今年テレビ東京を退社しフリーランスとなったテレビプロデューサー、佐久間宣行。『ゴッドタン』や『あちこちオードリー~春日の店あいてますよ?~』(テレビ東京)など人気番組を手掛け、2019年3月からはニッポン放送でラジオ番組『オールナイトニッポン0(ZERO)』のパーソナリティとしても活躍している。
6月30日には、自身のラジオ番組が『普通のサラリーマン、ラジオパーソナリティになる~佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)2019-2021~』(扶桑社)というタイトルで初の書籍化。脱サラ後、ますます勢いに乗る佐久間氏に、会社員時代に培った、社会を生き抜く処世術について話を聞いた。(前後編の前編)

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――テレビ東京の社員からフリーランスになられましたが、会社員時代に培われた佐久間さんならではのサラリーマン処世術を学びたいのですが…。

佐久間 ははは。処世術のタイプかどうかわからないですけど(笑)。

――会社員時代はいろんなタイプの上司がいらっしゃったと思います。

佐久間 他の職種の方とは違うのかもしれませんが、僕が入社した頃のテレビ界って、マジでフツーに酷かったです(笑)。パワハラとかセクハラとか横行していた世界で。こんなに酷いんだ?ってADの頃は思っていましたね。もちろん熱意があって、すごく頑張ってくれる尊敬できる上司もいましたけど、その尊敬できる人も「俺がこんなに働いてるんだから、お前らも働けよ!」という、周囲を軽い鬱に追い込むようなタイプでした……(苦笑)。ほとんどの人がパワハラって言えば、パワハラな世界。でも、それを良しとしていた時代なんですよねぇ。


――今思い出してみると、嫌なことって…。

佐久間 死ぬほどありましたよ! マジで訳わかんないなと思ったのが、上司の婚式の準備をなんでADがやんなきゃ……。

――え! 部下がやるんですか?

佐久間 そうそう(笑)。二次会まで仕切らされて! 余興の芸人たちを集めて、上司のやってるバンドのためにバンドのローディーみたいな真似までやらされていました。バンドのためのリハーサル室を押さえたりとか(笑)。「これ、全部業務なのかな?」と疑問でしたが、まあその上司はとびきり酷い人ですけど(笑)。

――サラリーマン時代、そういった面倒事からどうやって逃げてきたんですか?

佐久間 まず如実に飲みに行かないというのを徹底していました。本当は、めちゃくちゃ酒強いんですけど、下戸だって言い張ったり、「体調悪いんで」と嘘ついたり。でも、あからさまに嘘だって分かる感じに言ってました(笑)! 別に嘘だってバレてもよかったんです。

――効果ありました?

佐久間 嫌われますね~(苦笑)。でも、嫌われてもいいと思っていたんですよ。自分が尊敬できないと思う人には嫌われてもいい!と20代の頃に思ってからは、苦手な人とは付き合わないように決めたんです。


――無駄な対人関係でストレスをためても仕方がないですよね。

佐久間 あと、飲まされて、潰されて、翌日、遅刻している先輩とかを見て「意味わかんねーな」と思っていたので(笑)。その先輩に「お前らの分、俺が付き合ってやったんだよ」とか言われるんですけど、「そりゃ、お前だって付き合わなきゃいいだろ(笑)」と不毛だなと思っていました。だから後輩には、楽しい飲み会じゃない場合は、「行かなくていいよ、そんなもん」って言ってましたね。

あと後輩には、会社以外の友だちをちゃんと大事にして、関係がなくならないように付き合いを続けていないと、逃げ場がなくなるとアドバイスしていました。僕がそうなんですが、業界内の友だちはいますけど、それより大学時代の友だちとの付き合いを大事にしてきたのは本当によかったと思っています。他の仕事の人にも言えますが、働いている場所でしか人間関係がないと、働く場所で息詰まってしまうと逃げ場がなくなるんですよ。

――人間関係が家庭しかない人もそうですよね。また、会社や組織の中で立ち位置を作るのは大事ですか?

佐久間 働く上では、キャラ立ちって結構大事だと思っています。20代の頃に、通らないお笑いの企画を毎回出していたんです。「何のために企画出しているんだろう?」と思っていたのですが、企画書って、「あいつは、これがやりたいんだな」って会社の中での名刺代わりになるところがある。例えば企画書じゃなくても、普段からYouTubeを1人でやってるとかでもよいので、何かを発信して、「あいつ、これがやりたくて、これはやらないんだな」とキャラを分かってもらわないと、空いてる部署に回されて人員整理の材料にされるんです。


――佐久間さんにもそんな経験が?

佐久間 自分にも、仕事をまったく断らない時期っていうのがありまして。それは「ある程度仕事ができると認められないと、好きなことできねえな」と思ったからなんです。やりたいことだけやってもダメだなと思って、一度だけ、「何でもやります!」という時期を2年間ぐらい作ったんですよ。そしたら、社内のいろんな人に覚えてもらえて、仕事が舞い込んでくるようになりました。

――一見順調そうですが…。

佐久間 それが、30歳前後に1回、事件がありまして……。よかれと思ってなんですけど、会社の超偉い人が、僕を系列の制作会社に異動させ、ゴールデンの旅番組の演出をやらせようと。キャリアだけで言えば大抜擢。偉い上司は、心底僕のためを思って、「優秀だから、ゴールデンの旅番組をやって、テレビ東京の王道と深夜とで両方をやれた方がよくないか?」と言ってくれていたんです。本当に正しい意見でありがたいことですし、めちゃくちゃ評価してくれていたんですよ。

ただ、その時に「まずいな」と(苦笑)。‟やりたくないことはやらないキャラ“とか、‟お笑いしかできないバカ”って思われないと、自分が本当にやりたいことをこの先、2~3年はできなくなっちゃうかもしれないから。
これは嫌われてもいいから、「面倒くさいヤツだな~」と思われた方がいいという風に思いました。やりたくないことをやらせられるなら、面倒くさいヤツでいるということだけは意識しましたね。

――面倒くさいキャラを通す(笑)。

佐久間 「あいつは放っておこう」と思われることですね。結果を出してなければ叩かれますが「それなりに結果出してるなら、あいつは放っておこう」と思われるのがいちばんいいです。

――旅番組のオファーは、どうやって上司に断りました?

佐久間 僕は基本、失礼なことはしたことはないんですが……。その旅番組に関しては、心底考えました。そして、いちばん近しくて力を持っている別の上司にお願いし、「あいつは地方が苦手で、地方アレルギーで……」「旅行にも行けないし……」とか、その都度言ってもらってました、嘘なんですけど(笑)。すると「それなら仕方ないな」と旅番組への異動はなくなりましたね(笑)。

――それは、誰も傷つけない嘘ですね。

佐久間 ひどい嘘もついたことありますよ。家庭が絶望的に揉めていて、出張があるような仕事はできない、家で子育てしないと家庭が崩壊するぐらい夫婦仲が悪いとか(笑)。


――切り札的な嘘ですね。

佐久間 奥さんも社内にいるので、真相に誰も踏み込めない(笑)。裏が取れない嘘をついた方がよいんですよね。その代わり、ニコニコ仕事しているように見えて、あいつ家庭崩壊してるんだ、って社内で思われてたみたいですけど(笑)。

(後編へ続く)

【後編はこちら】元テレ東・佐久間宣行がフリーランスの利点を語る「テレビに合わない企画をやっと放流できる」

▽『普通のサラリーマン、ラジオパーソナリティになる ~佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)2019-2021~』(扶桑社)
6月30日発売
定価:1650円
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