜35回演出担当・安達もじりさんに聞いた、稔の回想のこと
第33〜35回、勇は安子との再婚を千吉(段田安則)に勧められるも、兄・稔のことがあって思いきれない。生きていたときは勝つ気で挑んでいたが、けっきょく、安子と稔の中に割って入ることはできず諦めた勇。野球の試合で勝ったら安子に告白しようと考えるところは年をとっても変わらない。稔とキャッチボールしながら安子への思いを兄に告白したことを思い出すとき、稔の顔は出てこない。写真が出てくるからだろうと推測しつつ、気になったので演出した安達もじりさんに聞いてみた。

ふたりの人物の場面の場合、それぞれの顔のアップを交互につなげることで、ふたりの関係性が出るものだが、ここで稔と勇をカットバックしないことに意味がある。むしろうっすら稔の背中の影の気配だけあるほうが印象的に感じた。そういうことを当たり前にようにさらっとやっている安達もじりさん。すごい解釈や演技を当たり前にさらっとやる演出界の北島マヤみたいである。
(木俣冬)
【前回の朝ドラ】『おかえりモネ』の全レビューを見る
番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami