──今回は「ハロプロっぽさとは何か?」というテーマについて、音楽面からたっぷり語っていただこうかと考えています。
中島 ハロプロっぽさか……。それ、意外に難しいテーマかもしれないですよ。
──そういえば以前、卓偉さんは別のインタビューで「そもそもアイドル用の楽曲を書こうとはしていない」と話していました。
中島 あぁ、たしかにそう言いましたね。実際、アイドルに寄せて書いているつもりはないですから。曲を書く段階で大事なのは「いいメロディ」「いい譜割り」「楽曲のポピュラリティ」であって。「〇〇が歌うから、こうしよう」とかいう発想じゃなく、誰が歌っても純粋にいい曲を作るというのが優先順位として一番上。これが基本原則になります。とはいえ、実際の制作過程はケース・バイ・ケースですけども。
──書いた曲が、予想もしない使われ方をしたりもする?
中島 そういうこともあります。たとえばだけど、僕が闇雲に書いて提出した曲に対して「これはJuice=Juiceに使いたいから、もうちょっと譜割りを増やしてテンポもJuice寄りに変えてくれ」って言われたりとかもするし。あるいはあらかじめディレクター陣に渡している曲があり、そこからハマりそうなときに使ってもらうこともあるし。たとえば、ここにあるアイドルグループがいるとします。彼女たちはグループのイメージカラーというものを持っています。そして、そのカラーを支持しているファンもいます。果たして僕が書く曲が、そこから逸脱していいものなのか? あるいは逆にそのグループカラーを壊したいからこそ、あえてスタッフは僕に依頼したのかもしれない。……というように本当にいろんなパターンがあるわけですよ。
──そういうものなんですね。
中島 だから最終的にはスタッフサイドが何を求めているのかっていう話になるんだけど、僕自身が一番やりやすいのは、事前にがっつり打ち合わせをする方法。それもメールとか指示書じゃなくて、対面での打ち合わせがいいですね。
──では、要望に沿って相当細かく作り込んで提出するわけですか?
中島 そこはわりと微妙なところで、あえてシンプルな状態で出すように言われることも多いかな。ファンの方はご存知のように、ハロプロには優れたアレンジャーの方が何人もいますよね。それぞれに持ち味があるから、ディレクターはおそらく曲の傾向に合わせて振り分けているんだと思います。そこで僕が細かいリズムアレンジまで綿密に作り上げてしまったら、アレンジする側は作曲者のイメージに引きずられちゃうんですよ。なのでデモの段階では、あえて余白を残したほうがいいらしいんです。プレーンな状態で渡さないと、アレンジャーの色が出せなくなるというか。
──今はDTM全盛の時代だから、作曲者が細かいアレンジまで最初から固めることも多いですよね。そうじゃない部分に可能性を見出すということなんでしょうか。
中島 そういうことかもだけど……でも、これも結局はケース・バイ・ケースかもだな。簡単なコードとシンセのメロだけでOKが出ることもあれば、結構細かく作りこんでくれって言われることもありますし。たとえば℃-uteに書いた『次の角を曲がれ』は、上がったときに「こう来たか!」ってビックリしたんです。
──自分の曲想と違う仕上がりになったということですか。「俺の音に余計なものを加えやがって!」というイラ立ちはない?
中島 ないない(笑)。あるわけないですよ、そんなの! ハロプロなり今のアイドルの流れなりを僕以上に掴んでいるのが、ディレクター陣なわけですから。僕としては「どう調理していただいても結構です」というスタンス。「もちろん自分で歌うんだったら、こうするな」っていうイメージはありますよ。でも、それはセルフカバーで表現すればいいんであってね。だからセルフカバーするときは自分が歌いやすいように歌詞も変えるし、曲のキーとかコードも変えるし。
──えっ、コードまで変えちゃうんですか?
中島 もちろんですよ。というか、そもそも曲を提供した段階でコードを変えられることなんてしょっちゅうですから。曲のアレンジがどんどん変わっていく過程で、スタッフが「卓偉、悪いな。
──自分が書いた曲が、想像と違うかたちで仕上がる。ということは、そこにおいて加わった「自分の中にはなかったハロプロ的要素」に気づくことはないですか?
中島 それは結構あります。僕はシンガーだしステージに立つ人間じゃないですか。「自分だったら……」というイメージと違う要素が新鮮に映るんですよね。さっきの℃-uteとは逆に、こういうこともありました。つばきファクトリーの『今夜だけ浮かれたかった』は、すごくシンプルな状態で渡したんです。そして「これをもし自分で歌うとしたら……」と考えたとき、スカっぽいアレンジが頭に浮かんだんですよ。
──今のアイドル楽曲は、コンペで決まることが圧倒的に多いです。なので、制作者も事務所やグループの特徴に合わせて書くパターンが増えていますよね。パワーポイントで何十枚にも渡ってまとめられた企画書を事前に読み込み、それで書き始めるとか。
中島 もちろん僕もコンペに出すことはありますけどね。でも僕の場合、グループに寄せるということはあまりしないかもしれない。「こういう感じがハロプロっぽいかも」なんて考えもしないし。だから、やっぱり打ち合わせが重要になるんですよ。僕は他の事務所でアイドルの曲を書いたことがないので比較はできないけど、ハロプロの場合、最初の打ち合わせの段階でかなり細かい要望が出るんです。そこが僕としては、ものすごくありがたいんですけども。
──「細かい要望」とは、どのレベルでしょうか?
中島 たとえばJuice=Juice『愛・愛・傘』のときは、「スウェーデンポップみたいなテイストで」というお題が与えられたんです。
──スウェーデンポップ!? カーディガンズとかですか?
中島 そうそう、クランベリーズとかね。というのも、スタッフも僕がそのへんが好きなことを知っていたので。そこから「メジャー7thをふんだんに使ってくれ。かといって、バラードではないんだ。踊れる感じは残してほしい」とか「アコギのストロークが常に鳴っている感じ」とか「大きな譜割りにしてくれ。テンポは大体これくらい」とか、どんどんアイディアを出してくるんですよ。その指示が、ものすごく細かい。ハロプロで仕事をしていて、大雑把な指示が飛んだということは1回たりともないです。
──はぁ……そこまで言われるんですね。でも、そのやり方ってスタッフ側も相当マニアックな音楽知識がないと指示出しできないじゃないですか。
中島 その通りです。ハロプロのスタッフと僕は会えば音楽の話しかしないような間柄なので、そのあたりは完全にディレクター陣を信用していますけど。でも、それはアレンジャーに対しても同じかな。僕はすごく信用しているし、資料とする音源をお互いに聴き合ったりもしますしね。
──卓偉さんの話を伺っていると、いわゆる職業作家と呼ばれるような人たちとは発想法が違う気がするんですよ。
中島 もちろん職業作家の方たちはリスペクトしていますし、僕も1人の作家として見られたいという希望はありますよ。自分自身では曲を量産できるタイプだと思っていますし。でも、だからと言って「これはあの人の次のシングル用に取っておいて……」とか計算できるタイプでもなくて。打ち合わせが終わったら、その都度、目の前の曲に全力投球するだけなんです。僕にはそういうやり方しかできないので。
──でも、卓偉さんの書く曲は振り幅がすごいですよね。ハードなロックと甘酸っぱいポップスを同じ人が書いたというのが不思議で。ソロで活動での楽曲とアイドルに提供する場合でも、だいぶイメージが異なりますし。
中島 そう言っていただけると、書いているほうとしてはうれしいです。ハロプロのディレクター陣っていうのは、僕に対して「アイドルっぽくしてくれ」とか「ハロプロのイメージで」とか一切言わないんですよ。つまり彼らも僕に対してアイドルっぽい要素を求めていないんじゃないですかね。「卓偉に頼むんだったら、ハロプロの王道っぽい要素以外のところで」っていうイメージ。ファッションでいうところの差し色みたいなもので。全体の中のアクセントとして、僕の曲を使いたいのかもしれない。だからこそ「ハロプロっぽさって何?」って改めて聞かれると、僕は答えに詰まっちゃうんです。ポップでキャッチーな曲を書こうと意識はしているけど、それ以外は特にこだわりもないもんな。
──特にアイドルに寄せて書いていないのに、ちゃんと耳障りのいいアイドルポップスとして仕上がっている。それはそれで、すごいことじゃないですか。
中島 だから、そこはアレンジャーさんたちのセンスと、ディレクター陣の細かい注文。ここが肝だと思うんですよ。僕、彼らの仕事ぶりを本当に心から尊敬していますから。自分が書いた曲がアレンジされることに「そうじゃねぇだろ!」って思わないのは、彼らを尊敬する気持ちがあるからなんです。
──最近の卓偉さんは、作詞家・児玉雨子さんとタッグを組むことも多いですよね。他の作家とコライトすることで見えてくることもありますか?
