作家・柚月裕子の同名ベストセラー小説を、かの『仁義なき戦い』に匹敵する熱量で実写化した大ヒット作の続編『孤狼の血 LEVEL2』が絶賛公開中だ。“古きよき東映らしさ”をあえて全面に押しだした当作は映画ファンから絶賛の嵐。
コンプライアンスが叫ばれる昨今、さらにコロナ禍の渦中で、暴力と狂気渦巻く衝撃作が誕生した。常に攻め続ける鬼才監督・白石和彌が語る、作品に込めた想いとは――!?(前後編の前編)

【写真】画面から立ち昇ってくる凄まじさ…松坂桃李、鈴木亮平、西野七瀬ら『孤狼の血 LEVEL2』場面カット【8点】

──前作にも増して怒声と銃声が飛び交う“孤狼ワールド”が堪能できる本作ですが、コロナ禍の撮影となると、やはり多くの制約も?

白石 撮影したのは去年の秋口だったんですけど、単純に「撮れないかもな」っていうのはありましたね。去年のGW明けに予定していた別の作品は撮影自体が延期になってましたし、このぶんだとこっちも厳しいかなって。

主演の松坂桃李くんも忙しい人だから、スケジュール的にも「この時期で」っていうのは1年半ぐらい前からある程度決まっていて。なので、俳優部にも「無理じゃないか」っていう雰囲気はずっとあったと思います。

──いざ「やる」と決まってからは?

白石 当然、僕らにとっても初めての経験ではあったので、手探り状態だった部分はある。でもまぁ、PCR検査は事前にキャスト・スタッフ全員が受けていましたし、この空間にいる人は陰性だってのもわかってはいたので、とにかくやるべきことをやるしかないかな、と。

ゴリゴリのヤクザ映画を撮ろうとしているのに、ヤクザ同士が怒鳴り合うシーンは止めましょうとか、アクションは減らしましょう、みたいなことになったら、それこそ本末転倒じゃないですか(笑)。ラブシーンなんかも、無理に削ったりってことはなかったです。

──続編とは銘打ってはいますが、ストーリー自体はオリジナル。作り手としての自由度の高さは、そのまま重圧にもなりそうです。

白石 前作の時点で原作の結末をいろいろと変えてしまっていたこともあって、原作の第2作である『狂犬の眼』には、すんなりと入れないっていう事情が先にありまして……。


ただ、前作の公開直後から、東映サイドも「次を考えましょう」と言ってくれていましたし、当の柚月先生からも「観たいです」との言葉をいただいていたので、だとしたらそこは、新たな映画を作るぐらいの気持ちでもいいのかなって。そもそも、役所広司さんが扮した大上を筆頭に、主要キャラの多くは物語上でもすでに死んでしまっていましたしね(笑)。

──確かに。『孤狼~』とは何かと比較されることも多いかの名作『仁義なき戦い』も、続編の『広島死闘篇』は、同じ時間軸ではありながらも、まったくの別作品という趣きでした。

白石 手触りを変えるっていうか、違うジャンルの作品を撮る、ぐらいのつもりでやったほうが絶対に面白くなるんじゃないか、というのは狙いとしても当初からあったんです。

それこそ劇中では、ヤクザ事務所へのカチコミからカーチェイスへと展開させたりもしていますが、冷静に考えれば、殺しあいをするのに、わざわざ場所を変える必要はない。でもそのほうがなんか東映っぽいよね、と(笑)。もっとも、カースタント一つを取っても、『ワイルド・スピード』みたいにはいきませんけどね。

──とはいえ、劇中を彩る暴力描写には、『ワイルド・スピード』のような近年のハリウッド大作にはない、生々しい痛みがある。そうした思わず目を背けてしまうような痛さや人間の醜悪さを真っ正面から描くというのは、実は今、すごく重要なことのような気もします。

白石 そうですね。たとえば、物語の序盤に出てくる、鈴木亮平くん扮するヤクザ・上林が、女性の目をえぐるってシーンなんかだと、方法論としては直接見せないことも全然できる。
でも、上林のキャラクターを作っていくうえでは、そこでしっかり見せておいたほうが、映画としての強度も上がるんですよね。

そういうものを極力観たくないって人がいるのも重々承知はしているけど、でもだからこそ『孤狼の血』のような作品では、ちゃんと見せていく意味もある。「清廉潔白にヤクザ映画を作るって何?」とも思いますしね(笑)。

──監督ご自身のなかには、“ヤクザ”という題材のメディアでの扱われ方や、いわゆる“コンプラ”が声高に叫ばれる、ここ最近の風潮への反発心のようなものもどこかで?

