YouTubeでドラマや映画を考察、解説し話題を呼んでいる大島育宙。ドラマ『あなたの番です』や『真犯人フラグ』の考察動画は毎回大きな注目を集め、たびたび急上昇ランキング入り。
映画『パラサイト 半地下の家族』の考察動画は累計100万再生を突破した。今年春からは、文化放送の新ワイド番組『西川あやの おいでよ!クリエイティ部』の水曜コメンテーターに抜擢され、ラジオパーソナリティとしても存在感を発揮している。一方、平日は広告プランナーとして会社勤めをし、構成作家の顔も持つ。なにより、爆笑問題率いる事務所タイタン所属、XXCLUBのボケ担当だ。多くの肩書を持つ、大島育宙とは一体何者なのか!? お笑い芸人になるために東大生になったという特異な人生について話を聞いた(前中後編の中編)。

【前編はこちら】芸人になるため東大法学部へ、大島育宙「就職は得策じゃない、芸人という“ハブ”があれば何でもできる」

【写真】芸人、ドラマ&映画考察、ラジオパーソナリティ、など幅広く活躍中の大島育宙

──所属事務所タイタンの大先輩、爆笑問題への憧れはあったんですか?

大島 もちろんありました。所属した直後から爆笑さんとお仕事をさせていただいたんですけど、うれしい誤算というか、1年目は気持ちがついていかなかったですね。後輩のことをすぐに覚えてくれる爆笑さんには、急に距離を詰めてくる親戚のおじさんみたいな感覚がありました。

──大島さんは太田さんの思考をどう捉えていますか?

大島 太田さんは自分が「大切にしたいこと」のために表現やロジックをつけている方に見えます。ここは攻撃して、ここは自分を下げるという、太田さんの中でプライオリティがあって、時代には迎合しないと決めている。僕は時代に流されるタイプなのでその点は羨ましいです。

太田さんは、大きな事件があった後にラジオや『サンデージャポン』(TBS系)で時間を気にせずしゃべる。
テレビでもSNSでも「こういうふうに書けばよく見られるはず」と考えている人ばかりの中で、太田さんはバカにされても曲解されてもいいから、自分が納得いくまでしゃべるところが凄いですよね。

──太田さんは教養があることが信用できる点でもあります。

大島 「勉強してないヤツはダメだ」という考え方がベースにあるので、太田さんに「東大なのにそんなことも知らないのか」と言われないように、そこだけはいつも気をつけてます。

──学生から芸人になって、プロとして活動するにあたって不安もあったと思います。

大島 世間的には「芸人=不安定な仕事」という前提があるかもしれませんが、僕は「自分のできることが具体的にわかって、好きなものがある」人にとってはむしろ安定の職業だと思います。自分の得意な能力をSNSで活かせば安定した収入を得ることができる時代に、芸人としてのごく基礎的な明るさや話芸、器用さが乗っかれば大体どんなジャンルでも勝てます(笑)。

大学時代、広告業界に興味があったけど、僕にとっては企業に勤めるほうが不安でした。心が病んで1年くらいでやめると予測できました。だけど僕は芸人になって安定した収入の基盤を作ったことで、現在、広告や映像を作る会社に入ることができた経緯があります。知り合いの広告関係の人に「組織でモノを作ることを勉強したいし、自分の能力を組織に還元したい」けど、「スーツを着たくない」「朝起きれない」「同じ場所に毎日行きたくない」「謎のコピーをとるような作業は1枚でも苦しくなる」「大きい声を出す人は無理」などの条件を話したら、ある会社を紹介してくれて。その会社で平日はプランナーとして働いています。 よく聞かれるのですが、バイトのような形態ではなく、固定給です(笑)。


──最初の頃はコンビ・XXCLUBとしてライブにガンガン出ていたんですよね。

大島 めちゃくちゃ出てました。月に30本くらい。

──それが不毛だと思うようになったんですか?

大島 いや、不毛というわけではなくて、みんなほどライブに出ることが中毒的に好きなわけじゃないし、得意でもなくて、「学生お笑いの大会では優勝できたけど、ネタで一生食べていこうとしている人と競ってもリターンが少ないだろうな」という気持ちが大きくなり。それに、僕は精神力も弱いし、体力もなくて、2年目には膵臓を悪くしてしまった。1日の中で元気な時間に収録すれば“仕事していることになる”YouTube配信に力を入れて、ライブを減らしはじめました。デジタルトランスフォーメーションです(笑)。スマホやYouTubeがなかったら、いまでも舞台に月何本も出ていたかもしれません。意図的にやめたというより、いまやるべきことを優先していった時にネタの順番が後ろになった、というだけます。