中島 雨子ちゃんはアイドルとかハロプロが普通に好きだと思うんです。つんく♂さんの歌詞とかも含めて、かなり研究しているはずなんですね。なので、彼女の詩は今までのアイドルの文脈をしっかりと汲んでいる。それでいて、なおかつ新しいものをクリエイトしようとしている。そのバランスが絶妙なんです。僕らミュージシャンはマニアックな音楽論をついつい語りがちなんですけど、もっと一般の人にビビッドに届くのはやっぱり歌詞になるんですよね。
──つばきファクトリー『就活センセーション』で共作したダンス☆マンさんはいかがでした?
中島 ダンス☆マンさんは生粋のミュージシャン。生粋のベーシストだし、生粋のアレンジャー。一緒に作業していて非常に楽しかった。
──ミュージシャン同士、共通言語がある?
中島 少なくても僕とはそうですね。ご本人が言っていましたけど、ダンス☆マンさんってつんく♂さんに会う前は「世の中のミュージシャン全員、ベースでブン殴ってやろう」とか考えていたような方なんです。だって自分は本物のR&Bや本物のブラックミュージックをやっているという自負があるわけですから。言ってみれば、黒人になりたくてなりたくて仕方なかったような人生ですよ。それなのに少しかじったようなR&Bを見せられたら、そりゃ「なにを……!」って思うじゃないですか。僕も高円寺でパンクバンドをやっていたから、その気持ちは痛いほどわかりますって。そんなダンス☆マンさんが「一般に届けるということに関して、つんく♂さんと組ませてもらったことで僕はすごく勉強になったんだ」って神妙に語るわけです。「売れる」ということを経験しているからこそ、マニアックであってもマスターベーションにはしちゃいけないんだと理解しているわけですね。それと僕から見ると、ダンス☆マンさんも「ハロプロっぽくしよう」とは一切考えていない感じがしました。
──それは意外です。ダンス☆マンのサウンドこそが、全盛期ハロプロの象徴のように考えられていますから。
中島 う~ん、たしかに結果的にはそうなりましたけど、1999年に『LOVEマシーン』を出した時点でダンス☆マンさんが作った音は、既存のアイドルっぽくもなければハロプロっぽくもなかったじゃないですか。ああいうファンキーなサウンドがハロプロらしいって言われるようになったのは、ダンス☆マンさんが自分で流れを作ったあとの話ですから。そういう意味では、完全なるパイオニアですよ。あるいは、お茶の間に本物のブラックミュージックを届けた伝道師と言ってもいいかもしれない。
──ハロプロのファンって、他と比べてもディープに音楽面を追求するタイプが多いと思うんです。大衆音楽なのに、音楽マニアをニヤリとさせる要素が多いというか。
中島 やっぱり上辺だけそれっぽく取り繕ってもダメだと思うんですよね。ハロプロの歴史を考えると、「ディープなオケにポップな音」という妙を楽しんできた人たちがファンになっているわけですから。僕、『LOVEマシーン』を最初に聴いたとき、衝撃を受けたんですよ。正直言って自分はアイドルなんて興味もなかったけど、つんく♂さんとダンス☆マンさんの作るディープでブラックで、それでいてポップな世界観に完全にやられちゃって……。覚えていますもん。高円寺の沖縄料理屋でバンド仲間と話しましたから。「これ、本気だよな。こんなことをされたらヤバいわ。俺たち、もっと練習しないとマズいんじゃないか?」とかって(笑)。
