朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第11週「1962-1963」
第52回〈1月14日(金)放送 作:藤本有紀、演出:泉並敬眞〉

※本文にネタバレを含みます
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ジョーに返事ができないるい
悩んでいたジョー(オダギリジョー)だが、コンテストに参加することを決意、優勝したら東京に行く、一緒に来てほしいと、るい(深津絵里)に告白する。話が突然、急展開。安子編と比べてこれまでずいぶんとゆったりしていたのに、動き出したら止まらないという感じである。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜52回掲載中)
るいも同じくジョーが好きだけれど、彼女はそこまで加速できない。はあ……と頬に手を当て悩んでいる。東京に一緒に行くと返事ができないままコンテストが近づいてくる。
ジョーの衣裳を選んであげてと木暮(近藤芳正)が頼んでも、「わたしはそんなん」と逃げるように去っていくるい。
そんなるいとジョーを心配して、ベリー(市川実日子)がクリーニング店に尋ねて来る(トミーと言い、わざわざクリーニング店にやって来るマメさ)。学生ふうないでたちで、「単位をとって卒業しなくちゃ」と言うベリーに、道頓堀の青春編が終わっていくのを感じさせる。あの海のダブルデートは青春の思い出のラストページになったのではないだろうか。
「ジョーを諦めたん?」と文句を言うベリー。ジョーがるいにプロポーズしたことを本人から聞き出したらしい。この人達の関係、どんだけオープンなのか。清々しい。
その頃、竹村家の居間では、平助(村田雄浩)と和子(濱田マリ)が大阪から東京へ3時間で行ける夢の超特急のニュースをラジオで聞いている。
安子編ではラジオから戦争の情報が流れていた。ラジオから流れる情報が聞く人の気持ちを左右する。
「あんた、ジョーのこと好きなん?」「嫌いなん?」とべリ−に聞かれて額に手をやるるい。このときベリーはるいの額の傷を見てしまう。なんとも言いようのないベリーの表情。このとき、るいとベリーの背丈の差が際立って見える。るいはか細く小さく見え、ベリーは自信や包容力があるように見える。家庭環境的にもるいは恵まれていないが、ベリーはなんの問題もないのだろう。
「なんや、やっぱり好きなんやんか」とベリーはるいの気持ちを慮(おもんぱか)る。
「僕のシャツ洗ってほしい」
このままだとジョーはコンテストに出るのをやめてまうというベリーの言葉に悩んだ末、「るいは決めました、錠一郎のために何をすべきかを」(ナレーション:城田優)ということで、雨の日、洋服屋の前で真っ赤な傘を差し、ジョーが服を買いに来るのを待っている。店内には虹色の服が並んでいて、そこからるいは赤を選んだ。あの日のコンサートのように、るいのワンピースのピンクとジョーのジャケットのピンクが揃ったように。赤い傘と赤いジャケットが揃った。
でも「楽しかったです。大月さんと出会って、ジャズに出会って」とお別れムードのるい。彼女の悪い癖で、いつも自ら早々と結論――それも悪いほうを選ぼうとする。安子(上白石萌音)に対しても片桐もそうだった。
が、しかし、ジョーは粘る。「僕とは離れてもええの?」「僕のシャツ洗ってほしい」と口調はソフトながら、内容は強度がある。
面白いところは、ふたりは似ている。どちらも親の愛に飢えているのだ。一緒にいたい、面倒を見てほしいという思いがジョーにはあって、るいも母に対してそう思っていて。彼女の場合は自分が世話を焼くことでその欲求を満たしている。要するに、愛情を強烈に求める同士で、押すにしても引くにしても激しくいくのが重要なのだ。淡い感情ではお互いの心は動かない。一見そうは見えないが、激しい熱情がふたりを共鳴させている。
「嘘ばっかりはサッチモちゃんや」と責められて、るいは更衣室に入ってカーテンを閉める。そこに映った自分を見つめる。そこにベリーに言われた「あんた、ジョーのこと好きなん? 嫌いなん?」という言葉がかぶる。

鏡に映った自分と対話するるい(鏡演出、岡山編から続いている)。そこへジョーが入ってくる。るいが額をあげて傷を見せるが、ジョーは表情を変えず、むしろ包み込むように微笑むと、やさしく前髪をおろして抱きしめる。ジョーは甘えたいキャラなのだが、こういうときは抜群の包容力を見せる。片桐にはできなかったことだ(でも片桐も悪い人ではなくてちょっと気がきかないだけだろう)。
とはいえ、これだけだと普通のラブストーリーだが、鏡に店員が覗いている姿が映り、ふたりはそっとカーテンを閉める。その先を見せないというところが洒落ている。
第52回の演出を担当した泉並敬眞さんによると、第52回の終わりは、ジョーがるいの傷と彼女の過去をどう受け入れるか、俳優部と共にいろいろ考えたうえでやったそうだ。
雨は、台本上は雨指定ではなかったのですが、たまたま直前まで雨が降っていたんです。そこで、るいにとっていやな思い出を変換していくにあたり、当時と同じような状況(雨)に置いてみたらどういうふうになるのかなと思って雨にしました。
――ヤフーニュース個人「るいとジョーの恋が止まらない〈カムカムエヴリバディ〉を深堀りする」より)
るいが長いこと抱えてきた哀しみがジョーの胸のなかで溶けたような、あたたかくて素敵な回だった。
(木俣冬)
【前回の朝ドラ】『おかえりモネ』の全レビューを見る
番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami