20周年という大きな区切りを超えて、今新たに歩みだした21歳のモーニング娘。
’19。加入当初はまだ幼い少女だった10期、11期のメンバーも今やグループの支柱になっている。加入してから味わった挫折、今まで見送ってきた背中、グループへの想い……。11期メンバー、小田さくらに今改めて、その軌跡を振り返ってもらった。

──6年前、デビューした当時の自分についてどう思いますか

小田 最近たまに思うんですけど、歌に関してはある意味で昔の方が上手かった気がするんですよ。

──いきなり衝撃的な告白ですね。
どういうことですか?

小田 「上手かった」というのは正確じゃないかな。まぁ当たり前だけど、技術的には今の方が成長していますし。当時は本当に何も分かっていなかったですし。だけど何も分かっていなかったからこそ、歌に迷いがなかった。自分の歌に対して無条件に自信があった。自分が下手だということに気づいていない強みですよ。
「私、歌が上手いし。だって歌姫オーディションで受かったんだから」という考え方。もっとも今になると、その「歌姫」という看板が重いなって感じますけど。

──いまだにオーディション時のキャッチを引きずっていますか。

小田 そりゃそうですよ! 「へ~、新メンバーが入ったんだ」っていうのと「新しく歌姫が入ったんだね」っていうのでは、まるで印象が違うじゃないですか。当時はそんなことも気づかずいたけど、今は歌姫という看板を挙げて入った以上、誰よりも歌が上手くなくちゃいけないなと思っています。


──歌唱力に関しては誰もが小田さんのことを認めているはずです。

小田 私、ハロプロ研修生に9カ月くらいしかいなかったんですよ。新人公演も2回しか出ていないですし。それって今の平均からすると、かなり短い方じゃないですか。だから歌やダンスをみっちり練習したっていう感じではなかったんです。ハロプロってリズムに厳しいから、細かいビートの刻み方をマスターさせられるんですよ。
研修期間が少なかったから、そこはモーニング娘。に入ってから相当苦労しましたね。

──小田さんって、たとえばJuice=Juice段原瑠々さんみたいに小さい頃からレッスンを受けていたりしたんですか?

小田 いやいや、まったく。瑠々ちゃんみたいに楽器もできないですし。それどころかカラオケに行ったこともなかったです。私はスマイレージさんのオーディションに落ちてハロプロ研修生になったんですけど、そのオーディションで歌ったPerfumeさんの『Twinkle Snow Powdery Snow』。
あれが私の人生で初めてまともに人前で歌った曲なんです。それまではせいぜい軽い鼻歌くらいでしたから。だから上手いも下手もないですよ。本当に何もやったことがない単なるド素人だったので。

──それで当時のレベルだったら、逆に本物の天才ですよ。

小田 そんなことないですって! 当時の私くらい歌える子はそのへんにゴロゴロしていますし、なんなら今の私くらい歌える子だって山のようにいますから。


──いや、去年10月にやったハロプロ・オールスターズ「チーム対抗歌合戦」を観る限り、絶対ゴロゴロはしていないはずです。

小田 あっ、ご覧になったんですね。高木紗友希さん(Juice=Juice)と一緒に歌った『Everyday Everywhere』(太陽とシスコムーン)を。

──高木さんも最高でしたが、やはり小田さんは本物の歌姫なのだと再確認しました。

小田 高木さんとは比べられることがめちゃくちゃ多いんですけど、私からすると研修生時代から憧れていた先輩ですからね。シンガーとしてタイプが違うし、比べようがないんですよ。「ゴスペルと演歌、どっちがいい?」みたいな話であって。高木さんは高音がすごく出るタイプ。抑揚が大きくて、歌にグルーヴ感がありますし。それに対して私は雰囲気とか世界観を大切にする歌い手。高音は全然出なくて、モーニング娘。の中でも下から数えた方が早いくらいなんです。高木さんとは違うタイプだから相性がよかったのかもしれないですけどね。

──話の時系列を戻します。加入した当時は先輩たちのことをどう見ていたんですか?

小田 ……これは当時の何も分からない子供の意見という前提で聞いてくださいね。あの当時の私は「自分の方が歌が上手いじゃん」と思っていました。完全に思い上がっていましたね。あの頃の自分を殴ってやりたいです(笑)。

──それも当然じゃないですか。ピッチとか外さないわけですし。

小田 確かにピッチは昔から外さない方なんですけど、リズムとかはボロボロでしたよ。つんく♂さんがやりたい音楽とはかけ離れていたんですよね。おそらくつんく♂さんの考える歌の優先順位は「1・心」「2・リズム」「3・個性」とか続いていって、かなり下の方に「音程」という項目があるはずなんです。そこでドヤ顔したところで、「なんなの?」って話になるじゃないですか。とんだ勘違い野郎ですよ(笑)。

──その勘違いが修正されるようになったきっかけはあるんですか?

小田 鞘師(里保)さんが卒業したことが自分の中ではすごく大きかったです。実は鞘師さんってシングルのコーラスをずっとやっていたんですね。鞘師さんがいなくなった次のシングル……つまり『泡沫サタデーナイト!/The Vision/Tokyoという片隅』から私がコーラスをやるようになったんですよ。それでコーラスをやると、インストをすごく集中して聴くようになるんです。コーラスの声が少しでもリズムからズレていると、その曲自体が台なしになるということに気づいたので。ドラ ムやベースを聴きながら、そこと1ミリもズレないように声を重ねていくという作業が大事なんです。

──なるほど。リズムの重要性を思い知ったわけですね。

小田 「何で鞘師さんは、いつも難しいパートを歌わせてもらえるの?」という疑問が自分の中にあったんですけど、答えを言うとリズムが完璧だから。なにせダンスがあれだけ上手い人だから、インストを聴く能力が異常に高いんです。でも、それこそがつんく♂さんの求める歌い手なんですよね。それに加えて鞘師さんの歌は熱かったと思います。普段はのほほんとしてゆるい感じなのに、歌になると急にストイックな鋭さが出てきて。

──今後のことをお伺いします。モーニング娘。はズバリ何を目指していきたいですか?

小田 時代は常に変わっているじゃないですか。テレビに出たからみんなに知ってもらえるというわけでもないし、CDだってあまり買わなくなっている。そういう中で有名な歌番組に出たりとか、オリコン1位を獲ることがゴールになるとは到底思えないんですよ。ましてや今はこうしている間にもコンピューターやAIがすごいスピードで進化しているわけじゃないですか。人間が嫌がるような仕事は全部ロボットがやることになると思うんです。

──ロボットが人間を凌駕するのも時間の問題でしょうね。

小田 私もそう思います。その頃には完璧なピッチで歌いこなすロボットも出てくるでしょうし。じゃあ人間はどうするかっていうと、ロボットが持っていない人間らしさを打ち出していくしかない。泥臭さ、暑苦しさ、剥き出しの感情……。人って他人とまったく同じことができないじゃないですか。その人はその人でしかないんですよ。そういう人間らしさを歌に込めてパフォーマンスできるグループになれたらいいなって思うんです。どんなに完璧なロボット社会になっても、やっぱり女の子が歌うっていう文化は消えてほしくないですし。ちょっと話が壮大すぎますかね(笑)。でも私、本気でそう考えているんですよ。

(『OVERTURE』018号掲載)
▽小田さくら(おだ・さくら)
1999年3月12日生まれ、神奈川県出身。A型。11期メンバーとして2012年9月14日にモーニング娘。に単独加入。