──つんく♂さん自身も「アイドルファンは、こういう曲を作っておけば喜ぶんでしょ?」とボールを置きにいったり、あるいは「アイドルファンは、こんなマニアックなサウンドは理解できないでしょ?」と手加減していなかったと思うんですよね。
中島 絶対にそう! キックの音ひとつ取っても徹底的にこだわっていたはずです。だって、つんく♂さんがアイドルファンにだけ向けて作っていたら、当時の僕たちにそこまで刺さっていたわけがないから。
──音楽に対して妥協を許さない姿勢は、今もハロプロでは変わらない?
中島 その姿勢だけは微塵も変わりませんね。「こんなもんでいいだろう」とは1ミリも考えていない。一般の方からしたら違いがほとんどわからないような音の細部まで、アレンジ段階で何度も何度もやり直していますから。これはアレンジとか音楽に限らない話だと思うけど、「こんなもんでいいだろう」とか考えている人は本当の意味で新しい表現を作れないですよ。僕が尊敬している先輩ミュージシャンも全員こだわりが強いというか、やることが細かいですもん。それは「完璧主義」っていうこととも少し違うんです。自分の中のピントというか、ハマるポイントというものが絶対的に存在していて、その点に関しては妥協を一切許さないんですよね。
──お言葉ですけど、いくら現場でキックの音にこだわり抜いても、コンビニの有線で流れたら誰も気づかないと思うんです。もっと言ってしまえば、「じゃあ、そのこだわりがあって売れるの?」という話になるでしょうし。
中島 ……これはねぇ、もうどうしようもないことなんですけど、ミュージシャンという人種の「業」という話になってくるんですよ。我々音楽に携わる人間っていうのは、一般の方に聴こえない音が聴こえてくるものなんですね。なぜなら絶対的に耳がいいから。だからトラックダウンしてLRで音がアウトプットされる段階で、「音がマスキングされていては困る!」って強く感じてしまうものなんです。マスキングというのは2つ以上の楽器の音が干渉し合って、その帯域のダイナミズムが失われる状態のことなんですけど。だからキックの音にもこだわっちゃうし、ベースのバランスも気になっちゃうんですよ。マスキングは音がドラムとピアノの2つだけであっても、楽器が100個あっても起こることでね。音楽ってバランスがものすごく大事だから、この歌詞を活かすためには、このサウンドじゃなくちゃいけない、このキックじゃないといけない……って、そういう話にどうしてもなっちゃうんです。
──すごい話ですね。その異常ともいえる細部へのこだわりが、ハロプロ流っていうことなのかもしれない。
中島 ハロプロとかアイドルとかいう前に、音楽家として自然にそうなっていくものなんです。僕自身、少しでもいい曲を書こうと毎回躍起になっているし、その都度その都度、全部を出し切るつもりでやっていますし。そこで「歌うのはアイドルだから」とか考え始めると、軸がブレてきますしね。ただ、その一方でこういう問題も次の段階では出てくる。音楽的に尖がったトラックを作っていくと、今度はパフォーマーのスキルも要求されることになるんですね。
──あぁ、わかるかもしれない。いわゆる「曲に演者が追いついていない」状態ですね。「もっと上手く歌ってくれたら……」と歯痒かったりすることも正直あります?
