乃木坂46 北野日奈子の卒業コンサートが3月24日(木)に神奈川県「ぴあアリーナMM」で開催された。涙よりも笑顔が多かったコンサート。
結成当初より乃木坂46を取材するライターの犬飼華氏が、彼女のアイドル人生を振り返りながら、その笑顔の意味を考える。

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 卒業コンサートだというのに、北野日奈子は笑顔だった。曲中も、MCも、本来なら泣いてしまうことも多いラストスピーチでも笑顔が多かった。それはどうしてなのか? その理由を考えながら最後の晴れ姿を私はじっと観ていた。

 乃木坂46の2期生として加入してきた北野日奈子を初めて取材したのは、加入した2013年の10月。まだ17歳だった。約2か月前に初パフォーマンスを披露したばかりだった。

 話を聞いてみると、アイドルに憧れていたという。AKB48前田敦子のファンだった。だが、積極的にアイドルになりたいと思ったわけではない。白石麻衣のファンだった友人が北野に乃木坂46のオーディションを勧めてきたが、北野は一度断った。しかし、友人はめげることなく北野に内緒で書類を送った。
これがすべての始まりだった。しばらくすると、一次審査合格の通知が北野宅に郵送されてきた。そこで初めて自分がオーディションを受けていることを知った。母からは怒られたが、父は「すごいじゃないか。なんでもやってみることが大事なんだ」と賛成してくれた。

 レッスンでは同期から後れを取った。ダンスは苦手だった。同期のあいだでは最下位争いを演じていた。元バスケ部。筋肉質でもある。運動神経はいい。しかし、ダンスが体に浸透するまでに時間がかかるタイプだった。


 彼女の持ち味は笑顔。周囲を明るくさせる力があった。2期生のなかでは堀未央奈に続いて、選抜入りを果たした。

 初めての取材でも語っているが、彼女は「不器用」だった。いつも笑顔を浮かべているが、内心は常に不安と闘っていた。その不安は徐々に大きくなっていった。選抜とアンダーの行き来を繰り返すようになり、心なしか、取材中の笑顔も減っていった。

 2017年夏、北野は休業を選択した。

 翌年、北野は復帰した。その年の活動で特に印象に残っているのは、12月のアンダーライブだ。「乃木坂46に入ってからダンスが苦手でした」と思い出を語る映像が流れた後、センターステージに北野がたった一人で登場した。東京・武蔵の森スポーツプラザに集まった1万人の観衆は固唾をのんで見守った。
この日のハイライトだった。スモークが炊かれるなか、北野は時に強く、時にしなやかに踊った。

 ここまで踊れるようになりました。その姿を見届けてください。ご心配をおかけしたけど、待っていてくださって感謝します。感情があふれた、北野らしいダンスだった。観客は踊る彼女から本心を透けて見えた。北野はアンダーライブの座長としての役割をこなし、前年の休養からの完全復活を印象づけた。

 この年、北野は『日常』というセンター曲をもらった。これが彼女の代表曲である。大きなライブの定番曲となった。東京ドーム公演でも歌った。
復帰後の活動は順調だった。

 一方で、同期は次々と卒業していった。北野の2期生愛はとてつもなく深かった。だが、形あるものはその姿を変えていくのが世の常だ。北野は自分が同期で最後まで残るだろうと考えていた。大好きな同期を見届けたかったからだ。

 しかし、現実はそうならなかった。鈴木絢音と山崎怜奈を残して、卒業することを決めた。

 それはなぜなのか? 答えは卒業コンサートにあった。本編ラストで『日常』が歌われた。この曲は、ありふれた日常から抜け出してみれば、違う景色が見えてくるということが書かれている。

 北野は卒業を考えた大きなきっかけとして、2nd写真集のインタビューで「2020年の2期生ライブ」と答えている。
それは北野の念願だった。それ以前からどんなライブにしたいか、目を輝かせながら構想を話してくれたこともあった。

 ありふれた日常から抜け出して、違う景色を見てみよう。大好きな同期とライブをするという目的を達成した彼女がそう考えても不思議はない。やりきったと思えたのだ。歌詞の主人公は北野自身だ。だとしたら、日常という電車を降りた彼女はどこへ向かうのか……。

 写真集のインタビューでは、こうも答えている。

「自分がこの世に生まれてきた意味を考えた時、まだひとつも成し遂げられていないと思うんです。(中略)今いる夢のような世界からいったん降りて、やるべきことに向き合わないといけないなって」

 北野は行き先を告げぬままステージから消えた。最後の瞬間も笑っていた。近い将来、その行き先が本人の口から具体的に語られることがあるかもしれない。
僕たちはそんな日をただただ待つしかない。何かを成し遂げるためにこれからの人生を歩いていくのを決めた人がいるのならば、その人の背中をそっと見つめることが、僕たちが唯一できることだからだ。

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