豊作の春アニメの中でも『スキップとローファー』(TOKYO MXほか)は一際まぶしく見れる。石川県から高校進学のために上京した女子高生・岩倉美津未の高校生活を描いた本作。
壮大なバトルが勃発するわけでもなく、いじらしい三角関係が繰り広げられるわけでもない。ただただ何気ない高校生の、何気ない日常が展開されるだけ。それでも各登場人物の心理描写が綿密に表現されており、ついつい引き込まれてしまう。

【写真】原作は100万部を突破した『スキップとローファー』

まず主人公である美津未は青春アニメのわりにかなり地味な見た目をしており、キャピキャピしていないためどこか安心感を覚える。そんな美津未は都内屈指の進学校に主席で入学した才女で、かつ「名門大学に進学して首席で卒業した後は総務省に入る」「定年後は石川県に戻って市長になる」など、高校1年生の段階で壮大な人生設計を考えているしっかり者。

しかし、入学式で吐瀉物をまき散らしたり、自己紹介の際にウケようと思ってジョークを言ったらキンキンにすべったりなど、抜けている部分も少なくない。そのギャップがクラスメイトだけでなく、視聴者に嫌味のない可愛らしい女子高生という印象を与えてくれ、とても好感が持てる。

好感が持てる要因として、モノローグの多さも挙げられる。美津未は「中学校は8人きりだったから、人間関係がこんなに難しいなんて思ってませんでした」「そもそも、なんで私に友達になろうって思ってくれたんだろう」といった、誰もが一度は感じたことのある不安や葛藤を心の声として頻繁に口にする。

そんな“しょうもない本音”を聞かされ、自分なりに悩み抜いて答えを出す姿を何度も見せられるのだから、応援せざるにはいられない。ただ、モノローグは美津未だけではない。各登場人物の心の声がよく聞かれ、それぞれが抱える葛藤が伺える。


地味で内向的な誠が「『私のことダサいとか思ってるんだろうな』って考えたら委縮しちゃうんだもん。急に仲良くなんて無理」と容姿端麗な結月と距離を置く理由を吐露したり、ひねくれた言動が目立つミカが「飛び切りの美人でもなければ、純粋で真っ直ぐにもなれない。私を一体誰が選ぶ?」と過去のトラウマから劣等感ばかりが強くなった自分自身を嫌悪したりなど、それらの声は胸に刺さるものばかり。

とりわけ、5話で美津未とミカが球技大会に向け、体育館で練習しているシーンは心の残る。

ミカが2年生の男子にぶつかれた後、その男子生徒の上履きに書かれている名前を記憶して、自分自身を理不尽に扱った人間の名前を記す“心の許さじノート”に刻もうと憎悪をたぎらせている一方、「あのふくださんって先輩はカッコ良かったよね。バシッと注意してくれて」と2人を助けてくれた先輩への感謝を口にする美津未。そんな美津未に対して、「きっとこういうところだ。私がムカつくやつの名前を2つ覚えている間に、岩倉さんは親切にしてくれた人の名前を1つ覚えるんだ」と引け目を感じる光景は印象的。

自分自身が嫌で嫌で仕方ないけど、それでも他人を恨まずにはいられない、そんな性格がハッキリと映し出され、ミカの人間らしさに触れることができた。

とはいえ、ただただモノローグが多いだけではなく、各登場人物の心境をサクッと提示せず、しっかりと早足にならずに描いている。そのため、学生時代のいい思い出も悪い想いでも、ついつい思い出してしまう心理描写が見事に表現されており、共感しっぱなし。

それでいて、それぞれの悩みを乗り越えて前に進む美津未達はとてもまぶしい。
須田景凪が歌うオープニングテーマ『メロウ』の「眩しくて 眩しくて  僕は目を逸らしてしまう」という歌詞が自分自身の心境に当てはまり、急に恥ずかしさを覚えるほどにキラキラしている。

聡介や結月のモノローグは基本的には見られていないが、今後は見られることだろう。どのような悩みを抱え、どのように乗り越えていくのか、各登場人物の成長を楽しみに待ちたい。

【あわせて読む】『推し武道』映画化、主演・松村沙友理×原作・平尾アウリ対談「漫画を描いてきてよかった」
編集部おすすめ