中島 それはないかな。今はレコーディング技術が進化しているから、身も蓋もないことを言えばピッチやリズムはある程度修正できますしね。
──でも結局、ライブで地力がバレちゃうじゃないですか。
中島 そうなんです。だから先ほども話が出たつばきファクトリーの『就活センセーション』に関して言うと、あれって実はリズムや譜割りの関係で歌うのがすご~く大変な曲なんですね。曲を提出したとき、会社の人に「これ、大丈夫ですかね? 作った僕ですら歌うの難しいですよ」って伝えたくらいですから。「もっとテンポを落として歌詞も削らないと、音に乗ってロールしていかないですよ」って。
──たしかに難易度は高そうですよね。
中島 そうしたら会社の人が「いや、これでいい」って断言したんですね。「これはな、卓偉、難しい曲をなんとか頑張って彼女たちが歌おうとしていることに意味があるんだ」って、そういうわけです。「頑張っている感」を出すためには、歌いやすい曲ばかりやっていたらダメだっていうことですね。もうそこまで言われたら「わかりましたよ。じゃあ僕、黙っています」って話になるじゃないですか。それでダンス☆マンさんに曲を渡して戻ってきたら、またまたビックリさせられて……。だって、聴いたらテンポが前より速くなっているんだもん(笑)。
──さらに難易度が高くなっている(笑)。
中島 「おいおい、こっちはテンポを落としたほうがいいって言ったじゃん!」って(笑)。だけどそこはさすがにダンス☆マンさんで、テンポを上げつつもブレイクビーツして仕上げてきたんです。僕が最初に作った段階ではずっと16分で跳ねているような感じだったのが、むしろワンビートで進んでいくというか。ダンス☆マンさんといえばファンキーなサウンドだから、当然ゴリゴリ16分のファンクでくるかと思いきや、意外にもブレイクビーツ。でも、そのことで歌詞とビートが噛み合って歌いやすくなっているんです。
──まさにダンス☆マン・マジックですね。
中島 そう。さらに言うと、ダンス☆マンさんもすごいけど、つばきファクトリーのメンバーもすごかった。だって、この難しい曲を見事に自分の表現にしているわけですから。ちょうどシングルが出るくらいのタイミングだったかな。つばきのメンバーに挨拶したことがあったんですよ。「大変だったでしょ? 作った自分ですら歌うの大変なんだよ」って9人に話しかけてね。そうしたら、メンバーじゃなくて隣にいた担当マネージャーが「いや、大丈夫です」って言ったんです。「ライブで歌い込むことで自分たちのモノにしていく。それがハロプロの子たちですから」って平然とした様子で(笑)。
──なんたるプロフェッショナル集団!
中島 そして年末にテレビで日本レコード大賞を観たら、『就活センセーション』を完璧なリズムで歌っている9人がそこにはいた。本当に感動しましたよ、僕は!
──あの曲はマニアックという意味で、アイドルのシングル曲とは思えないところがありますよね。
中島 自分でもそう思います(笑)。実際、「アイドルっぽくないにもほどがあります」って会社の上層部に伝えましたし。「それでいいんだ」って言われましたけどね。それに、あの曲って歌詞も3~4回書き直したんですよ。あれ、最初は普通のラブソングだったんです。ところが、やり直しているうちに会社の人が言うわけですね。「卓偉、就活の歌にしてくれないか?」って。それで「俺、就活したことないッスよ」って伝えたら、「お前、バイトいろいろしていたらしいじゃん」って返されて(笑)。バイトと就活じゃ、だいぶ違うと思うんですけどね。
──ネットでも書かれていましたよ。「卓偉は就活なんてしたことないだろ」って(笑)。でもラブソングが就活応援歌に変わるとは、まさに上層部の神采配ですね。
中島 キラキラしたくてアイドルになった年頃の女の子が、まだセカンドシングルなのにいきなり地味なリクルートスーツを身につけさせられて……。正直、悪いことをしたなって僕も思いましたよ。だからこそ、レコード大賞で最優秀新人賞を獲って涙する彼女たちを観てホッとしたんです。「あぁ、これで報われたな」って。
──それこそケース・バイ・ケースかもしれませんが、卓偉さんの場合、スタッフとの打ち合わせが終わってから一気に曲を書きあげるという方法でやっているんですか?