白石 それは少なからずありますね。そもそも前作は、東映サイドから「韓国映画にも負けないむちゃくちゃな映画を作ってくれ」というオファーを受けて作った作品でもあったのに、結果的には、賞をいただいたりとか、いろんなところでなぜだか妙に褒められて。

そんな気がサラサラなかった僕としては、「あれ? これって褒められるために作った映画だったっけ?」と。だから、今回作るにあたっては脚本の池上(純哉)さんとも「今度こそ絶対褒められないようにしましょうよ」ってところを一つの出発点にしてたんです。

──観ているこちらとしては、描写こそ露悪的ではあるけれども、「ヤクザ=暴力団とは絶対悪である」という大前提をブレさせない。そんな意志の強さみたいなものも感じました。

白石 偶然だとは思いますが、今年は役所さん主演の『すばらしき世界』(西川美和監督)や、藤井道人監督の『ヤクザと家族 The Family』のような、どちらかと言うと、ヤクザを主題にしながらヒューマニズムに寄った作品が続けて公開されました。両作品ともとても素晴らしかったのですが、でもそうなるとあまのじゃくな僕としては「いやいや、ヤクザはクズですよ?」と言いたくなるわけです(笑)。

ヤクザって、時代は変わってもカタギを食い物にしているし、カタギの人間や企業だってそんなヤクザを都合よく使っている。
エンターテインメントにするっていうのはありますが、それでもそういう視点は忘れないようにしたいっていうのはありましたね。

――それこそが東映の“三角マーク”のもとでヤクザ映画を作る意味でもあると。

白石 消えゆくものに対して、ある種のロマンを感じるというのは僕にもわかるし、ヤクザも人間だってのも、それはその通りなんですけど、「でもそれって、東映がやるべき映画かな?」ってことなんですよね(笑)。

『孤狼~』を観た知人からは、「あんなヤクザいないよね」なんてことを言われたりすることもありますけど、そんなことは僕も分かって作っている。エンタテインメントである以上、それがリアルかどうかは重要じゃない。じゃあ、ありえない殺人鬼が出てくる『悪魔を見た』みたいな韓国映画が、映画としてダメなのかって言ったら、やっぱり違いますからね。

――作中を貫かれている監督・白石和彌の攻めの姿勢。そこに注目をして二度、三度と劇場に足を運ぶのも楽しいかもしれません。

白石 いまは映画の描き方も時代の要請とともに変わらざるを得ない。でも、その線上ギリギリを常に歩くっていうのは、刺激的で楽しい作業でもあるんですよね。

端から「そういうことは止めましょうね」ってことなら、さすがに僕もやらないですけど、オファーがある以上は、そういう“劇物”を少しでも入れながらやったほうが、作品も作りがいがあるし、面白くなる。そういうスタンスは、この先も変えるつもりはないですね。
(後編へつづく)

(取材・文/鈴木長月)

【後編はこちら】『孤狼の血』白石和彌監督が語る、役者・鈴木亮平&松坂桃李の凄まじさ「ヒドいやつだけど嘘はついてない」

▽白石和彌
1974年、北海道生まれ。専門学校を卒業後に上京し、故・若松孝二監督に師事。長編第2作となった13年の『凶悪』で若手実力派として一躍脚光を浴びる存在となる。『孤狼の血』はじめ話題作を相次いで発表した17年、18年にはブルーリボン監督賞を2年連続で受賞。最新作には、来年公開予定の『死刑にいたる病』など。『仮面ライダーBLACK』のリブート企画でもメガホンを執ることがすでに発表されている。
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