──ここ何年かはネタ至上主義というか、まずネタで評価されてからバラエティ番組の椅子がもらえる傾向にあると思います。

大島 ネタを頑張ってテレビに出たい人は、ネタしかやりたくないからネタをやっているわけで、他に特技がある人はそれを活かせばいいと思います。いまも「この人、どんなネタをやっていたっけ?」という人も「お笑いタレント」としてたくさんテレビに出ているので。
ネタ至上主義と仕事の本質は必ずしもイコールで繋がらないと思ってます。自分の場合はネタ以外の技能が先にお仕事として成立してしまったので、ネタに回す時間と気力がなくなっただけです。あと、芸人は年収200万以下か1000万以上、みたいな二極構造を当たり前に受け入れずぎで、「爆売れはしてないけど不自由なく食えてる」人がもっと増えるべきだと思います。

──大島さんは怪談の世界や放送作家の世界にも一度は足を踏み入れましたが、「ここも違うな」と思ったんでしょうか。

大島 怪談は新ネタを求められることが多くて、取材をする時間がないからお休み中です。ただ、ずっと大好きなジャンルなのでまた機を見て頑張りたいです。放送作家業の時は、陰で演者にリスペクトのないスタッフさんを見かけてショックを受けてしまい「ここじゃないな」と思って。もっと風通しのよくできる場所で頑張りたいと思いました。

──「誰かと競うことをやめる」というのもあったんですよね。

大島 芸人をはじめて3年目に「競争には参加しない」と決めました。お客さんに届くかどうかに競争は関係ないと思って、できるだけ競争のない場所に行こうと。と言いつつ一番の理由は自分のメンタルを守るためですね。
スポーツをまともに観れないくらい競争が精神的に苦手なので(笑)。あとは「両論併記できる場所にしか行かない」「知らない人にジャッジされる場所に行かない」とも決めました。

「誰なんだ?」という審査員にオーディションされて不本意な結果になった時、誰のせいかわからなくて、自分を責めてしまうストレスも無駄。そんな時間があれば、本や漫画を読んだり、映画を観たり、音楽を聴いていたほうがいいので、僕には合わないですね。

「両論併記できる場所にしか行かない」というのは、長尺でしゃべることができるか、長文を書けないと、大げさな見出しだけが拡散されて、消費されてしまう。自分の価値観がわからなくなっていくような人にはなりたくない。「このままだと自分の心が壊れてしまう」という恐怖心から、この3つを決めました。それで、知り合いに勧められてYouTubeをやってみたら「無限にしゃべることができる!」と気づきました。オーディションに行かず、YouTubeに専念するようにしたらお仕事が増えたので、後輩芸人には「オーディションは行くな」と言ってます。「なんだコイツ?」と思われてるでしょうが(笑)。

──『M-1グランプリ』に参加しないと決めたことも、その3つが理由なんですか?

大島 『M-1』は競争で、1回戦を審査しているのは知らない方たちで、ネタの尺も短いので、自分で決めた「やらないこと」の条件全部に当てはまるんですよ(笑)。得意だと思えていたらチャレンジし続けたかもですが、アマチュア時代に3回戦に行けたのに、プロになったらそれ以上上に行けなかったので、辛くてすっぱり諦めました。


──『M-1』の尺や審査員に対して思うところがある芸人は確実にいて。でも、みなさんそのルールの中で戦うことを選んで参加していると思います。

大島 僕は他の芸人に比べて、ネタ以外のことをやってみて、その中に活路を見出すことができた。ネタ一本で勝負している芸人は「他のことをやるくらいなら1本ネタを書きたい」と思っているんだろうけど、僕はそれが怖くて仕方ないですね。いまネタを1本書いても10年後にまったく無駄になっている可能性が高くて、それに比べたら作家や怪談師を少しやった経験のほうが無駄にならないと思うタイプです。中学時代を振り返ってもそもそもネタをやりたくて選んだ道ではないですし。あと賞レースを否定するつもりはないけど、事務所は賞レースやオーディション至上主義を煽るだけじゃなくて、芸人がメンタルヘルスを壊さないように指導することも必要だと思います。

──アイドルのメンタルヘルスはたびたび問題になりますけど、芸人のメンタルヘルスはそこまで話題になっていない印象があります。

大島 芸人をやめる場合「結婚や出産で守るものができたから」という理由が多いけど、精神を壊してしまったケースも数え切れないほど見てきました。公に発表しないからファンには「やる気がなくなってしまったのかな」とだけ伝わってしまう。賞レースに出ている間はアドレナリンが出て頑張れると思うんですけど、その後は大丈夫なのかなという心配はあります。(後編へ続く)

【後編はこちら】『あな番』考察で大ヒット、コンテンツ全部見東大生 大島育宙「酷評のための酷評はしない、それが仕事」
編集部おすすめ