中島 最近で言えば、新曲を書かなくちゃいけない締め切りがあって、それがちょうど自分のソロの東名阪ツアーと重なってしまったんです。しょうがないからホテルの部屋でギター片手に書くかと思ったんですけど、なんだかんだでドタバタしちゃって、結局はその時間も作れなかった。それでどうしたかと言うと、ライブが終わって東京に戻る機材車の中で書きましたよ。東名高速を走りつつ、静岡の工業地帯とかを眺めながら(笑)。
──ものすごい売れっ子作家じゃないですか!
中島 いやいや(笑)。でも僕、曲を書くときってテープに録らないんですよね。メモも書かない。全部、自分の頭の中で構成しちゃう。ずっと作業していて、夜中に寝て、朝10時とかに起きるじゃないですか。それで忘れちゃっているような曲は、しょせんその程度のものっていうのが僕の持論。自分が覚えていないくらいだから、他人が聴いても覚えてもらえないですよ。
──しかし、もったいない気もしますね。メモも一切取らないということは、世の中に出ずに眠っている「知られざる名曲」があるかもしれないじゃないですか。
中島 でも僕、頭の中で全部を構成しちゃうんですよね。だから、これだけは言わせてください! これだけ音楽の世界にコンピューターが入ってきている時代だけど、僕の頭よりも機能がいいProToolsは存在しないですから!
──最高! むちゃくちゃカッコいいです(笑)。
中島 でも、作曲者はみんなそうじゃないかな。頭の中で音をエディットしているんですよ。結局、アレンジャーの人も最初から最後までProToolsに入力しているだけじゃないと思うんです。まずは頭の中で音が鳴っている状態があるというか。
──さて、改めて中島さんから見たハロプロっぽさとは、どういうところにあると思います?
中島 う~ん、やっぱり難しいなぁ。もしハロプロっぽさというものが存在するとしたら、そのカギを握るのは少なくても作家陣ではないでしょうね。それどころか、アレンジャーですら「ハロプロっぽくしよう」とは考えていないかもしれない。となると、ディレクターをはじめとした制作スタッフがハロプロを作っていることになるのかな? ……いや、ひょっとしたら、その質問に対する答えは「そもそもハロプロっぽさなんて存在しない」という結論もありえると思うんです。だって『就活センセーション』のときなんて、会社の方が「アイドルっぽくなくてOK」と明確に断言していたわけですから。
──会社自体が既存のハロプロ観にこだわりを持っていない?
