フリーランスの番組プロデューサーとして、『ゴッドタン』(テレビ東京)や『トークサバイバー!~トークが面白いと生き残れるドラマ~』(Netflix)など、数々の番組を手掛け幅広く活躍している佐久間宣行。フリーになる前は、テレビ東京の社員で22年間サラリーマンとして奮闘してきた。
そんな会社員人生の経験をたっぷり詰め込んだ本気のビジネス書、『佐久間宣行のずるい仕事術』(ダイヤモンド社)が、4月6日に発売する。視聴率や社内政治などにとらわれず、自身が面白いと思うコンテンツばかりを世に送り出してきた“佐久間流”の仕事術とは?(前後編の前編)

【写真】数々の人気番組を手掛ける佐久間宣行プロデューサー

【前編はこちら】『ゴッドタン』佐久間宣行・唯一無二の番組制作「誰よりも“データじゃない視聴率”を考えてきた」

──『佐久間宣行のずるい仕事術』では「ゴールデン帯の番組をやらない」ために社内でコミュニケーションをとっていたことも書かれています。個人的には、ゴールデン帯でも佐久間さんの番組を観てみたい気持ちはありました。

佐久間 他局のゴールデン帯とテレビ東京のゴールデン帯は長らく視聴者層が違ったんです。テレビ東京の視聴者層は圧倒的に60代と70代が多くて、そのベースを外すことなく面白いことをしなきゃいけなかった。僕は向いてないと思っていたので、会社にはそのことを正直に伝えつつ、「別のところで寄与できますよ」と話したんです。

──コミュニケーションのコツとして「メンツの地雷を踏まないこと」を挙げています。

佐久間 異常にプライドが高い人や嫉妬に狂ってる人とも仕事をしなきゃいけない。そんな時は「ここを立てているから怒れないですよね」と動けないようすれば、好きなことができるんです。嫌な人と仲良くなる必要もないし、頭を下げる必要もない。嫌な人が調子に乗らないように杭を打って、そのうえで仕事をすればいいんです。自分だけの問題じゃなく、まわりの人たちがメンタルを病むこともなくなりますから。


──佐久間さんが「俺、ナメられてるな」と思うことはないんですか?

佐久間 たくさんありますよ。むしろ、ナメられてきた歴史です。20代から30代なんて、「あいつはゴールデンの番組をやらないで深夜番組ばっかりやってる」と陰口を叩かれてました。

──佐久間さんはキレることがないそうですが、ナメられた時も……。

佐久間 キレないですね。心の中で「お前らの何倍も楽しい仕事をして、何倍も楽しい人生を送ってやるけどな」と思ってました(笑)。本当にそれだけ。僕はメンツとプライドがめちゃくちゃ低くて、自分のことを悪く言われてもなんとも思わない。メンツを第一にしている人って可哀想に見えるんです。自分で自分に呪いをかけて、動きづらくしているじゃないですか。

──なるほど。ただ、僕なんか「下請け」だから、「いやいや、ここは対等でいましょうよ」と心がザラつく場面もあって。


佐久間 それもわかります。テレビ東京はプロダクションにナメられている時期が長くあって。「こんな態度をされるんだ」とか「こちら側のミスにされるんだ」ということはたくさんありました。そんな時は「この体験をめちゃくちゃ面白いトークにしよう」と考え方を変えていたんです。

──『ずるい仕事術』にはチームの話もでてきますが、佐久間さんのチームは制作会社が中心ですよね。

佐久間 基本的にはそうです。局員を預かっていたこともあるけど、最近は「働き方改革」によって局員に制限ができて、手を挙げてくれてもチームに入れない状況があるので。結果、シオプロ(制作会社)の若手をめちゃくちゃ育ててしまいました(笑)。

──それこそ制作会社の社員なんて、本来は局員への不満がたまりやすいと思うんです。

佐久間 僕が制作会社に強い態度で接したことはないはず。ただ、勘違いするテレビ局員がいるのも確かで。そんな勘違いはダサいから「絶対そうならないようにしよう」と思ってました。


──『ずるい仕事術』を読んで、「佐久間さんは管理職でもやっていけそう」と思いました。

佐久間 もうおじさんだし、できないことはないと思うけど、その時間とトレードオフして作りたいものがあったというだけです。管理職になってから放棄するといろんな人に迷惑をかけるから、管理職になる前に話し合って会社を辞めたんです。現場に未練を残したまま管理職になるって最悪じゃないですか。「この人、自分で自分の企画を通してるよ」と部下に言われているところが想像できるから辞めました(笑)。

──45歳を過ぎると頭が固くなって新しいカルチャーを取り入れることが難しくなりそうですが、佐久間さんはどうですか?

佐久間 今のところないですね。20代、30代の時、どんなに忙しくても自分の体を全部会社に渡すことなく、好きな映画や舞台を観続けてきたことが大きいと思います。だから、40歳をすぎても時間が空いたら「映画に行こう」となる。僕にとって映画や舞台はご飯みたいなもので、「食べなきゃ死んじゃう」くらい不可欠なものなんです。

──これからも佐久間さんが好きな属性をベースに作品を作っていくのでしょうか。

佐久間 最終的には自分が面白いかどうかを基準に作ると思います。「もっとわかりやすくしよう」とアレンジすることはあっても、「これがウケてるから」で作ることはできないんです。
そのためには新しいものに触れて、「受け手としての自分」を磨かなきゃいけない。そうじゃないと「作り手としての自分」は同じようなものを再生産するだけになってしまう。「作り手としての自分」ファーストじゃなく「受け手としての自分」も大切にしたいんです。

──最後に、本の中で紹介されていた焼肉屋の鶯谷園は僕も何度か行きました。いい店ですよね。

佐久間 何も考えたくない時、萩の湯から鶯谷園のコースを選ぶことがあります。鶯谷園は美味しい割に安くて、予約が取りやすいのがいいですよね。
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