中島 でも、そういう発想をしないと新しい表現なんて作れないですよ。同じことをなぞってもしょうがないという考え方。本物のクリエーターは、既存のものをブチ壊そうという考えが根底に眠っているはずですから。でもライブで何度も何度も歌っているうちに、『就職センセーション』みたいなアイドルっぽくない曲ですら「ハロプロっぽい」「つばきっぽい」って言われる可能性があるわけじゃないですか。
──異質なアイドルソングの『LOVEマシーン』がスタンダードになったように。
中島 そういうことです。90年代からずっと、つんく♂さんはアイドルというフォーマットで時代を切り拓いてきたじゃないですか。僕はずっと一緒にいたわけじゃないですけど、つんく♂さんがやってきたことって要するにパンクだと思っているんです。つんく♂さんにはメシに連れていってもらったことも何度かありますけど、やっぱり話していても発想がパンクスだなって感じるんですよね。だから僕も「つんく♂さんってパンクですよね」って口にしちゃうんですけど、そうすると本人はまんざらでもなさそうにしているんです。「お前にそう言ってもらえると、うれしいわー」とか言って。
──そのパンク精神というのは、つまり現状打破の発想ですよね。
中島 そう。思想の部分ですね。「一度やったことは、もうやる必要ないじゃないか」っていう考え方。人々は『LOVEマシーン2』『LOVEマシーン3』を望んだかもしれないけど、つんく♂さんは絶対に作ろうとしなかった。そこがポイントだと思うんです。
──一般人は「『LOVEマシーン』みたいなパターンの曲をもっと聴きたい」と望むでしょうけどね。
中島 そうかもしれない。でも、「それって前と同じじゃん」って言い出すのも一般の人ですからね。やっぱりクリエイティブな人って、「1ミリでもいいから自分が前に進んでいるか?」ということを考えるものですから。「ブチ壊そう」「先に進もう」「生み出そう」……こういう発想から逃れられないんです。
──匠の技を発揮しながら、職業作家をやっている方も世の中にいます。ヒット曲のコード進行からリズムまで解析したうえ、「売れそうな曲」を提供できるタイプのプロもいるんじゃないでしょうか?
中島 いるでしょうね。もちろん僕はそういう方も尊敬しています。ただ残念ながら、どうしてもその「売れる法則」というのは手垢がついて古くなってしまうものなんですよ。時代というのは変わっていくものですから。もっとも人々が忘れた頃に昔のフォーマットを出すと、一周して新鮮に映るっていうパターンはありますけどね。先ほどのカーディガンズの話みたいに。話を「ハロプロっぽさとは何か?」っていう最初のテーマに戻すと、変わることを恐れない姿勢、現状を壊していこうという気概……そういうパンク精神なのかもしれませんね。
アンジュルム『大器晩成』
なかじま・たくい
1978年10月19日生まれ。1999年にミュージシャンとしてデビュー。現在活動は20年目に突入している。2001年ころより楽曲提供を始め、ハロプロに提供した代表曲に『My Days fo You』(作曲)、『大器晩成』(作詞・作曲)、『次の角を曲がれ』(作詞・作曲)、『GIRLS BE AMBITIOUS』(作詞・作曲)、『就活センセーション』(作詞・作曲)など。
NEW ALBUM『GIRLS LOOK AHEAD』3月27日(水)発売
[CD]
1 『℃maj9』提供アーティスト:℃-ute
2 『My Days for You』提供アーティスト:真野恵里菜
3 『大器晩成』提供アーティスト: アンジュルム
4 『今夜だけ浮かれたかった』提供アーティスト:つばきファクトリー
5 『レディーマーメイド』提供アーティスト:ダイヤレディー
6 『どーだっていいの』提供アーティスト:カントリー・ガールズ
7 『イクジナシ』提供アーティスト:LoVendoЯ
8 『GIRLS BE AMBITIOUS』提供アーティスト:Juice=Juice
9 『スタート』提供アーティスト:THEポッシボー
10『いいんじゃない?』提供アーティスト:LoVendoЯ
11『就活センセーション』提供アーティスト:つばきファクトリー
12『上手く言えない』提供アーティスト:アンジュルム
13『愛・愛・傘』提供アーティスト:Juice=Juice
14『DREAM GIRL』提供アーティスト:Bitter & Sweet
15『相思相愛』提供アーティスト:田中れいな
16『次の角を曲がれ』提供アーティスト:℃-ute
17『一期一会』提供アーティスト:チャオ ベッラ チンクエッティ
18『泣きたくないのに』提供アーティスト:矢島舞美
19『友よ』提供アーティスト:アンジュルム
LIVE
TAKUI NAKAJIMA SPECIAL LIVE 2019~Everybody,Look Ahead Up!!~
5月19日(日)横浜ランドマークホール(神奈川) OPEN16:45 START17:30/OPEN16:45 START17:30